見出し画像

さくさく読めるプロ野球ユニフォーム史概略 #3 阪神編

 第3回でございます。気づけば前回の投稿から1ヶ月。まあギリギリ許容範囲でしょう。色々気になるところがあって調べたのもあるし。

 さて、そんな今回のテーマは阪神タイガースです。読売ジャイアンツに続く伝統球団をここで持ってきました。その巨人がまだとかそういう苦情は全面的に甘受するので、よければ最後まで読んでご意見、ご感想、異論反論、誹謗中傷など頂ければ幸いです。

 記事の最後に付記している通り、今回も記事に直接ユニフォームの画像を使用することはしません。しかし今回は、Twitterで大変お世話になっており、シェアリングエコノミーに関する記事(リンク貼っておくので読んでね)のテーマ発案もして下さったARAさん(@arai_san_28)が、ありがたいことに球団公式のユニフォーム紹介サイトを探してきて下さったので、こちらのリンクを貼ってこれに代えさせて頂きます。本文を読んで興味の湧いたユニフォームがあれば、ぜひリンクからデザインをチェックしてみて下さい!

概観

 MLBにおける「ストライプの本家本元」がヤンキースなら、NPBにおけるそれは間違いなく阪神タイガースであろう。1935年の球団創設(参入は'36年)から、ストライプのユニフォームを全く使用しなかった期間は終戦直後のわずか7シーズンのみ。そんな深い、深い伝統を長きにわたって守り続けてきたタイガースのユニフォームはしかし一方で、NPBのユニフォームの流行を(多少のラグと共に)忠実に追い続けてきたという側面も持っている。

 初回の西武編、第2回の広島編では時系列順にユニフォームの傾向を整理し、記述してきたが、今回は各パーツのデザインを一つずつ取り上げ、それぞれの歴史を考察する形で文章を構成した。取り上げるテーマは「胸文字」「ストライプ」「黄色」の3つ。最後に現在のユニフォームに対する個人的な感想を書いてまとめに代えさせて頂く。今回も長くなりそうだ…。

胸文字

 まず注目したいのが、ユニフォームに使用される胸文字である。実はタイガースは12球団でも数少ない、レギュラーユニフォームでチーム名の書体を一度も変更していないチームである。途中で球団名が大阪タイガースから阪神タイガースに変わった関係上、"OSAKA"及び"HANSHIN"については、時代ごとに異なる書体を使用しているのだが、"Tigers"は80年以上前から全く同じ書体で一貫している。戦時中の敵性語排斥の動きを受けて漢字の「阪神」を使用した時期を除けば、レギュラーユニフォームには常にあの"Tigers"が踊っていることになる。同じ書体を一貫している球団は他にヤクルトがあるが、1リーグ時代から存続しているチームとしては阪神が唯一無二の存在であり、胸文字は阪神ユニフォーム史の「伝統」サイドの要素と言えよう。

 冒頭から「レギュラーユニフォーム」と強調しているが、これは当然すべて含めるとそうではないことを意味する。具体的にはこれまでに2度、胸に"Tigers"の文字を使用しながら、その書体が例のアレでなかったことがある。

 1度目は2007年、交流戦限定ユニフォームとして使用されたデザイン。ホーム・ビジター共に筆記体の"Tigers"が使用されている。

 カラーリングも胸文字・背番号のメインに黄色を突っ込むなど、かなり冒険したデザインで、当時は伝統の胸文字を崩すことに否定的な声が上がっていた記憶もあるが、個人的には後述するウル虎の夏企画も含めて「レギュラーはシンプルに、企画ユニで遊ぶ」というコンセプトがはっきりしていて非常にポイントが高い。伝統を打ち破った最初のデザインが崩し気味の筆記体というのも遊び心があっていいと思う。詳細は綱島さんの解説に及ぶわけがないのでここでは省くが、交流戦に限定・復刻ユニフォームを持ってくるというチャレンジを最初に行ったのもタイガースで、カネに強く絡んでこない?状況では驚くほどのフットワークの軽さをみせるのもこの球団の特徴である。ちなみに、ビジター用のユニフォームに"Tigers"が入ったのはこのユニフォームを除けば1951年~'53年の4シーズンのみ。

