ロマノフ家御用達のひんやりパンチ
今回の話題は「パンチ」。
といっても拳を固めて繰り出すあれではなく、飲み物のパンチです。
辞書を引くと、パンチpunch とは"水と果汁、スパイス、場合によってワイン或いはその他アルコール飲料を混ぜた飲み物" (Oxford Learner’s Dictionary )と説明されています。
ディケンズ作『クリスマス・キャロル』には、ほかほかの湯気を立てた温かいパンチが登場しますが、今回ご紹介するのは夏にふさわしいシャーベット状の冷たいパンチ2つ。
ロシア皇帝一族だったロマノフ家主催の晩餐会で提供されたものですが、いずれも肉料理の前に出されていて、お口直しの目的があったのではと想像されます。
早速ひとつ目のパンチをご紹介しましょう。
1.ヴィクトリア・パンチ
こちらのヴィクトリア・パンチが提供されたのは、1913年5月25日、ロシアのクレムリン大宮殿で開かれたロマノフ家300周年記念祝賀晩餐会の席。
これは私の推測なのですが、当時ロシアで用いられていたユリウス暦に従うと 前日はロシア皇后アレクサンドラの誕生日。
彼女は英国ヴィクトリア女王の孫にあたるので、それを意識して出されたのかもしれません。
2.パンチ・ロメーヌ
1911年9月2日、キエフ(現在のウクライナ首都キーウ)にあるマリインスキー宮殿で催された晩餐会で提供されたメニュー。
(※当時のウクライナは「小ロシア」と呼ばれ、ロシアに従属するような存在でした)
このパンチ・ロメーヌの歴史は古く、ローマ教皇が暑い夏の間楽しむ門外不出のレシピだったものが、1796年ナポレオンのイタリア征服をきっかけにフランスに伝わったそうです。
しかも大変人気を博したようで、フランス各地のホテルや要人たちのディナーメニューにも採用、のちにイギリスやロシアへも広まり あのタイタニック号の一等客室でも提供されていたとか。
なお泡立てた卵白を加えるレシピもありますが、今回はマネしやすそうな卵白無しのレシピをご紹介しました。
おわりに
しんどい暑さが続くので、涼しくなるようなトピックの記事をかいてみました。
個人的には、ナポレオンの影響で広まった(と言われている)パンチ・ロメーヌが、100年の時を経て因縁のロシア宮廷で出されているのが興味深かったです。
猛暑でつらいですが、くれぐれも無理せず体に気をつけてお過ごしください。
参考
・MSU Libraries Digital Repository
《 The Boston cooking-school cook book 》
by Fannie Merritt Farmer
BOSTON : LITTLE, BROWN, AND COMPANY. 1896
・The Museum of Russian Art
《 HOUSE OF ROMANOV TERCENENARY DINNER MENU 》
・MÖET&CHANDON
《 PUNCH ROMAINE 》
・DIGITAL HUMANITIES STUDIO
Loyola University New Orleans Department of History
《 Punch á la Romaine: A Nearly Forgotten Drink 》
by SHANEBEGG
・LUNCH ON THE BALCONY: Recipes from the table of Russia’s last imperial family (English Edition)
by Helen Azar
2022.8.16
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