令和3年司法試験・公法系第2問(行政法)再現答案

続いて行政法です。

本文

第1 設問1⑴
1 取消訴訟の対象となる「処分」(行政事件訴訟法(以下「行訴法」3条2項)とは、公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によって直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められるものをいう。そして、処分性の有無は①公権力性及び②直接的・具体的法効果性の観点から判断される。
2 本件不選定決定は、A市長が本件条例施行規則21条に基づき一方的にBに通知するものであるから①が認められるのは明らかであるところ、本件不選定決定に直接的・具体的法効果性が認められるのかが問題となる。
⑴ 本件不選定決定のような、市長による屋台営業候補者として選定しないことの通知は、屋台営業候補者に公募した者のうち屋台営業候補者に選定されなかった者に対して行われる。
そして、屋台営業候補者の公募は屋台営業候補者の選定を求める行為であり、公募ができる旨本件条例に規定され(25条1項)、公募に関し必要な事項について本件条例の委任を受けた(同条4項)本件条例施行規則が定めている(18条)ことから「法令に基づ」くものといえる。公募に対して屋台営業候補者の選定及び不選定を通知することとされていること(本件条例26条3項、本件条例施行規則21条2項)から「当該行為に対して行政庁が諾否の応答をすべきこととされている」といえる。
よって、屋台営業候補者の公募は「申請」(行政手続法(以下「行手法」)2条3号)に当たり、屋台営業候補者の決定は申請に対する処分、屋台営業候補者として選定しないことの通知も申請拒否処分としてそれぞれ直接的・具体的法効果性が認められるとも思える。
⑵ もっとも、屋台営業候補者の選定は市道占用許可を得るために行われ、屋台営業候補者であることは市道占用許可の要件の一つであるにすぎない(本件条例9条1項2号イ)。そうすると、選定しないことを通知する行為自体は、道路占用許可を受けられなくする効果を持つものではなく、直接的・具体的法効果性を欠くとも思える。
⑶ しかしながら、上記の通り屋台営業候補者であることが道路占用許可の要件となっているという本件条例・本件条例施行規則の仕組みを全体として評価すると、屋台営業候補者に選定されない結果、市道占用許可も受けられなくなるといえる。
 よって、本件不選定決定にはBに対し市道占用許可を受けられない地位を他の行為を経ることなく生じさせる点で直接的・具体的法効果性が認められる(②)。
3 以上より、本件不選定決定は取消訴訟の対象となる処分に当たる。
第2 設問1⑵
1 訴えの利益とは、客観的側面からみて当該訴訟を維持・追行する法律上の利益を指すところ、その存否は、当該処分が取消判決によって除去されるべき法的効果を有しているか、原告に、当該処分を取り消すことによって回復される法的利益が存在するのかという観点から判断される。
2 本件では、A市長によるCへの本件候補者決定が行われているため、本件不選定決定が取り消されても、Bは本件区画につき屋台営業候補者への選定を得ることができず、当該処分を取り消すことによって回復される法的利益を欠き訴えの利益は認められないとも思える。
 しかしながら、BとCは本件区画の屋台営業候補者への選定を巡って競願関係にあるところ、放送局の開発免許に関する昭和43年最判の射程が及ぶといえる。即ち、同判例は、原告に対する拒否処分と、原告の競願関係にある第三者に対する免許付与処分が表裏の関係にあり、原告は当該第三者への免許付与処分を取り消されれば原告に免許が付与される可能性があるという意味で訴えの利益を認めている。本件においても、本件不選定決定が取り消されれば、Cに対する本件候補者決定が誤りとして職権により取り消され、Bを本件区画の屋台営業候補者として選定する可能性があることから、Bには本件不選定決定を取り消すことによって回復される法的利益が認められる。
3 以上より、Bは本件不選定決定の取消しを求める訴えの利益を有する。
第3 設問2
1 市長の選定に係る判断の内容に瑕疵があったこと
  まずBとしては、本件不選定決定の違法事由として①Bの他人名義営業者としての地位への配慮を欠く点、②委員会の審査結果から申合せに基づく点数を差し引いた総合成績に基づいて屋台営業候補者を選定した点で市長の選定に係る判断に認められる裁量権の逸脱・濫用があり、本件不選定決定に違法事由が認められることを主張することが考えられる。
⑴ 市長の選定に係る判断の裁量権について
 本件条例26条1項に基づく市長による屋台営業候補者の選定は、候補者が安全で快適な公共空間及び公衆衛生を確保するか、従来のA市らしい屋台文化を守るとともに、新たな魅力を創出するための創意工夫がみられるかといった多方面にわたる専門的技術的考察や政策的判断を要する。よって、屋台営業候補者の選定に当たっては市長に行政裁量が認められる。
 もっとも、かかる裁量も無限定ではなく、選定の基礎とされた重要な事実に誤認があること等により、重要な事実の基礎を欠くことになる場合や、事実に対する評価が明らかに合理性を欠くこと、判断の過程において考慮すべき事情を考慮しないこと等により、その内容が社会通念に照らして著しく妥当性を欠く場合には、裁量権の逸脱・濫用があり違法となる(行訴法30条)。
⑵ ①について
ア Bとしては、市長が屋台営業候補者の選定にあたってBの他人名義営業者としての地位への配慮を欠いており考慮不尽があると主張することが考えられる。
イ これに対して、A市からは、市道占用許可を受けた者から名義を借りた別の者による営業を認めると、許可が事実上売買の対象となったり、営業者の頻繁な後退により屋台をめぐる諸問題の解決に向けた継続的な話合いが難しくなったりする等の問題があったために本件条例及び本件条例施行規則の制定に至ったのであり、他人の名義を借りた屋台営業は法的な保護に値しないこと、また本件条例の施行から屋台営業候補者の公募が実施されるまでの6か月間他人名義営業の継続を暫定的に認めるという経過措置をとることにより他人名義営業者への保護としては必要十分であることから、屋台営業候補者の選定にあたって他人名義営業者の地位への配慮の必要性はないと反論することが考えられる。
