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何かを生み出すインフラとしての拠点を目指して。シェア工房・11-1 Studioができるまで【Part 1】

東京・池袋。要町駅から徒歩5分の豊島区と板橋区の間の住宅街に「11-1 studio」はある。仕掛け人は、建築家・砂越陽介(さごし・ようすけ)さん。2020年9月に、亡き祖父が残したアイロン台工場を、誰もがものづくりをできるシェア工房兼カフェとして生まれ変わらせた。本記事では、彼の生い立ちを振り返りながら、11-1 studioの成り立ちとこれからについて話を聞いた。

インタビュー・執筆:石川由佳子 / 杉田真理子(一般社団法人for Cities)

人が使えるものを作りたい

「子供の頃はまさか、建築家を目指すなんて思ってもいなかった」と話す砂越さん。幼い頃は、ミニチュアやジオラマなど、家のなかで小さな世界を作るのが好きだったという。中学生の頃、パソコンと3D/CGソフトを買ってもらい、3D上で金閣寺を作ったのが建築的なものへの興味の始まりだった。『古代建築入門』を参考に、木造の構造を学びながら、CGで緻密に再現した。

金閣寺を選ぶあたり、なんとも渋い中学生だ。

高校の時、建築家・安藤忠雄が海外の建築コンペで世界から注目をされ始めたのも、建築への興味に拍車をかけた。「人が使えるものを作りたい」。そんな思いで建築学部を目指し、早稲田の建築学科を経て、2009年に横浜国立大学のY-GSAへ入学。これまでの建築がいわゆる「敷地単位」で設計していたとしたら、それとはスケールの異なる、「都市単位」での建築設計を学んでいった。

Y-GSAのスタジオの写真。広大な大学敷地内の中央にあるオープンなスタジオ

スペインで、”つくること”が日常にある風景に出会う

そんな砂越さんが大学生の頃から憧れていたのが、スペインの建築事務所「RCRアーキテクツ(以下RCR)」だ。一度は海外に出たい、という思いを捨てきれず、大学院を卒業後、思い切ってスペインへ留学。スペイン語を学びながら約1年間、インターンとしてRCRで働いた。RCRは、スペイン・カタルーニャ地方の村・オロットを拠点に、歴史や文化、自然に寄りそった活動を続ける3人組(ラファエル・アランダ、カルマ・ピジェム、ラモン・ヴィラルタ)による建築設計スタジオで、2017年にはプリツカー賞も受賞している。

カタルーニャ地方の村・オロットの街並み
リポイのパブリックスペース:旧市街の入口に作られた門型の建築。街から出かける人、帰ってくる人が通る「街の玄関」のようだ。
RCRのアトリエ:廃墟と植栽、そして新たに挿入された鉄とガラスが混在したスペース。
ラ・カルパ:レストランに設けられたパーティースペース。ビニールシートという安価な素材が屋外と屋内の境界を曖昧にしながら、上質な空間へと昇華されている。

砂越さんは、彼らのもとで働きながら建築を作る過程での”生々しさ”を体験したという。小さな村であるオロットでは、鉄工所など、材料を加工する工場が身近にあったという。日本では建材メーカーがいたれり尽せりで準備してくれるが、オロットでは、設計者とメーカーが日々議論を繰り返しながら、試行錯誤のなかで新しい素材を共同でつくる。自分たちが住む街で、”作ること”が日々行われている生々しい風景だったと、砂越さんは話す。

廃墟の残るアトリエでは、その広い空間を使って実寸大モックアップを作ったりする。小さい街ながら、さまざまな製造工場や材料屋が揃っていた。

自分たちだけで完結させない、ものづくりを目指して

帰国後は、公共空間の設計をメインに行う建築事務所をいくつか転々とし、2019年に独立。11-1 studio開業のために動き出した。

独立後、11-1 studioの構想を練りながら、溶接の学校に半年間通い、溶接技術の資格をとった。「設計事務所時代、現場の人と対等にやりとりするためには、その素材の扱い方や作り方を知らないといけないことを痛感しました」と砂越さん。自分自身も、何かしらの技術を習得したいと思ったという。

アイロン台工場だったこの場所を、単なる建築設計事務所として閉じるのではなく、地域に開かれたものづくりの工房にできないか。そんな想いで自身で内装設計を手掛け、リノベーションで生まれ変わらせた。。11-1 studioは、中央にカフェスペース・横に工房スペースがある作りになっている。印象的なのは、100種類前後のカンナや古道具が並ぶ壁面だ。工場を整理するなかで出てきたさまざまな道具を、捨てずに活用しているのも素敵な工夫だ。

中に入ると、開放的なカフェスペースが広がる。壁が黒板になっていたり、テーブルが折り畳めるので、様々な使い方を許容する空間になっている


工房スペースには、様々な工具がある。都内では珍しい溶接の道具もあるので金属加工も可能だ
かつてのアイロン台工場で使っていた、大中小様々なかんなが壁面に美しく並んでいる

よくあるシェア工房と11-1Studioが違うのは、1つの拠点だけでものづくりを完結させないこと。全ての機材や材料を11-1Studioに揃えるのではなく、足りないものは街の他の場所から借りる、という考えが前提となっている。もともと11-1 studio周辺の地区は、材木屋や家具工房など、ものづくりの拠点が多かった。11-1 studioを作る際も、目の前の材木屋で床材などを調達したり、建具は近所の建具屋で、家具は家具工場にてオリジナルで作ってもらった。最盛期に比べて衰退したとはいえ、徒歩圏内に町工場が集積している地域のポテンシャルを生かし、拠点で完結しない、”街全体を使うための工房”がこうして出来上がった。

都内でも珍しい、土間の下小屋が残る材木屋:野口材木店。2020年末に廃業した。11-1studioの床板はここに並んでいた杉の貫板を貼っている。
木工家具の町工場:池袋木工。11-1studioの正面にあり、さまざまな木工家具が製作され運ばれていく。11-1studioの黒板ロッカーなどはここで製造。
プラスチック加工工場:佐藤プラスチック。特徴的な青い三角屋根はここが彫刻家のアトリエだったときの名残。

一方で町工場は依然として、事業継承などの問題を抱えている。

「自分が事業承継に直接関わるのは難しいが、11-1 studioでの活動を通じて、街への開き方や、多拠点との組み方を示し、周辺の町工場も、新しい選択肢に気づいてくれたら嬉しい。ここで活動し、新しい可能性を見せることで、生き残っていく選択肢を増やしたい。」

オープンしてから一年と少しの間ではあるが、色々な輪が広がってきている。

Part 2へ続く


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