 2度目は2014年、先に触れた「ウル虎の夏」企画での限定ユニフォーム。こちらは「甲子園球場の」緑を前面に打ち出した、こちらも遊び心を強く感じるデザインである。個人的にはタイガースの本拠地としての甲子園は黄色・縦縞のイメージこそあれ、ツタの緑を感じる要素はさほどなかったので、何となく「高校野球の聖地としての甲子園」との交絡を意識しているのかなと思う。

 そんな限定デザインに使用された"TIGERS"はヒゲのついたスタイリッシュなブロック体。オール大文字は球団史上唯一である。上で触れた「高校野球の~」と総合すると、できるだけ「阪神タイガース」のイメージを押し殺した形を実現しようとしたのではないかとも思う。なんにせよ、限定ユニフォームで派手なカラーを用いて話題を呼ぶというコンセプトは素敵である。

 "Tigers"のそれには及ばないものの、"HANSHIN"もかなり長いこと同じ書体が使用されており、2000年代に入ってから新しい書体を模索→原点回帰という変遷をたどっていて大変興味深いのだが、これ以上書くとえげつない字数になってしまう気がするので泣く泣く割愛する。

ストライプ

 続いて扱うのはストライプ。こちらも戦後の物資不足の煽りを食って使用できなかった7シーズンを除き、必ず使用されているデザインである。チーム名のトラさんのシマシマともマッチするスタイルで、なるべくしてなった伝統ということさえできるだろう。

 実は一貫して採用されているのはホーム用についてのみで、ビジター用はストライプを採用していた期間の方が短い。21世紀に入って以降に限ればビジターに採用されていたのは2015年の1シーズンのみ。それでもグレー地ストライプの印象が強いのは、現在のところ球団史上唯一の日本一に輝いた1985年がその短い期間の中に入っている影響もあるのだろう。やはり強いタイガース(とそうでないタイガース)のイメージの根底にあるのはストライプである。

 そんな'80年代から20年以上にわたって使用されていた特徴的なデザインが、ホーム用に採用されていた「ストライプキャップ」である。1リーグ時代、そして'50年代にも使用されていたこのスタイルはNPBでも唯一で、他球団も多く採用しているストライプのイメージの筆頭を阪神に押し上げたのはこのストライプキャップのおかげと言っても過言では…過言か。

 個人的にはこのスタイルがヘルメットにも使用されていたのが驚きで、わざわざシマシマをペイントするという手続きの煩雑さを考えると、ヘルメットだけ黒一色を使用する、という状況になっていてもおかしくなかったのかなと思う。ヘルメットと帽子のデザインを分ける、という発想は'90年代に入ってオリックス・ダイエーが始めたものだったが、ともすればこの期間のタイガースがその先駆けになっていた可能性もあっただろう。個人的にはこのヘルメットを被ってバックスクリーンに放り込むバース・掛布・岡田の印象があまりに強い。

黄色

 続いてカラーリングについて。チーム名がトラさんである以上、採用しないわけにはいかないのが黄色である。実際、黄色は球団創設以来のチームカラーで、現在でもキャップ、袖やパンツ、首回りのラインと多くのパーツに採用されている。最近では前述したウル虎の夏企画で真っ黄色のジャージが使用され、2018年のビジターユニフォームでは背番号・胸文字のメインカラーに入ったこともあって、いよいよメインカラーにのし上がらんばかりの勢いを持ちつつあると言える。

 タイガースの球団史上で最も大きなインパクトを放ったのが、1975年から4シーズン使用された通称「輝流ライン」ユニフォームである。パンツサイドと袖のラインにギザギザ模様を取り入れたデザインはファンの度肝を抜いた。最近になって復刻もされていたので記憶に残っている方も多いだろう。実際にはギザギザしているのは黒の方なのだが、これで引き立つのが縁の黄色であると筆者は認識している。

