本のある空間が生み出すもの

子どもの頃、本好きの父親についてよく図書館に行っていた。

その頃よく読んでいたのは、妖精の話や、魔女や魔法使いが出てくる本が多かった。

小学校低学年の頃は、魔法って本当にあるんじゃないかとか、空ももしかしたら飛べるかもしれないと本当に思っていた。

特に空を飛ぶことに関しては、結構練習した。風が強い日なんかは絶好のチャンスだった。傘をさして、追い風をまち、ビューンと吹いてきた瞬間を逃さず軽くジャンプする。するとフワッと体が浮いていつもよりずっと楽に前に進んでいる。

まさに「空を飛んでいる」と感じて、ワクワクしていたのを今でもはっきりと覚えている。

子どもの足で片道1時間ほどかかる、山の上にある小学校だったので、幼い私の想像はどんどん膨らんだ。

通学路沿いにある赤い鳥居からずっと上まで続く階段を登っていくと、森の中に繋がっていて、そこを通ると当然家までは遠回りになるのだけれど、「近道」だと言っていた。

その森の中の道には、ぶら下がれるツルや白い蛇のように見える木があったり、キウイや金柑のなっている木があったり、小さな川もあってそこには魚がいる。本の中の不思議な世界を冒険しているような、私の好奇心をかきたてるキラキラした場所だった。


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そうそう話がずれてしまったが、私は本のある空間が好きだ。
図書館、本屋、ブックカフェなど、時間が許すなら何時間でも過ごしてしまう。

その中でも、図書館は特に好きだ。

図書館に入った時のあのシンとした感じや、足に踏む絨毯の感触、そこにいる人たちがそれぞれに集中している様子や、自分の知らない色々が無数に並んでいる書架。

その空間自体がとても好きだ。


先日本屋で手に取った、「日本の最も美しい図書館」という本。

歴史的な建物を今も使い続けているレトロ図書館からモダニズム図書館、最新の図書館など日本全国の様々な美しさを持つ図書館が取り上げられている。
写真が多く使われており、それぞれの図書館の特徴や歴史などが説明されている。ひとえに図書館と言っても、その空間の使い方によって受ける印象が全く異なっていた。

この図書館だったらこんな本が読みたいな、とか、この図書館のこのスペースでゆっくり本が読めたら居心地がいいだろうな、とか考えるとワクワクした。

この本を見ながら、旅の目的に「図書館」があってもいいなと強く感じた。


もう一冊、気になって読んだ本がこちら。

これからの時代に求められる公共図書館とはどのような場所か。
様々な図書館計画に関わってきた著者が考える私がほしい図書館や、運営方法、企画、建物、内装など、海外での事例についても書かれている。

これまで、「無料で好きなだけ本を読んだり借りたりする事ができるありがたい場所」というなんとも薄っぺらい考えしか持ち合わせていなかった私だが、この本を読むと、図書館には様々な社会的役割があり、「孤立」が課題となる現代社会における「人の居場所」であるという認識も生まれた。
老若男女、見ず知らずの様々な人が行き交う場所であり、そこに何らかの交流が生まれることもある。
本を読むだけではない、多目的な開かれた「知の広場」としての図書館像に触れる事ができた。

市民活動の核になるような、新しい時代の図書館。
こんな図書館があったらいいなと想像が膨らんだ。


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今の時代、図書館に行かずとも電子書籍やネット通販など、自宅にいながら本を手にする手段はいくらでもあるし、今後も益々便利さが求められるのだろう。

ただ、図書館という空間によって生み出される一つの世界があると私は感じる。
それは、自分の知らない世界・自分の知らない時代・自分の知らない人々が作り出した本に囲まれ、その地域の様々な人々が行き交う、静であり動の世界だ。

私たちが生活している日常とその世界を繋ぐ場所、それが図書館という空間ではないだろうか。


これから益々便利になっていくであろう私達の生活。
その時に、便利さだけで何かを選ぶのではなく、自分や自分の周りの大切な人たちの心を豊かにしてくれるものとは何かを日々考えながら暮らしていきたいと思う。


そしてこれからの図書館は更に私達の生活を豊かにしてくれる空間になっていくのではないかと私の想像は膨らむ。




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