人生を変えた‥とまではいかないけど、僕の音楽観を大きく変えたキリンジの「3」

キリンジ。1998年にデビューした堀込兄弟によるバンド。兄の高樹も弟の泰行も優れたソングライターであり、リードボーカルを務める泰行の伸びのある声は宝物と言っても良いと思う。

2013年に惜しまれながら泰行が脱退、高樹はメンバーを迎え入れKIRINJIと英語表記に変えてバンドを守り続け、泰行はソロで活動中。袂を分かった今も二人とも優れた音楽を続ける(ちなみに不仲による脱退などではない)

そんなキリンジが2000年に出した3枚目のアルバム「3」は大名盤である。彼らのアルバムでは群を抜いて人気があると思うし、僕もいちばん好きなアルバムです。

そしてこのアルバムは僕の音楽観を大きく変えたと言っても良い1枚なのです。

キリンジを初めて聴いたのは中学生の頃。ラジオから流れてきた「ムラサキ☆サンセット」という曲を聴いたのが出会い。これは2001年に出た4枚目のアルバム「FINE」のリードトラックで、「3」よりも後に出た曲である。

当時の僕は邦楽だと、くるり、中村一義、スーパーカー、GRAPEVINE、THEE MICHELLE GUN ELEPHANT、BRAHMAN、Hi-STANDARDあたりに夢中だった。当時はロック以外の音楽にほぼ興味がなかったので、ラジオから流れてきたキリンジの曲も(印象には残りつつも)軽く流していた。しかしこの時の印象が後に効いてくる。

キリンジの「3」を聴いたのは、それからもっとあと。2009年か2010年。この頃は軽くロック以外も聴くようになっており、キリンジを受け入れる土壌は出来上がっていた。

確か、はっぴいえんどやムーンライダーズに影響を受けている音楽‥みたいな文章を読んだときにキリンジの名前があって「あっ、キリンジってよく名前を聞くなあ‥そういえば昔にラジオかなんかで妙に耳に残る曲を歌っていたような‥」と思い出し、CDショップにキリンジを買いに行った。

買いに行ったCDショップには、中学生の頃にラジオで聴いたあの曲が入ったお目当てのアルバムは売っていなかった。しかし代わりに目に入ったのがこれ。

画像1



??!!!!


なんじゃこのオイリーなジャケットは。衝撃を受けた。この人たち、アルバムを売る気があるのか‥などと思った。しかし何故か心惹かれたので、このアルバムを迷わず買った。


家に帰り、CDを聴いた僕はまたしても

??!!!!

となったのであった。


衝撃を受けた。優れた曲、アレンジ、ボーカル。どこを取ってもどこを切っても最高のポップス。ロック以外も聴くようになり、洋邦問わずに少しポップスは聴いていたものの、ここまでガツンとくるものはなかった。 所謂ポップな音楽は好きだったけど、それはあくまでロックのフィールドの中の話だった。


でもキリンジの3を初めて聴いたとき、自分の中の音楽観がガラッと変わってしまった。ポップスの素晴らしさ。日本のニューミュージック、シティポップというものを創成期に原体験して、のめり込んだ人もこんな気持ちだったのか‥と思ったほど。

それから急いでキリンジのアルバムを全て集めて(当時は7枚目の「7」まで出ていた)、ライブのチケットを取ってライブに行った。そこから大貫妙子や、シングル曲しか聴いたことがなかったキンモクセイ(彼らは好きな音楽にキリンジを挙げていた)、ユーミンのアルバム、さらにキリンジが大きな影響を受けたスティーリー・ダンなどを聴くようになり、一気にポップスの坩堝へと僕は吸い込まれたのである。

それくらい魔力に満ちたポップスの最高峰のアルバムだと思う。このアルバムが2000年に出たというのも意味深い。今でもこのアルバムは大きな影響力を持っている。それはもちろん音楽界だけではなく、僕の中の音楽観への影響力でもある‥。


以下、軽く曲解説。


1.グッデイ・グッバイ

作詞:堀込泰行 作曲:キリンジ

トップを飾るのは弟の書いた御陽気ソング。作曲がキリンジ名義なのは、前作の「47'45"」に入っている「牡牛座ラプソディ」で、兄が弟の作った曲のAメロだけを使ったことへの意趣返し(笑)で、兄が昔作った曲のAメロを泰行がアレンジしてそこにサビをつけて、更に「地下鉄は〜」から始まる、大サビを兄が付け加えて出来た曲(ちなみにここを歌っているのは兄)

陽気なニートソング。サニーデイ・サービスの「恋におちたら」の「誰かと話したくて、僕は外へ出るんだ」を大きく広げたような感じ。サビで「誰かさあ僕と!話さないか!」と歌うのが微笑ましい。

2.イカロスの末裔

作詞作曲:堀込高樹

印象的なギターから始まるポップスナンバー。ストリングスとブラスも入った豪華なサウンドで、ソウル?ディスコ?なウキウキするリズムで聴いていると自然と体が動く。しかし、歌詞がとても不気味。これなんのこと歌ってるんだ?ファンの間でもよく議論になる曲。飛行機の中での良からぬパーティ?あの有名な蝋の翼を持つイカロスは最後どうなった?その末裔ということは‥‥‥?