 で、ここで問題になるのが「タイガースのユニフォームに占める黄色の割合と強さは反比例する」という不穏な噂である。TJがさんざんこすっているネタなのでTwitterを見て下さっている方にはおなじみだと思うが。

 そういうわけで筆者としてはタイガースが新しいユニフォームが発表されるたびにこの黄色の割合を気にしている。現在採用されているユニフォームにも黄色がふんだんに使用されており、特にビジター用は前立てラインに二重で黄色、キャップのHTマークは黄色一色とかなり黄色要素が強いので「このユニフォームで勝ったら神話が崩壊しちゃうな…」と因果関係がぶっ壊れた心配をしている。

 まあ炎上覚悟でぶっちゃけると、そもそも阪神がむちゃくちゃ強かった期間がそう長くないのであんまり心配する必要もないのでは(※意見には個人差があります)。

その他

袖のトラ
 左袖に装着されたトラのマーク。実はこのトラさんの歴史が深い深い。大阪タイガースの連盟参入は1936年シーズンで、ユニフォームは3種類を採用していたが、なんとこのうちの一つに既にトラのマークが入っている。その後は消えたり復活したりを繰り返しながら徐々にデザイン自体の精巧さも改善し、1984年以降はホーム・ビジター含めすべてのユニフォームで左袖にトラさんが顔を覗かせるスタイルが定着している。

 興味深いのは、この定着以前ではビジターユニフォームの方が圧倒的に多くトラのマークを採用している点である。2リーグ分立以後は1979年~'83年の5シーズンの中断を除いて必ず使用されている。先に述べたように、ビジターユニフォームはストライプを採用していた期間が短い。トラのシマシマ要素がないビジターユニフォームにダイレクトにトラの顔を突っ込むことによってバランスを取っていた…のかもしれない。

 このトラマークについて、黄色との接点としてもう一つ。このマークは基本的にトラのオリジナルカラーで描かれているので、たとえユニフォームに黄色が使用されていなかったとしても、このトラマークが存在する限り、少なくともユニフォームを見渡して1か所には黄色が存在することになる。逆にトラマークが存在しないユニフォームではストッキングのラインや胸文字の縁取りに黄色が採用されており、それは例の紺ユニフォームでさえ例外ではない。

 そんなわけで、タイガースの球団史上、ユニフォームに黄色が一切存在しなかったのはたった2度しかない。一度目は1940年~'43年で、この時はトラのマークが外れていて、ユニフォームにも黄色がないというパターン。そして二度目が2001年。トラのマークがついているはずなのになぜ?実はこの年だけ、モノトーンで描かれたトラが採用されていたのである。綱島さん曰く、当時は「トラが青ざめた」「テレビが壊れたのかと思った」などネガティブな声が上がっていたようで、この年野村政権で3年連続となる最下位に沈むとあっさり廃止されてしまった。個人的には悪くない発想だと思うのだが、素敵なデザインがチームの成績によってお蔵入りにされてしまうのもユニフォーム界の一興。

 その他、各球団がプルオーバーから前開きボタンへの回帰を進める中で最後の最後まで残ったプルオーバースタイルや、マイナーチェンジを繰り返すビジター用ブルーの考察など、色々書きたいことはあるのだが、ぼちぼち字数が大変なことになってきたので省略させて頂く。

現在

 そんなタイガースが2019年現在使用しているデザインがこちら。

  ビジター用は「黄色」の項で紹介した通りの黄色いユニフォーム。ラケット(前立て)ラインを黒、縁取り黄色にして二重に見せるデザインもなかなかレアだが、これはまあいい。問題はホーム用である。

 モデルとなるデザインは2015年に導入されたこのスタイル。なんとストライプの上に更に前立てラインを重ねるというドの付く斬新なデザインで、最初見た時筆者は「その手があったか!」と衝撃を受けた。確かにストライプと前立てライン、両方を乗っけてはいけないという規則はない。この二重ラインともいうべきスタイルは現在の侍ジャパンのユニフォームにも採用されている。MLBにも同様のデザインは見当たらず、正真正銘「タイガース発祥のデザイン」と呼んでいい。たぶん。

