令和3年司法試験・公法系第1問(憲法)再現答案
憲法の再現答案を上げます。段落改行がガタガタになってるのは許してください… ちなみに、再現答案は某予備校に提出するために作成したものであり、ここに上がっているのと同じ答案が本試験分析会で使われていたりします。書いた本人なので安心してください。
本文
第1 規制①について
規制①は、集団行進の参加者が顔を覆って集団行進を行う自由(以下、「本件自由1」)を侵害し、違憲ではないか。
1 まず、本件自由1は憲法上いかなる条文により保障されるか問題となる。
⑴ この点について、本件自由1を、集団行進に際して自身の容貌を観察・撮影されない自由とみてプライバシー権(憲法13条参照)として保障されるとの見解が考えられる。しかし、公道等で行われることの多い集団行進において自身の容貌を観察されないことが重要な利益として憲法上保障されるとは考えられず、集団行進中にみだりにその容貌を撮影されない自由が憲法13条により保障されるとしても、本件のように犯罪行為に出た者を特定するために予め顔を隠さず参加させることは公共の福祉のための相当な制限として一般に許容され得るため、かかる見解は妥当でない。
⑵ 一方で、顔を隠してデモや集団行進に参加しようとする者の多くは、報道において顔が映る心配がない・就職活動や職場のことを気にせずデモに参加できる等、顔を隠すことにより集団行進等の参加が心理的に容易になっているといえる。そうすると、顔を隠すことと集団行進等への参加には密接な関係があり、本件自由1は集団行進等を行う自由の一態様として保障されると解する。そして、集団行進等を行う自由は、集会の自由としての性質を有し憲法21条1項により保障される。即ち、集団行進は現代社会において情報の「受け手」の地位に固定化された国民が自己の思想を表明する極めて重要な手段であり、集団行進も動く「集会」として憲法21条1項の保障が及ぶ。⑶ 以上より、本件自由1は憲法21条1項により保障される。
2 次に、規制①において何人も集団行進において正当な理由なく顔面を覆う行為を禁止され(法律案骨子第3,1)、これに違反した者は10万円の過料を受ける(同第3,2)ことによりその実効性が担保されており、本件自由1が制約されている。
3⑴ 本件自由1は精神的自由であるところ、精神的自由の制約に対し民主政の過程を通じての回復は困難であること、精神的自由の制約に対する合憲性審査は経済的自由に対するものと比べて裁判所の判断になじむものであるから、精神的自由の制約に対する合憲性審査は経済的自由に対するものよりも厳格になされるべきである(二重の基準)。また、就職活動や職場のことを気にせずデモに参加したいといった主観的理由が「正当な理由」として許容される余地がないと解されることを鑑みると、顔面を覆う行為を禁止する規制①の規制態様は強度である。よって、規制①に対する合憲性の審査は、厳格な基準を用いて行うべきと思える。
⑵ もっとも、規制①は集団行進等の参加者に対し、集団行進を禁止し、あるいは許可要件を加重するものではなく、顔を隠して集団行進等を行うという特定の態様を禁じているに過ぎない。そして、顔を隠しても隠さなくとも集団行進を通じてのメッセージ性には変わりがないはずである。そうすると、表現行為に対する表現内容中立規制と同様、本件における規制は厳格審査よりは緩和された基準を用いるべきとの見解が考えられる。
⑶ しかしながら、かかる見解は採り得ない。即ち、1⑵で述べたように集団行進等を行うに際して顔を隠すことは集団行進に参加したことによる社会的評価を受けることを回避できる点で参加者にとって非常に有用であり、顔を隠すという参加態様は、集団行進等を行う上で極めて重要な態様として集団行進と結びつきうるものといえる。それにもかかわらず、集団行進等に際して顔を隠すことを禁ずることは参加者に対して重大な委縮効果をもたらす。
そうすると、規制①に対する合憲性の審査は厳格な審査基準、即ち①目的が真にやむを得ないものであり、②手段が目的達成のために必要最小限度のものであるかどうかによって判断すると解する。
4⑴ 規制①の目的は、集団行進における公共の安全を害する行為を抑止する点にある(法律案骨子第1参照)。多数人の身体的行動を伴う集団行動においては、参加者が一瞬にして暴徒と化し、勢いの赴くところ実力によって法と秩序を蹂躙する危険を有する(集団暴徒化論、東京都公安条例事件)。また、「公共の安全を害する行為」につき刑法上の保護法益を踏まえた定義付けがなされていること(同第2, 1)を踏まえると、現実に生じ得る明確化された公共危険からの保護という目的は真にやむを得ない重要利益の保護目的と評価できる(①)。
