クラクションとサイレン

海のある街に育った私は
波音だけが聴こえない。
夜が堕ちた砂の上は
間際の声を並べて攫われ続けているだけ。

事実と結果だけを突き付けられる人生。
産声を上げた側から塞がれていくのと同じ。

引きづられる流木が月明りに浮かべば
溺れる赤ん坊の手に見えた。
夜に向かう波に紛れて
私だけを誘う声が聴こえ続けている。

目が覚めても闇の中。
産声がもう聴こえない。

握り締めてた筈の赤ん坊の手が月明りに消えた。
砂の様に綺麗な足跡を付けて生命に刻む。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?