 が、この二重ラインスタイル、筆者にはどうも別の狙いがあるような気がしてならない。この二重ライン、よく見ると前立てラインは従来のワッペン形式でラインを生地に縫い込んでいるのに対し、その下を走るストライプは生地自体の色を変えるような形で一体化しており、表面を触ると前立てラインのみが浮き上がるスタイルになっているのである。

 タイガースの歴代のオーセンティックユニフォームを収集しているコワい知人に問い合わせたところ、この二重ラインが採用される以前はストライプも本体とは別の生地を上から縫い付けており、触って区別できる状態になっていたようだ。また聞けば、ユニフォームのサプライヤーがデサントからミズノに代わって以降はユニフォームの生地自体もペラペラした薄いものに変更されているようだ。

 これを踏まえて浮上した仮説はこうだ。

「タイガースはユニフォームの軽量化を目指しており、そのためにストライプの仕様を技術的に変更しようとしたが、そのままではペラペラ感がぬぐえないため、移行期間として前立てラインを被せたスタイルを採用したのではないか?」

 ユニフォームの生地を軽くすると、その上に乗っている背番号や胸文字の刺繍は相対的に重みが出てくる。アマチュア野球界では少し前に穴あきのメッシュ生地が流行したが、これが姿を消したのは、あまりの軽さに刺繍がユニフォームにぶら下がるような状態になり、着ていて違和感があったからだと推測しているし、実際このスタイルのユニフォームを着用していた筆者は嫌だった。ユニフォームの生地の厚みと刺繍スタイルの存在は表裏一体なのである。

 一方で、今回のタイガースのようなストライプの形は、中継画面で見るとあまりにペラペラに見えてしまうという問題点がある。同じような問題はタイガース以外の各球団にも起こっており、今流行している胸文字、背番号の昇華プリントスタイルは身体をねじった時に番号ごとクシャっと潰れてしまい、非常に見栄えが悪い(と思う)。

 ストライプを生地の軽量化に合わせて薄くしたのはいいが、それだけではペラペラ感がぬぐえない。かといって別生地に戻すとグッと重量感が出てしまうし、ビジターにストライプを採用しないならば両者で重みに差が出てしまい、プレーする選手としても違和感を覚える可能性がある。そこで中間択として選ばれたのが、当座ストライプの上に別生地の前立てラインを乗せることで見た目のペラペラ感を緩和するという方法だったのではないか?という仮説である。この仮説(邪推?)が真であるとすると、将来的にはこの前立てラインや胸文字・背番号の刺繍スタイルも廃止され、ペラペラユニフォームに統合されてしまう可能性も考えられる。杞憂に終わってくれればいいが…。タイガースのユニフォームの今後の動向はぜひ読者の皆さんと共に見守っていきたい。


 ペラペラユニフォームへの移行を危惧しているうちに今回もえらい文字数になってしまった。飽きずに読み進めてここまでたどり着いて下さった皆さんは本当にありがとうございました。次回をお楽しみに…。

●注意
※この記事は綱島理友さん著『プロ野球ユニフォーム物語』に多大なる影響を受けてユニフォームクラスタにな(ってしま)った筆者が執筆しています。綱島さんの書籍に記載されている事実も数多く掲載していますし、ユニフォームに対する考え方も綱島さんの影響をかなり大きく受けています。この記事はむしろ綱島さんの書籍の感想文だと思って読んで頂けると幸いです。興味を持たれた方は、ぜひ書籍をご購入下さい。
※権利ですとかそういった事情から、この記事にはユニフォームの画像やイラストを一切掲載していません。実際に使用されたデザインを見てみたい!という方は、ぜひ綱島さんの書籍を購入頂き、掲載されている綿谷寛さん、イワヰマサタカさんの素敵なイラストをご覧下さい。自分でイラストを描けばいい話なんですが、どうしてそうならないかはサムネイルから読者の皆さん自身が察して下さい。

#NPB #プロ野球 #ユニフォーム #阪神タイガース #hanshintigers

貨幣の雨に打たれたい