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ハンター・ストリックランドが来たので、マリナーズファンはエドウィン・ディアスの夢を見ない(はず)。

2018年12月3日、エドウィン・ディアスがトレードされたあの日から、シアトル・マリナーズのユニフォームを着た若きクローザーが稲妻のような速球と打者が諦めてしまうほどに縦変化するスライダーでメジャーリーガーたちを圧倒する姿を見ることは夢の中の出来事になってしまった。もうディアスはいないという現実を受け入れられず、日々眠りながらディアスが打者を圧倒する夢を見ているマリナーズファンも多くいることだろう(かくいう私もそうだ)。

何より、ディアスをトレードしてしまったため、誰が彼の代わりにクローザーを務めるのかという問題もある。だが、そこは安心してほしい。サンフランシスコ・ジャイアンツからノンテンダーFAでやってきたハンター・ストリックランドが代役を務める見込みだ。

でもノンテンダーFAの選手がディアスの代役を務めるのは難しいのではないか?と考えるそこのあなた。確かに、2018年にMLB歴代2位のシーズン57セーブを挙げたディアスの穴をストリックランドが完全に埋めることはおそらく無理だろう。だが、ストリックランドのクローザーとしての能力を決して侮ってはいけない。彼ならマリナーズファンをディアスの夢から解放してくれる程度にはクローザーとして活躍してくれるはずだ。

今回はマリナーズ新守護神ハンター・ストリックランドについて掘り下げる。

1.(本当は)スペックの高いハードボーラー

ストリックランドの投手としてのスペックは非常に高いといえる。投球のほとんどをフォーシームとスライダーが占める、いわゆるツーピッチタイプのリリーフ。特にフォーシームが大きな武器であり、球速は常時90mph台後半と剛腕揃いのMLBにおいても速い部類に入る。速球派だが、通算のBB/9は3.15と自らの首を絞めることはない程度にコマンドも悪くない。クローザーを任せるには全く問題ないものを持ち合わせている。

上記のように素晴らしい能力の持ち主であるストリックランドだが、2018年シーズンの内容はその能力とは裏腹に、非常に厳しいものだった。防御率こそ辛うじて3点台に収まったが、どこを切り取っても彼のキャリアの中で最も悪い1年だった。

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本当は能力があるのに、成績が伴わなかった2018年シーズンのストリックランド。いったい彼に何が起こったのか。

2.2018年シーズンの不調の原因を探る

2018年シーズンにおけるストリックランドの不調の原因を探ってみた。

①ドアを殴って骨折
6月18日のマイアミ・マーリンズ戦、2点リードの9回に登板したストリックランドだったが、3点を失う乱調でセーブに失敗してしまい、チームも逆転負けを喫してしまう。セーブを失敗したことに苛立ったストリックランドは、利き腕の右手でドアを殴打。右手の小指を骨折してしまい、2か月の戦線離脱を余儀なくされる。

8月中旬に復帰したが、以降は悪い意味で別人のような投球を繰り返す。以下は骨折前後の成績比較であり、復帰後の成績が顕著に悪化していることがわかる。

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復帰後の成績悪化の一因としてフォーシームの球速低下が挙げられる。以下がストリックランドの2018年シーズンの月別・球種別の平均球速である。

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骨折前まではフォーシームの平均球速は96-97mph程度で推移していたが、復帰後の8月は93.7mph、9月は少し持ち直したがそれでも94.8mphといずれの月においても本来の球速から1-2mph以上落ち込んでいることがわかる。骨折が球速に直接的な影響を与えたと断定することはできないが、何かしらの影響を与えていた可能性はある。

今まで96-97mphを投げていた投手が、突然1-2mph球速が落ちれば、当然MLBレベルの打者にとっては格好の餌食となる。フォーシームの被打率、被長打率のどちらを切り取っても、復帰後の8月以降は数値が大きく悪化していることは想像に難くない。

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②フォーシームで空振りを奪えなくなった
一番の武器であるフォーシームで空振りを以前ほど奪えなくなっている点も不調の理由として考えられる。MLB定着以降は10%を下回ったことがなかったストリックランドのフォーシームの空振り率だが、2018年は7.78%まで落ち込んでいる。この傾向は①の骨折以前から見られる。

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フォーシームを生命線とする投手は、ストライクゾーン外に逃げる変化球を生命線とする投手とは違い、ボール球で空振りを稼ぐことが難しいため、ストライクゾーン内で勝負せざるを得ない。結果、ストライクゾーンギリギリを狙った球が増えることで、BB/9も悪化する(2018年は4.17)。

元々空振りを奪えなくなっていたところに、①の骨折による球速低下が加わってしまったことで、壊滅的なシーズン成績となってしまったと考えられる。

3.バウンスバックに期待はできる

2.で挙げた要因が不調の理由として考えられるが、来季のストリックランドのバウンスバックには、2つの理由から期待が持てる。

①フォーシームの球速はおそらく戻る
仮に球速低下が骨折による一時的なものであれば、来シーズンにはおそらく球速は元の水準に近いところまでは戻るのではないかと考えている。

実際、骨折以降では登板を重ねるごとに球速が向上している。2018年の最速は5月に計測した98mphであるため、シーズン中にそこまでは戻り切ってはいないようだが、この傾向が続くのであれば来シーズンの球速については特に心配の必要はないだろう。

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②スライダーの精度が向上している
一番の武器であるフォーシームがあまり機能しなくなっている点は先述の空振り率の推移の通りだが、一方でストリックランドのスライダーの精度が年々向上している。特に水平方向の変化量に目覚ましい増加が確認できる。

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変化量が大きくなったことで、より有効的にスライダーを使えるようになった。空振り率、被打率、被長打率のどれを取っても、今やフォーシームよりも有効なボールとなっている。

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現状、投球の6割近くをフォーシームが占めているが、スライダーの割合をもう少し上げれば成績改善も望めるかもしれない。

4.それでもストリックランドがダメだったらどうする?

そもそもストリックランドの来季年俸は130万ドルと非常に安く、期待通りのパフォーマンスができなかったとしても金銭面の損失は小さい(ドアの修繕費用は追加で発生するかもしれないが)。

ストリックランドがクローザーとして機能しなかった場合には、FA・トレードで新加入のコーリー・ギアリン、アンソニー・スワーザックに任せるか、あるいはダン・アルタビラやプロスペクトのマット・フェスタはいずれもマイナーでクローザー経験があるため、彼らにチャンスを与えるのも良いかもしれない。

なに、マリナーズファンは劇場型のクローザーには慣れている(別にブランドン・リーグやトム・ウィルヘルムセン、フェルナンド・ロドニーに限った話をしているわけではない)。セーブを多少失敗するくらい大した問題ではない。ストリックランドにはぜひ伸び伸びと投げてもらい、願わくば1年間を通してクローザーとして活躍してもらいたいところである。そして1日でも早く我々をディアスの夢から解放してほしい。

(追伸)
なお、ストリックランドを獲得したため、マリナーズが今オフFAの最大の目玉であるブライス・ハーパーを獲得する可能性は無くなった。

Photo by Lisa Suender

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