分野別実務修習で役立つ書籍【民事編】(9/18追記)

修習が始まってバタバタしていたこともあり,2か月以上間を空けての更新となります…汗 ここから更新ペースを元に戻していきたいところです。
今回は個別の書籍の読了報告ではなく,来週以降の分野別実務修習に役立つと思われるものを民事系,刑事系に分けていくつか紹介したいと思います。修習で有用な書籍については白表紙をはじめ,それ以外のものについても教官や先輩修習生の皆様によって色々発信されています(以下,修習中に読むべき書籍が書かれている先輩方のブログを挙げておきます)が,まだ何を読めば良いのか分からない方の参考になれば幸いです。

なお,今回紹介する書籍はどれもまだ軽く目を通した程度であり,修習に役立てることができるかは私自身にとっても未知数です。そのため,修習を経ての使用感も追記していきたいと思います。また,読者の皆さんの方からお勧めしたい書籍がございましたら,是非ご紹介頂けると幸いです(noteにコメント機能を付けられていないので,twitterを通じてお願いします)。

(追記)分野別修習が終わった時点までの使用感を加筆しました。といっても、蓋を開けてみれば「元々挙げていた書籍の大部分を修習中に読まなかった」という体たらくですが、逆に修習中に何度か読む機会があったため追加した書籍もあります。76期以降の修習生の方々の参考になれば幸いです。

村田渉=山野目章夫編著「要件事実論30講 第4版」(弘文堂,2018)

要件事実についての解説兼演習書として鉄板です。要件事実の演習書で似たような書籍としては大島眞一「完全講義 民事裁判実務の基礎」岡口基一「要件事実問題集」がありますが,要件事実論30講はこれらと比べても問題数が多く掲載されており,自習に適しています。

・要件事実の記載例としては白表紙の新問研や類型別,「事実摘示記載例集」も参考になりますが,これらの書籍は例示のパターンがあまり多くないため,上記の演習書を用いて要件事実の具体的な書きぶりを確認することは有益だと思われます。

(追記)導入修習前に一通り読んでからは全く使いませんでしたね… 理由としては、修習を通じて要件事実の問題に直面することがあまりなかったことが大きいです(ただこれは民事裁判修習や弁護修習で扱う事件次第らしく、他の配属先の同期は要件事実で悩む機会があったと言っていました)。

土屋文昭=林通晴編「ステップアップ民事事実認定 第2版」(有斐閣,2019)

民事事実認定の解説兼演習書です。民事裁判の教官経験者らが執筆したこともあり,第1部の解説編では白表紙の「事例で考える民事事実認定」(ジレカン)を非常に意識した書きぶりとなっています。ジレカンとは異なるのは全体を通じ講義調であることで,ジレカンの対話式での解説になじめない方には特にお勧めしたいです。

・第2部の演習問題編では,合計16の事件について争点が認められるかを検討していきます。「売主はXなのか,それともAなのか」というどこかで見たような問題から,黙示の意思表示による売買契約の成否,不法行為(インターネット上の名誉毀損)の成否など多様な争点について,主張の分析,争点の設定や証拠の評価などを丁寧に解説しており,実務修習で類似の事案に当たった際には非常に参考になりそうです。

(追記)こちらも、修習に入ってからは全く読んだ記憶がありません… 事実認定起案は要件事実とは異なり、民事裁判修習や即日起案でしばしば取り組んでいましたが、ジレカンの内容を一通り頭に入れておけば何とかなります。「任官志望のため、即日起案で必ずA評価を取りたい」等、事実認定起案への意識が相当高い人以外は優先して買う必要はないように思います。

圓道至剛「企業法務のための民事訴訟の実務解説 第2版」(第一法規,2019)

民事訴訟実務の解説本であり,「民事訴訟実務の『暗黙知』を明文化して解説する」というコンセプトの下,訴訟の流れに沿って必要な手続や留意点が丁寧に解説されています。特に訴え提起前における弁護士の活動内容については解説する書籍が少ない中で,この本は法律相談における依頼者への対応の在り方や紛争解決方法の選択,保全処分・証拠保全の検討などが詳しく説明されており,弁護修習に際して非常に重宝するのではないかと思っています。また,この著者は「若手弁護士のための民事裁判実務の留意点」という本も執筆しており,こちらも参考になりそうです。

