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蟷螂

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二輪での信号待ちの時の話。

前の軽トラは畑から上がってきたばかりだったのか
右後輪からカマキリが落ちた。

あら、しがみついてたのね。
と率直な感想をこぼしていたのも束の間、
動く気配のない彼はこれから後ろ、またその後ろの車に
踏み潰され続ける事に気付いた。

その瞬間信号が変わった。

スロットルを捻る。車体が動き出す。

横を通り過ぎてしまう。

彼はもう助からない。

様々な要素が絡まりあい、生まれた「結果」。
見えてない世界で遂行された未来、彼の運命。

誰が彼の死に気付くのだろうか。
助けるべきだったのか。迷惑を押してでも。

「虫だから良いじゃん」と思う事もできる。
だけど人だったら果たして僕は助けられたのか。
見て見ぬ振りをする事がどれだけ楽だったか。
知らなかったらどれだけ楽であっただろうか。

彼が羽ばたいたり、少し車のタイヤの通らないところに歩いていたら助かった。
動く気配すら見えなかったけど。

そんなことはどうでも良い。
僕は助けなかった。

彼の未来がわかっていたなら、手を差し伸べるべきだった。
手を噛まれるかも、後ろに迷惑がかかるかも。

そんなことはどうでも良い
僕は助けなかった。

何かの運命を変えるというのは、大きなエネルギーが要る。
その当人が少し動けば助かるのに、事の重大さに気付いていなかったり、
行動を起こせなかったりする。

ただかなしい。
せめて僕だけでも祈る。

感情が動いた時に価値は発生します。その時に頂ければ幸いです。