3.アルカディア

作詞作曲:堀込泰行

前曲とは打って変わり、硬派でシリアスな雰囲気の曲。フルートとところどころ入るギターが印象的。この曲のサビのメロディがとにかく好き。サビの「永久と刹那のカフェオレ」という歌詞に当時とても衝撃を受けた。ヨーロッパの映画のような雰囲気のPVも好き。

4.車と女

作詞:加藤丈文 作曲:堀込高樹

作詞は兄のナムコ時代(兄はキリンジのデビュー前、ナムコの社員でした)の仕事仲間、加藤 丈文。またの名を「かせきさいだぁ」。なんともドラマチックな展開の曲で引き込まれる。途中のダバダバ〜というスキャットが好き。キリンジってポップスだけど、けっこう打ち込みを使ってるんですよね。それが当時の僕には新鮮だった。映画のごとく決めるぜ!

5.悪玉

作詞作曲:堀込高樹

作中では悪玉(ヒール)と歌われています。兄と弟が掛け合いで歌う、大人気ナンバー。息子のため、自分のために、負けるべき試合に勝ってしまう悪役レスラーがテーマの曲。とにかくストーリーが面白く、兄と弟が交互に歌う展開も楽しい。悪役レスラーの悲哀と一大決心。是非、歌詞を見ながら聴いて欲しい。弟脱退前のラストライブで最後に歌われた曲。

マイクよこせ、はやく!!!!


6.エイリアンズ

作詞作曲:堀込泰行

キリンジといえば‥な曲。もはや説明不要。様々なアーティストにカバーされたキリンジの代名詞。とにかく聴いてください。僕はこの曲を比喩ではなく何千回と聴いているでしょう。「仮面のようなスポーツカーが火を吐いた」という歌詞が印象的。出だしは歌詞カードには「旅客機」と書いてあるんだけど、実際には「ボーイング」と歌っている。これに痺れた。そしてボーイングが旅客機のことであることを知った。

7.Shurrasco ver.3

作曲:堀込高樹

インタールード的なインスト。当時のキリンジはよくこういう箸休め的なインストを挟んでいました。エイリアンズまでがA面、このインストからがB面って感じですかね。このアルバムはA面、B面的なものを意識して作ったそうなので、一度リセットするという意味合いもあるのかな。

8.むすんでひらいて

作詞作曲:堀込泰行

スティーリーダンの「リキの電話」のイントロをまんま引用した冒頭。なんともダウナーな怪しい曲で、これまた何の事を歌っているのかわからない。初めて聴いたとき、怖い!と思った。こういう怪しいのを書くのは兄のイメージがあるけど、弟の曲です。チュチュルリリルルラーみたいな怪しげなコーラスが耳に残る。

9.君の胸に抱かれたい

作詞作曲:堀込高樹

このアルバムの中ではいちばんストレートなラブソング。しかし歌詞にどことなく「ヤバい」感じがある気もする。ストーカー気質的な‥。弟の爽やかさで見事にコーティングしているというか‥(笑)実際、兄は「これは俺が歌うわけにはいかない」と言っていた。ファンの間でゲーム音楽っぽいメロディと言われたりする。やはり兄がナムコでゲーム音楽を作っていたからだろうか。ちなみにPVがトチ狂っていることで有名。

追記:サビの「愛されんだ」は「I Surrender」のダブルミーニングで、最後の「負けたよ」ともかかっている‥という考察を読んで「おおおお!」となりました。

10.あの世で罰を受けるほど

作詞作曲:堀込泰行

アルバムでいちばんロックンロールしてる曲。ロックじゃなくてロックンロール。歌の中でもロッケンロール!って歌ってるしね。牧師が女吸血鬼に恋してしまうというこれまた独特のテーマ!(笑)ブラックなユーモア全開の楽しい曲。ライブですごく盛り上がる。キリンジ全体で見てもかなりノリノリ(死語)なナンバー。

11.メスとコスメ

作詞作曲:堀込高樹

初の兄の全編リードボーカル曲。前2曲から一転、怪しげなムードの曲。整形がテーマ。主人公は独特なひねくれたことを言いつつ、恋人の整形をしっかり受け入れております。確かにこれは弟が歌う雰囲気じゃない。兄が歌ってこそ完成した、という感じ。

12.サイレンの歌

作詞作曲:堀込泰行

どことなくセンチメンタルでノスタルジーなバラード。ピアノの弾き語りで始まり、徐々にコーラスや他の演奏が入ってきて、壮大になっていく。どことなくサニーデイ・サービスの「24時のブルース」と似たものを感じる。エイリアンズもそうだけど、東京の外れ‥埼玉とかのあたりのイメージの曲。夕陽の中をこれを聴きながら歩くのが最高です。

13.千年紀末に降る雪は

作詞作曲:堀込高樹

アルバムのラストを飾るナンバー。2000年にリリースされた曲、という感じがよく出ているタイトル。曲のテーマはサンタクロース。サンタクロースを「哀れみ・憐れみ」という目線で描いた曲。サンタクロースを「悲しげな善意の使者」「赤いオニが来たよと洒落てみるが」「歩行者天国、そこはソリなんて無理」「君の暖炉の火を守る人はいない」なんて表する曲が他にあるだろうか。とにかく大好きな曲。ドラマチックで、悲しくて、でもどこかユーモアがあって。アルバムのラスト、20世紀のラストを飾るに相応しい曲。


以上、13曲です。これからもずっと聴くだろうアルバムです。ていうか、今から聴こうかな!

キリンジは僕にとって本当に特別なバンド。弟の脱退から7年以上が経つのに、今でもその事実を受け入れられていない自分がいる。でもKIRINJIも好きだし、泰行のソロも好き。やっぱり彼らの作る音楽が大好きなんですよね。この「3」から自分の中の世界が拡がった。

あんなオイリーなジャケットにしてくれてありがとう。未だにあのジャケットの意味わかんないけど‥(笑)


追記:PVがあるやつは貼っておきます。全部、公式のやつです、




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