・民事裁判やその前段階で使用する書式のサンプルが多数掲載されているのも特徴です。白表紙の各種教材記録も参考になりますが,民事保全や執行にかかわる書面等も余さず載っている本書を参照する機会は多いと思います。

(追記)上2冊と異なり、この本は弁護修習を中心にちょいちょい読んだ記憶があります。「弁護士会照会を検討する場合の留意点」「潜在的被告から相談があった場合の対応の指針」等、弁護修習中に遭遇した様々な場面における、弁護士の一般的な考え方を知る上で非常に参考になりました。

裁判所職員総合研修所監修「書記官実務を中心とした和解条項に関する実証的研究 補訂版・和解条項記載例集」(法曹会,2010)

※本書は他の書籍と異なり一般に販売されておりません。今年度の購入方法については既に司法研修所から通知されておりますので,そちらを参照しご購入ください。

和解条項の解説,和解条項記載例の一覧として非常に有用です。民裁や弁護修習で和解条項の起案課題が出された場合,この本に当たれば大体何とかなるんじゃないかと思っています。新問研やジレカンと同じA5サイズで嵩張らず,値段もここまで挙げてきた書籍と比べ安いので,とりあえずこの本は購入しておくことを強くお勧めします

・第1章は「和解条項の概要」として和解条項の意義やその類型,作成にあたっての注意事項について説明しています。そして第2章の「各種事件の和解条項記載例」は,きわめて多岐にわたる事件について和解条項の具体的な記載例を列挙しています。和解条項の数に比して索引がやや粗いのが難点ですが,慣れれば記載例を容易に参照できるようになると信じています。

・(追記)この本は導入修習で和解条項を起案する際に使ったのが中心で、民事裁判修習の和解条項起案においても軽く読んだかどうかといった程度なのですが、弁護修習中に事務所の先生にこの本を買うよう強く勧められた(曰く、「持っておいて損はない」)ので、買った方がいいと思います。

(追加書籍)松本 哲泓「〔改訂版〕婚姻費用・養育費の算定 -裁判官の視点にみる算定の実務-」(新日本法規、2020)

婚姻費用・養育費に関する算定実務について、非常に詳しくまとまっている本です。弁護修習中に何度か婚費算定をする場面があったので、算定における考え方を確認するためにしばしば参照しました。

・婚姻費用や養育費の算定基準としては「標準算定方式」が一般に用いられており、インターネット上で夫婦の総収入等を入力することにより簡単に算出することが可能ですが、①算出基礎に関する問題(例として、「給与所得者・自営業者の総収入はそれぞれ何によって認定するか」「どのような場合に賃金センサスによって収入を認定できるか」等)、②算定基準に関する問題(例として、「義務者が生活保護を受給している場合、婚姻費用や養育費の分担は免除されるか」「義務者も子を養育している場合、婚姻費用や養育費はどのように算定されるか」)など、標準算定方式を扱う上での問題は少なくありません。婚姻費用や養育費の算定については修習生の多くにとってなじみのない分野と思われるので、必ず購入すべきとまでは言えないものの事務所にある場合には一読されることをお勧めします。

(追加書籍)阿部・井窪・片山法律事務所編「契約書作成の実務と書式-企業実務家視点の雛形とその解説- 第2版」(有斐閣、2019)

実務上重要な契約類型について、雛形及び各条項の解説本となります。弁護修習中に「業務委託契約書」「使用権設定契約書」といった契約書のレビュー起案をする機会があったのですが、この本が非常に役立ちました。

・契約書作成・レビューにおいては当該契約類型に対する知識のみならず、それを「契約書」の形にするうえで重要な条項や体裁についての知識が不可欠であるように思われます。本書は様々な契約について望ましい契約書の雛形を示すとともに各条項の法律的意味が解説されており、これまで生の契約書に触れたことのない修習生にとっても各条項の意義を理解する助けになることでしょう。少々値は張りますが、企業法務を扱う法律事務所に配属された修習生は購入を検討してみてもいいかもしれません。


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