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【書評】GAFA×BATH 米中メガテックの競争戦略

<本の概要>

元経営コンサルタントの著者がGAFA・BATHの計8社を分析・比較した本。各社の事業やビジネスモデルについて分かりやすく説明した上で、現状置かれている状況、経営者・戦略の特徴、目指している方向性などについても言及。その上で、今後の将来予測などについても著者なりの意見が盛り込まれている、

<この本を読んだきっかけ>

BATHの実態ついて学ぼうと思った。既にGAFAについてはいくつかのビジネス書を読み、各社のビジネスモデルや実態についても一定知ることができた。今後の世界を考える上では中国メガ企業を抜きには語れないと思うので、教養として全体感を知っておきたかった。

<各社の特徴>

本書ではGAFA・BATHの計8社を以下のように分類・比較している。

・Eコマースからスタートした「アマゾン×アリババ」
・メーカー(ものづくり)からスタートした「アップル×ファーウェイ」
・SNSからスタートした「フェイスブック×テンセント」
・検索サービスからスタートした「グーグル×バイドゥ」

筆者の分析の中で特に記憶に残った点を要約し、個人的なコメントを添えるたものを企業別にまとめさせていただいた。

①アマゾン

Eコマースだけでなく、物流・クラウドコンピューティング・金融サービスなども手掛ける、まさに”エブリシングカンパニー”。営業利益率はGAFAで最も低いが、その分長期的な成長に向けての投資を積極的に行っている。宇宙ビジネスの展開も視野に入れていることからも分かる通り、非常に長期的な目線で経営をしている。
会社の基盤にあるのは「顧客第一主義」の考え方。逆に言えば顧客のためになることなら何でもやる会社、という印象を受ける。
→(個人感想)ジェフ・ベゾスがすごすぎるので、この人が指揮を取る限りは当面成長し続けそう。


②アリババ

アマゾンにも劣らる総合起業で幅広いビジネスを展開。特にリアル×オンラインの融合や、金融サービスという点ではアマゾンをも凌駕しており、21世紀を代表するメガ企業なのは間違えない。
ビジョンとして「中国をより良くしたい」「社会問題をインフラで解決したい」という価値観を掲げており、創業者ジャック・マーの思想が大きく反映されている。当人は2018年で退任を表明。この後の進路はまだ未知数。
→(個人感想)独占禁止法違反容疑で立件されるなど、昨今は逆風に立たされている。やはりジャック・マーの離脱は大きく影響しそう。

③アップル

異常なまでに利益率が高い製品を武器に、世界で始めて時価総額1兆ドル企業になった。ブランド力という意味ではGAFAの中でもズバ抜けており、創業者のスティーブ・ジョブズは勿論のこと、現在のCEOティム・クックも稀有な経営者。IOSという巨大プラットフォームを抑えているのはやはり強い。
8社の中で唯一、個人データをビジネスに利活用しないことを明言している。個人情報保護という観点が推し進められる中、そこは再評価されるのではないか。
現在最も注力しているのが、AppleWatch等を活用してのヘルスケア領域におけるプラットフォーム形成。成功するとまた1つ革命が起きるのではないか。
→(個人感想)発売当初はあまり評判の良くなかったAppleWatchが、今後の命運を分けることになるとは…

④ファーウェイ

主力製品がのスマホや通信基地局であることからも分かる通り、ハードウェア製品を作るものづくり企業。「情報サービス業には永久に参入しない」と明言しており、OSやアプリのプラットフォームには手を出さず、製品で勝負しているのが8社の中で異例な特徴。5Gの基地局を握ることで覇権を狙いに行っているが、中国の軍部や情報機関との繋がりが深いという黒い噂が囁かれている。結果、アメリカを中心とした一部先進国からの「締め出し」の制裁を受けており、かなりの逆風が吹いている。
→(個人感想)米中IT戦争被害者。製品力は非常に定評があるが、ものづくりに拘りすぎていることが企業の成長の足かせにもなってそう。

