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みきくらのかい第八回公演「いとしの儚」観劇してきた

タイトル通りの話だが、
声優の三木眞一郎さんと劇作家・演出家の倉本朋幸さんによる「みきくらのかい」の第八回公演、
『いとしの儚』
に今回縁あって生の舞台を見に行くことができた。

念願のいとしの儚!!!!

当方、みきくらのかい自体は初めてではないが、何しろなまでの観劇は初。
最初にみきくらのかいを知ったのは、特別公演として配信限定の公演だった
『曲がり角の悲劇』
である。
これがもう、長さは一時間半強くらいなのですが(公演時間考えたら二時間はあった)、没入感がすさまじく、横内謙介さんの書かれるストーリーの壮絶さ、何より二人芝居という小規模ながらも大きな世界観も相まって、とてつもない重量のある朗読劇だった。
(これに関してはまた感想をどこかでお話ししたい。)

そして今回の『いとしの儚』は、
実はこちらの演目、みきくらのかい第一回公演と同じ演目なのである。ちなみに、ゲスト声優さんも第一回と同じ江口拓也さんだ。

私は惜しくも当時、みきくらのかいに出会っておらず『曲がり角の悲劇』を拝見してようやく、第一回の公演がこの『いとしの儚』だと知ったのだが、それを知った当時は配信もすでに終わっているというタイミングの悪さ。
その時の悔しさと言ったら、ジャムを作るよりも煮詰まってどろどろとした感情をかき混ぜているな心地である。
とはいえ、その悔しさを味わった年の瀬に公式からクリスマスプレゼントとして再配信が来たので、喜んで飛びついたのだが。
『いとしの儚』をやっとの思いで見ることができ、その時に勢い余って綴った感想がこちら。

『曲がり角の悲劇』は”みきくらのかい”というものに初めて触れたが故の衝撃も含んでいたのだが、『いとしの儚』は純粋に鈴次郎を中心に演じられた江口拓也さん、儚を中心に演じられた三木眞一郎さん、そして賽子姫を愛らしく演じられた富沢里綸那さんに圧倒された。
舞台上の空間はただの舞台上ではなく、そこが鈴次郎や儚の生きる世界そのものだったのだ。

だからこそ、今回の再演が決まり嬉しくもあったが、同時に恐ろしくもあったし、不安もあった。
当時見ることの叶わなかった公演を生で見ることのできる機会が巡ってきた純粋な嬉しさと、
配信で見てもあれほどの衝撃と重さを味わったのにも関わらず生で観劇してしまえば、一体どんな感情の奔流に押し流されるのかという恐れ、
そして、配信で見てもあれほど良く、私の目からは十二分に完成されていた演目を再演するハードルの高さ。あれと同等の、もしくはそれ以上のものを果たして受け取れるだろうかと言う不安だ。

結論から言うと、そんな不安は全くの杞憂である。

確かに初演での好きな演出もあったけれども、役柄の切り替え方やふり幅の広さ、役柄への解釈の深まり、初演よりも更に熱のこもったやり取り。
な~~~~~にが
「あれと同等の、もしくはそれ以上のものを果たして受け取れるだろうかと言う不安」
だよバカ野郎、そんな心配微塵もいらなかったわ。お前が一番しなきゃいけない心配は見た後どれだけ引きずるか問題だけだよ阿呆。
ごめんお酒飲んでるからちょっと荒ぶり入ってる。

本当に、まさか初演の衝撃をここまで超えてくとは考えてなかった。
初演の時も書いたように、江口さんが客席から歩いて舞台に上がるその瞬間、歩き方、視線のやり方だけでも鈴次郎だったし、三木さんも声色だけじゃなく足の揃え方、表情のつくり方でも色んな役柄を演じ分けられていた。

初演の時は役柄に若さというか、青さというか。そんなものを思わせることがあった。特に鈴次郎はそうだ。若さゆえの過ちだと感じられる部分が多かったように思う。
けれど今回、”件鈴次郎”という人間は未成熟な青年ではなく、成熟しながら内側に未成熟な部分を抱えている一人の男になっていたのだ。それは、キャラクターとしての成熟でもある。
ストーリーを知っている分、物語での新鮮さはどうしても初見と同じようには感じられなかったが、初演時以上に二人が魂の込められた、まんま鈴次郎と儚のやり取りをするものだから、見ている側も本当に二人の一生を追いかけているような心地になるのだ。
鈴次郎の粗野さ、横暴で臆病でありながら儚に見せる優しさは人間としての深みがあり、儚のひたむきで純真で、夢と鈴次郎を一途に思い続ける真っ直ぐさには心打たれるものがあった。
初演もそれを感じてはいたが、この再演では格段に、そこに共感させられるものがあったように思う。
あまりにも、惹きつけられた。

言葉を介して伝わる思いが強すぎて、見ている間、私は鈴次郎でもあり儚でもあり、賽子姫でも、ゾロ政でもあったのだ。
そう思わせられるのは偏に、二人がしっかりとそれぞれの役柄を作りこんでいるからだろう。
今回の『いとしの儚』の再演は間違いなく傑作であり最高で、これまで公演を重ねてきたみきくらのかいの集大成でもありながら、これからに期待できるものだったと言える。

縁があって本公演に足を運べたことが、心から嬉しい。
そして、三木眞一郎さん、倉本朋幸さん、ゲストで全力を出し切ってくれた江口拓也さんに最大の敬意と感謝を。
江口拓也と言う役者にしても、みきくらのかいと言う一つのエンターテインメントとしても、改めて素晴らしいものを届けてくれた彼らのこれからを、見続けていきたいと感じた一日だった。