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2023/9/18日記

ジャムを作り、ホットケーキを焼いた。

我が家においてお菓子作りは、たまたま材料が手に入り、少し時間に余裕があり、万全ではなくともある程度の気力と体力が残されているという、これらの条件が全て揃った時のみ行われるイベントだ。「万全でないがある程度の気力と体力」というのがポイントだ。失敗やら焦りやら不安やらで消えてしまいそうな時、作るという行為は「自分が存在している感じ」を取り戻させてくれる。遊びであり治療でもある。消えてしまいそうと言うと常に存在が危うい人のようだけど、もちろんコンディションには波がある。そして、作るに至るまでには段階がある。ざっくり分けると、「少しだけ休む」、「吐き出す」、「休む」、「作る」。

どん底の時には文字通り動けないし何も作れない。身体は十字架を背負ったように凝り固まって重いし、頭の中ではもう変えられない過去・手の届かない未来の出来事や行動、考えや解釈がぐるぐる回って頭蓋骨がはち切れそうになる。そういう時には「今、ここ」ではないところに飛びたいのだけど、大抵何かの期限が迫っている状況なのであまり遠くへ長い時間飛ぶことは許されない。本当は小説一本読んだり映画一本観たりしたいが、物理的に厳しいので大抵音楽を数曲選んで聴くか、4〜5曲入りのEPを聴くことにしている(アルバムは長い)。こうして15分程度の間は凌げるが、飛び立ったままではすぐ明日が来て更に自分をどん底に追い詰めてしまうことになる。ほんの少し動けるだけのエネルギーを得たら「今、ここ」に戻って現実に向き合う方が明日の自分を助けられる。ここまでは応急処置で、ここからが本格的な対応と言える。

最初に有効な対応は、はち切れそうな頭の中身を出すこと。本当に切羽詰まっている時は期限が決まった仕事や勉強を書き出すだけで終わる(その後取りかからないといけないため)。もう少しだけ時間を取れる時には、何に対してどう考えたか•思ったかを書き出す。現実に起きたこととそうでないことが可視化されるだけでも気分がかなり落ち着く。大抵の場合はやるべき事に追われていて書き出すに至らず、ううとかああとか唸り声を出して終わる。良い時で、ボイスレコーダーに取り敢えず思いつくまま言葉を投げ出すくらいだ。

そんなこんなで毒がある程度出せたところでようやく眠れる(殆ど眠る時間を取れない場合もある)。これが「休む」段階。数時間でも睡眠を取れば、期限の迫った仕事や課題が終わってはいなくても、今日の何時にやるぞ、というモードに切り替えられる。平日はこれで乗り切る。やるべき事が終わり切らない時や向き合いきれずに澱のように溜まった感情を抱えている時には、週末に長めに寝る。意識的にというより、倦怠感や関節の痛みで実際に起き上がるまでに時間がかかり、結果長めに寝ざるを得なくなることが多い。身体はいつもことばより早くて正直だ。

毒を出し、休めたところでようやく作ることができる。作る行為にはレベルがある。いちばん易しいのは生活と結びついたものを作ること。食べ物はその最たるものだが、食べ物づくりにもレベルがある。「定番のおかず(経済的理由から定番にせざるを得ないもの)の仕込み」がレベル1。鶏胸肉の下味冷凍なんかがこれに当たる。「与えられて生かされる」から「生きるために作る」への最初の一歩だ。「定番のおかずの中から今食べたいものを選んで作る」がレベル2。「手に入れ易い材料で今食べたいものを作る」がレベル3。「今食べたいものを作る」がレベル4。

今回のジャムとホットケーキはレベル3に当たる。冷蔵庫には食べ切れていないぶどうと、気まぐれで買ってあったバターと、母が差し入れてくれた米粉ホットケーキミックスがあった。連休中でオンライン研修明けという、強制的に長時間家で動けない状況だからこそ、体力も回復しつつありそろそろ動きたいタイミングだった。少ない工程で作れる甘くて美しい食べ物。ジャムはうってつけだった。シンプルな工程にもかかわらず、瓶の準備で右往左往してしまった。エネルギーの低い時にはそういう自分の不細工さをいちいち気にして自己嫌悪に陥るが、艶のある濃紫の液体を無事錬成できて、10年以上ぶりのホットケーキも焦がさずしっとり焼けたのでもうどうでもよくなった。



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私の「作る」行為のレパートリーとしては、お菓子作りより易しいレベルだと、色鉛筆で塗りたくる、プレイリストを作る、日記を書く(吐き出す行為を兼ねている)などがある。お菓子作り以上になると、小説や映画などの感想を書き留める(読むこと、観ることのハードルが学生の時より上がっているのが悲しい)、詩や小説を書くなどがある。高次の「作る」は中々できないし、書く創作に至っては機会を作ってもらってようやく最近でき始めたばかりだ。生きていくためにやることではないけど、私が生きるのには必要なことだと思う。

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