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スーパームーン

アパートの敷地内の公園で子供と母親たち数組が「空」しか見えない南東の暗い空を見上げている。
「こんばんわ。今もう、見えないんですね」
「さっきまでちょっと明るかったんですけどね。たぶんあの、、、よく見ると見えるような気がしますよ?」
誰なのか知らないけれど、声をかけたら何もない夜空を指差してそう応えてくれた。

今夜はスーパームーンで皆既月食だ。
まさにすっかり月が隠れているタイミングで部屋を出てきてしまった。
5月とはいえ夜はまだ肌寒いのにユの字みたいに並んだ4棟のアパートの建物のあちこちで窓が開いているらしく、あたたかな部屋の光とともに月の話でもしているのだろうか、それぞれの部屋からカヤカヤと声がもれ、コンクリートの建物に響いていた。

小さな男の子がもう見えないから帰りたいと言って一組の親子が帰ると、ほかの親子たちも次々に帰ってしまい、私はひとりになってしまった。
さすがに見えないものをいつまでも見上げているのが可笑しくなり、しばらくしてまた月が出る頃に見に来ようと一旦私も3階まで階段を昇り部屋に戻った。

月が再び出始める時間を調べるために携帯を見ると、Twitterの投稿の通知があった。


俯きがちな日本に灯りを照らすスーパームーン
今夜ぐらい少し顔上げてこう


月は人が見ていようがいまいがそんなことはお構いなしに、ただ無機質にぐるぐるぐるぐると永遠みたいに、なんの意味もなく宙を廻っているだけなのに、誰かが見上げることで何か意味を持つようになる。
ひとりも悪くないけれど、同じ時間に同じ月を見上げている誰かがいるんだなと思ったら少しだけあたたかい気持ちになれた。
会ったことのない知らない誰かもどこかでそう思っているだろうか。


20分ほどしてから何気なく裸足でベランダに出てみると、そこから見える空の左端にスーパームーンというわりには小さな、だけどまるで自ら光を放っているみたいに明るい月が見えた。

なんだ、ここからでも見えたのか、と思ったらまた少しだけ可笑しくなってふふふっと笑った。







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