ウ しかし、道路法32条2項は道路の占用の目的・期間や場所等の事情を記載した申請書を提出して道路占用許可を受けることができるとされており、その占有主体の厳格な特定や、途中で占有者が変更しない旨の確約を図っていない。そうすると、屋台営業において他人の名義を借りることは、営業の実績が全て法的な保護に値しなくなるほど悪質な行為とはいえない。
よって、他人名義営業者が長期にわたって平穏な態様で占有を継続している等の事情が認められる場合には、当該他人名義営業者は市道占用許可の更新を期待し得る地位を有し、市長は新たに施行された本件条例に基づく屋台営業候補者の選定にあたってかかる地位へ配慮した判断をする必要があるといえる。
本件では、Bは本件区画で10年以上も屋台営業を行ってきて、A市との間でトラブルもなかった。そうすると、Bは本件区画に係る市道占用許可の更新を期待し得る地位を有し、更新ができず今後営業が続けられなくなると生活の基盤が失われるおそれがある。
エ よって、A市の反論は認められず、Bの他人名義営業者としての地位への配慮を欠いた点で考慮不尽があるといえる。
⑶ ②について
ア Bとしては、屋台営業の実績を考慮して審査を行うという委員会の申合せは合理的であったにもかかわらず、市長が当該申合せに基づく点数を差し引いた点で事実に対する評価の明白な合理性欠如が認められると主張することが考えられる。
 上記の通り他人名義営業車の地位への配慮の必要があること、およびA市との間でトラブルのなかった他人名義営業車は、今後A市の屋台政策への確実な貢献が期待できることから、委員会の申合せは合理的であり、Bの主張は認められるとも思える。
イ しかし、A市としては、委員会の申合せの内容は(ⅰ)本件条例施行規則19条各号の選定基準に照らして是認できず、また(ⅱ)新規に屋台営業を始めようとして公募に応募した者の利益を不当に侵害することになる点で不合理であるから、これを覆し申合せに基づく点数を差し引いて屋台営業候補者を選定しても事実に対する評価の誤りにはならないと反論することが考えられる。
 即ち、本件条例施行規則19条の各号の選定基準には屋台営業の実績について記載されていない(ⅰ)。
 また、本件指針は屋台営業候補者の選定に際し上記選定基準の配転や考慮要素を例示しており、選定に係る裁量基準(行手法2条8号ハ参照)としての性質を有するところ、行手法12条と同内容のA市行政手続条例の規定に基づいて定められ公にされた本件指針は、行政上の便宜のみならず処分に係る判断過程の公正と透明性を確保し、相手方の権利利益の保護に資する。そうすると、行政庁が処分基準の定めと異なる取扱いをした場合、公正・平等な取扱いの要請や、処分内容に係る相手方の信頼保護の観点から、特段の事情がない限り裁量権の逸脱・濫用となる。本件指針は本件条例施行規則19条1号から4号までの各号の審査に25点ずつ配点する100点満点の審査である旨及びその考慮要素を示しており、この点につき新規に屋台営業を始めようとして公募に応募した者の信頼が及んでいる。それにもかかわらず、委員会の申合せの通りに各号の審査で営業実績を踏まえて5点を与える本件指針の運用を行えば、本件指針の記載にない運用を認めることとなり応募者の信頼を害するおそれがあり裁量権の逸脱・濫用となりえる(ⅱ)。
ウ そうすると、②についてはA市の反論が認められ、委員会の審査結果から申合せに基づく点数を差し引いた総合成績に基づいて屋台営業候補者を選定したことは違法事由にならないと解さざるを得ない。
⑷ したがって、市長の選定に係る判断には①の点で裁量権の逸脱・濫用があるため、本件不選定決定には違法事由が認められる。
2 市長が委員会の推薦を覆して選定したこと自体に瑕疵があったこと
⑴ 次にBは、市長が委員会の推薦を覆して選定することは、「A市屋台専門委員会に諮」って屋台営業候補者を選定すると定める本件条例26条1項に反する手続上の瑕疵があり、本件不選定決定は違法であると主張することが考えられる。
 かかる主張に対し、A市としては手続上の瑕疵については瑕疵が処分の結果や内容を左右しうる場合に限り取消事由になるところ、1⑶の通り、委員会の申合せの内容自体が不合理であった以上当該瑕疵は処分の結果を左右するものでないと反論することが考えられる。かかる反論の当否について、手続上の瑕疵の性質と諮問手続規定の趣旨が問題となる。
⑵ まず、手続上の瑕疵について、原則として瑕疵が処分の結果等を左右しうる場合に限って取消事由となる趣旨は、当該瑕疵を取り消したとしても再度同内容の処分が出るのであれば取消事由として認める意味が薄い点にある。しかし、適正手続(憲法31条)の観点からは、手続それ自体の公正さを害する程度の重大な手続的瑕疵がある場合には、例外的に処分の結果の影響いかんを問わず取消事由になると解する。
 そして、本件条例26条1項が、市長が屋台営業候補者を選定するにあたってA市屋台専門委員会に諮問した上で処分することを求める趣旨は、処分の客観的な妥当性と公正を担保する点にあるといえる。そうすると、本件のように委員会の申合せの内容が不合理であると解される場合にも市長は委員会にその旨を告げて再度検討を行うよう要請するべきであり、市長が委員会の推薦を覆して選定することには、本件条例が委員会による諮問を経ることを要求した趣旨に反する重大な瑕疵があるといえる。
⑶ したがって、市長が委員会の推薦を覆して選定したことについて重大な手続上の瑕疵があり、本件不選定決定の内容への影響にかかわらず違法事由が認められる。よって、A市の反論は認められない。
3 したがって、Bは以上の通り本件不選定決定の違法事由を主張すべきである。 以上