⑤フェイスブック

コミュニケーション・ツールの覇者。「人々がより身近になるような世界の実現」というミッションのもと、多くの人をプラットフォーム上に集めることでデータを収集し、最適化した広告で稼ぐという会社。ユーザーのデータをフルで活用するので、企業のマーケティング担当にとって見れば非常に有効なツールである。一方でプライバシーの配慮と言った観点から、昨今では名指しで批判も集まっている。
現在特に力をいれているにはVR・ARへの投資。実現すれば広告に続く新しい収益源になる可能性も大きくある。
→(個人感想)個人情報規制により相当厳しくなると考えられる。コミュニケーション・ツールということでGAFAの他のサービスよりも切り替えが容易なのではないかと感じている。

⑥テンセント

SNS企業から始まったが、今やアマゾンやアリババに並ぶほどの総合企業で幅広いサービスを展開。LINEのようなチャットサービス、Facebookのようなブログや写真を共有できるサービス、GメールのようなPC向けのメールサービスなど全てのコミュニケーションツールを抑えている。しかも大半の中国人が利用している点で顧客の囲い込み方が圧倒的。特に会社の看板となっているアプリ「ウィーチャット」はOSとしても機能も備わっており、もはやただの連絡ツールでは収まらない化物サービスになっている。
コミュニケーションアプリでの囲い込みを発展させ、より幅広いプラットフォームでの覇権を狙っている。
→(個人感想)中国最強企業。アマゾン並び今後の世界の中心となりそうだ。

⑦グーグル

稀有のAI企業。基幹事業である検索サービスだけでなく、音声AIや自動運転といった領域でも非常に高い技術を誇っており、AIに関する技術力という点ではGAFAの中でも特に優位性が高い。
「社員が働きやすい会社」を志向しており、組織づくりや社内研修などにも非常に定評がある。チームワークや他社への愛情といった価値観も非常に重視しており、それが昨今の企業成長を大きく支えている。
現在の収益は大半が広告関連であるが、上述の音声領域・自動運転などでのプラットフォームを築き上げることで、将来的には大きく変貌を遂げるかもしれない。
→(個人感想)従業員からしたら最高の企業かと。読んでいてファンになりかけた。安定して成長し続けそうだ。

⑧バイドゥ

文字通り「中国版のグーグル」。類似サービスを多数輩出しグーグルのいない中国市場においては一人勝ちだが、現状は「グーグルのサービスを模倣しているだけ」とも揶揄されている。
アリババ・テンセントに比べると時価総額も8分の1程度で後塵を拝しているが、目指すべき方向性やビジョンが不鮮明なことに要因があるのではないか。
起死回生をかけているのが、中国政府から国策として受託した自動運転事業。既に国内では自動運転バスを走らせるなど大きな成果をあげており、このプラットフォームが会社の命運を分けることになりそうだ。
→(個人感想)超優秀な経営者がでてきたら化けそう。ミッション・ビジョンの重要性を再認識させられる。

<読書後の感想>

・著者の分析が非常にわかりやすく。本としても読みやすい。各社について「どんな事業をやっている会社で」「現状置かれている状況はどうで」「経営者はどんな人で」「今後どういった方向性を目指しているか」がよく分かる。中でも特に秀逸なのが「各社が目指している方向性」を中心に添えた上で話を展開していること。それによって会社ごとの価値観の違いや今後の展開などが非常にイメージしやすい。GAFAやBATHと一括に呼ばれているが、経営者によって会社の特徴は大きく変わるということを知れて勉強になった。

・BATHと4社並列で語られているが、アリババ・テンセント/ファーウェイ・バイドゥの間にはだいぶ壁があるなと感じた。現状ではプラットフォーム事業が最も強力なビジネスモデルであることを再認識。プラットフォームを介してどれだけ巨大なエコシステムを形成できているかが、会社の時価総額にも反映されている。

・「個人情報への配慮」が2020年代の大きなキーワードになりそうだなということ。EUで検討されているのデジタル課税などはニュース等で聞いても「そうなんだ」くらいの気持ちで捉えていたが、今後の世界を占う一大施策であることが本書を読むことで理解できた。今では確固たる地位を築いているGAFAも将来は安泰ではないという点は非常に面白い。


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