⑵ 一方で、規制①の手段は必要最小限度のものとは評価できない。即ち、覆面や仮面で顔を隠すことによって誰がやっているかわからないという感覚が生じて普段しない犯罪行動に走る面があることが否定できないとしても、立法事実上参加者の大部分は顔を隠しても平穏に集団行進を行っている。また、犯罪行動に至る危険性は上記の集団暴徒化論をはじめ集団行進等そのものが有するものであり、顔を隠す行為が特段その危険を高めているとまではいえない。
そうすると、規制①において暴力的な行為をしている者だけではなく、平穏にデモを行っている多くの参加者まで一律に規制することは過剰な規制であり、かつ前述したとおり規制による集団行進等への委縮効果も重大である。
⑶ したがって、規制①は本件自由1に対する規制として正当化されない。
5 以上より、規制①は本件自由1を制約し、憲法21条1項を侵害するものとして違憲である。
第2 規制②について
規制②は、観察処分を受けた団体が公権力に情報を把握されない自由(以下、「本件自由2」)を侵害し、違憲ではないか。
1 まず、本件自由2は憲法上いかなる条文により保障されるか問題となる。
⑴ この点について、本件自由2は、団体に関する情報のコントロール権として、プライバシー権としての性質を有する。
そして、プライバシー権は憲法13条により保障される。即ち、憲法13条前段は個人の尊厳権利を定めており、同条後段は前段を受けて、個人の人格的生存に不可欠な利益を新しい人権として保障している(人格的利益説)。そして、高度の情報化が進む現代社会において、自己に関する情報が自己の関与しないところで用いられると個人の人格的自律が害されるため、プライバシー権は人格的生存に不可欠な権利である。よって、プライバシー権は憲法13条の保障範囲に含まれ、本件自由2も同条により保障されるとも思える。
⑵ もっとも、本件における報告義務の対象となるのは機関紙のほか、団体が利用しているウェブサイト等誰もが見ることができるようなものであり、SNSの投稿もサービス利用者であれば自由に閲覧できる内容のみが含まれる。そうすると、団体の構成員の氏名・住所やパスワード等の個人識別情報とは異なり、上記の対外的に公表されている情報はプライバシー権の保護が及ばないとする見解が考えられる。
しかしながら、本件では上記の情報を公権力が網羅的に把握し、団体の活動を継続的に観察することから、かかる情報収集を通じて憲法21条1項によっても保障される団体の自律を害するおそれがある。
よって、上記の見解は報告義務の対象となる個々の情報自体にはプライバシー権の保障が及ばないという点では正当であるが、本件自由2は団体に関する情報を公権力に網羅的に把握されない自由として、憲法13条により保障されると解する。
2 次に、規制②において観察処分を受けた団体の代表者は団体の活動として団体の主義主張等を不特定又は多数の者に伝えるために利用している各媒体の情報を1か月ごとにA2庁長官に対して報告しなければならず(法律案骨子第4,2)、報告義務に違反しあるいは虚偽の報告を行った場合には50万円以下の過料を受ける(同第4,4)ことによりその実効性が確保されており、本件自由2が制約されている。
3⑴ 団体による主義主張がA2庁に網羅的に把握され、団体の活動を継続的に観察されることや、必要に応じてA2庁が報告によって得られた各都道府県の公安委員会に提供する(法律案骨子第4,3)ことを踏まえると、団体の上記自由に対する制約の程度は大きく規制②の合憲性は厳格な審査基準の下で判断されるべきとも思える。
⑵ しかし、上記の通り報告義務の対象となっているのは元々団体自身により対外的に公表されている情報である。また、規制②においては報告義務を課すに先立ち団体に対し観察処分を行う(法律案骨子第4,1)ところ、当該団体が「集団行進において公共の安全を害する行為を行っていると認められる団体」に該当するかの判断によって団体の構成員数を含めた全貌についてあらかじめ把握することになる。よって、仮に規制②の下で団体の代表者に報告義務を課さなくてもA2庁や公安委員会は、当該団体の報告義務に係る情報について自ら調査することで容易に入手することができる。
したがって、規制②の制約の程度は極めて小さく、むしろ団体に知られることなくA2庁らが情報を密かに入手するよりも、団体の代表者を通じて報告範囲を明らかにして報告させる点で適正手続(憲法31条)の見地から望ましいといえる。
そうすると、規制②に対しては緩やかな審査基準が妥当する。具体的には、合理性の基準、即ち①目的が正当なものであり、②目的と手段との間に合理的関連性が認められるかについて判断する。