所感

・訴訟選択も原告適格の検討もないのは予想外でした(代わりに処分性や訴えの利益の検討があったため、全体としての傾向から外れているわけではないのかもしれません)。設問2は違法事由の構造を捉えるのにかなり苦労しました。

・設問1⑵や設問2の判例参照部分はそれぞれキーワード程度しか覚えていなかったため、やや論理的に無理やりな書き方になってしまったように思います。

・設問1⑴及び設問2は、内容を理解しきれない分とにかく誘導に乗った論述をするよう努力しました。特に設問2は、会議録の最後から2番目のDの発言で違法事由全体の構造につき丁寧に誘導しているように読めたので、これを起点に問題提起等をするよう意識しました。

・終わった後の周囲の様子がただならぬ気配であったため、他の人も設問2等で戸惑ったことが分かり安心しました。「行政法でわからない場合にはとにかく誘導に乗る」ことは事前に決めており、その方針通りに動けた(と当時は思えた)ことにより精神的に落ち着けたと思います。

・(6月27日追記)実際の答案からの再現率ですが「おおよそ75%」という認識です。設問2の大枠と各論点の問題提起・理由と結論は一致するものの、実際の文章はかなり乱れていたと思います。

・(9月11日追記)

 なんと「行政法ガール」「行政法ガールⅡ」「実務解説 行政訴訟」の著者であり、今年の司法試験行政法の解説を法学セミナーでご担当された(下記リンク参照)バベル先生(大島義則先生)に本再現答案を取り上げて頂きました。大変恐縮です… ご評価に見合った得点が取れているか、今更ながら不安になってきました汗
 出題趣旨も出たので自分の答案を振り返ってみると、設問1に関しては概ね誘導に乗り切って出題趣旨の想定通りに書けたように思います。一方で設問2については、再現答案と出題趣旨とで違法事由全体の構造が異なっている(出題趣旨は「➀本件条例の施行の際にBの地位への配慮に欠ける点がなかったか、②委員会の屋台営業候補者の推薦に係る判断に瑕疵はなかったか…という問題の検討が求められる」(4頁)としていますが、私は(ⅰ)市長の選定に係る判断の内容の瑕疵(裁量権の逸脱・濫用)と(ⅱ)市長が委員会の推薦を覆して選定したこと自体の瑕疵(手続上の違法)に分け、出題趣旨の②の問題を(ⅰ)(ⅱ)に分離させている)ので、②の問題につきどこまで評価されたかが気になります。




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