4⑴ 規制②の目的は、公共の安全を害する行為を助長している団体の活動を把握することで、公共の安全を害する行為の実効的な抑止を図る点にある。公共の安全の重要性を踏まえると、このような目的は正当といえる(①)。
⑵ では、規制②の手段が目的との間に合理的関連性があるといえるか。立法事実によれば、公共の安全を害する行為を行い逮捕されている者の半数近くは専ら暴力的な行為を目的として、その都度SNSで仲間を募りデモに参加しており、団体の活動と危険行為が関係していない。また、団体の構成員が公共の安全を害する行為に及んだという意味で団体と公共の安全を害する行為に関係があるとしても、必ずしも団体の主義主張が公共の安全を害する行為を助長しており、その把握により公共の安全を害する行為の抑止につながるとはいえない。よって、本件においては合理的関連性を欠くとも思える。
しかし、規制②の下で公共の安全を害する行為を助長している団体として指定されるものは、公共の安全を害する行為を実際に行い処罰された構成員が全体の10パーセント以上に上るものに限定されるところ、このような団体においては団体全体の性質として公共の安全を害する行為を助長する傾向が存在することは否定できず、またその傾向は主義主張の形で現れる可能性がある。更に、前述の通り、当該団体の主義主張がA2庁に網羅的に把握され、必要に応じて各都道府県の公安委員会に情報が提供されるとしても、これらの情報は元々当該団体が元々対外的に公表しているものであるから、団体の自律性に与える影響は低い。
よって、規制②の目的と手段の間に合理的関連性が認められる(②)。
⑶ したがって、規制②は公共の福祉のための相当な手段といえ、本件自由2に対する規制として正当化される。
5 以上より、規制②は憲法13条を侵害するものではなく合憲である。 以上
所感
・憲法上の権利の選択が難しい問題だと思いました。特に規制2は、13条で論じるべきか21条で論じるべきか迷いました。結局21条に触れつつ13条で書いてしまっていますが、A2庁が情報を公安委員会に提供することに対する評価が難しかったので素直に21条で書けばよかったと思います。
・(9月6日追記)知人が今年の憲法の問題について解説を上げ、私の再現答案に言及していました。
詳細は上記のリンクを参照して頂きたいのですが、規制2をプライバシー権の問題として構成する際には報告対象となる情報につき私事性、秘匿性、非公知性という伝統的な要件充足性を論ずることは困難であり「みだりに自己に係る情報を収集されない権利」としてのプライバシー権侵害を論ずるべき、という見解には非常に納得致しました。試験を終えて再現答案を作った後も、どうして当時GPS捜査の判例が頭をよぎったのか、保障根拠で団体の自律性を論じたのはなぜなのか自分でもよく分からず悩んでいたのですが、おそらくは(無意識に)上記の問題意識に突き当たったためにこのような答案になったのだと思います。
・参考とすべき判例の選択にも悩みました(規制1では公安条例関係、規制2ではアレフの報告義務やGPS捜査の判例が頭をよぎりましたが、特に規制2は判例の着眼点とずれているように感じたため結局引用できませんでした…)
・(6月27日追記)実際の答案からの再現率ですが「おおよそ80%」という認識です。①規制1の当てはめの手段審査、②規制2の違憲審査に緩やかな審査基準が妥当することの理由付け、③規制2の当てはめの手段審査はもう少し文章がまとまっていませんでした。
・(9月11日追記)
行政法に引き続き、憲法の再現答案についてもバベル先生からコメントを頂きました。やや言葉を選んでお褒め頂いている感はありますが(汗)、憲法が苦手で苦手で仕方ないところから「憲法ガール」等を読んで頑張ってきた身としては大変感慨深いものがあります。改めて、お読みいただきありがとうございました。
出題趣旨と再現答案を比べてみると、規制➀に関しては「匿名表現の自由」につき正面から論じることこそできなかったものの、顔を隠して集団行動に参加することが参加者の心理的に重要であることを捉えて規制の萎縮効果を検討できたのは良かったと思います。問題は規制②で、報告義務を課すことが団体自体のプライバシー権を制約するか、その構成員のプライバシー権を制約するのかあるいは双方への制約かの検討を欠いているのは痛いです。また、出題趣旨の最後にはGPS捜査に関する判決が参考になりえる旨が記載されており、「触れておけば良かったなあ」と心から思いました…
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