2024/03/22 楽しモーツァルトに行った


 楽しすぎる予定があり、だから起きてすぐにもう楽しかった。化粧ノリが良かったし、コンタクトもスムーズに入れられたし、持ち物に忘れ物もない。今日の労働は15時には終わった。終わらせた。そういう予定にした。だから終わってすぐに電車に乗り、ルンルンで森ノ宮駅に向かった。
 一昨日ぶりの森ノ宮駅だが、一昨日とは違って駅を出ると反対方向へと足を向け、すぐ側のビルに入る。そこには二階に珈琲館があり、カラカラと音を立てて扉を開けた。店内は喫煙席はほとんど埋まっていて、禁煙席は二割ほど埋まっていた。分煙はされているが、喫煙可の喫茶店というのはもうほとんどないのだろう。だからタバコを吸う人達は、ここにくる。私はタバコを吸わないので禁煙席に座った。
 お昼ご飯を食べていなかった。だから割とお腹がすいていたし、サンドイッチもナポリタンも美味しそうだった。それらを注文しようかなと思ったけれど、どうしても、パンケーキ食べたい……という気持ちが、強かった。分厚い、パンケーキっていうかホットケーキの、それが食べたかった。ので、注文した、それは一枚にも出来たけれど二枚で注文し、飲み物はいつも通りアメリカーノだった。
 パンケーキ、美味すぎた。パンケーキっていうかメープルシロップが美味いのだろうか、とにかく甘いふわふわが口内に入り、食道を通っていく様が素晴らしかった、一枚目をもくもくと食べ、二枚目は本を読みながらちまちま食べた。

 高瀬準子のうるさいこの音の全部を読んだ。主人公の兼業作家がしょうもない、つかなくてもいい嘘をつくたびに「その気持ちわかる〜」となり、嘘をついている最中に頭の中で自分でやめろ〜みたいなことを言っているシーンで「それもわかる〜」となった。相手が欲しがっている、と自分が思っていることを、たとえ事実と違っていたとしても言ってしまいがち。この主人公は多くの場合、それはインタビューだとかの取材の場で、私の場合のそれは舞台が美容室だった。髪を切られている時、洗われている時、巻かれている時、染められている時、他愛もない会話をする際に、どうしてだか私は嘘をつく。ここ二年くらい通っている美容室での私は、出身は三重県で中学から大阪に住んでおり、ディズニーが好きで、髪をあまり染めたことがなく、今年初詣に行かなかった女だ。実際の私は、生まれてからこの方ずっと大阪で暮らしていて、ディズニーは最後に見た映画はアナ雪が最後でディズニーランドには二回しか行ったことがなく、高校卒業してから派手髪がお洒落だと思って二年前までずっとカラフルにしていて、今年初詣に三回行った。どうしてなんだろう。○○なんですか〜?と聞かれ、面倒だからと否定せずに「そうなんですよ〜」と答えることは、まぁ嘘は嘘だけれど理屈は分かるというか、合わせておく、みたいな、楽だからつく嘘だけれど、ないエピソードをぺらぺら話してしまうのは、なんなんだろう。誰が得しているのだろう。今まで通っていた美容室に行かなくなったのは、ついた嘘が自分で把握出来なくなり、会話の辻褄が合わなくなってきたからだった。何気なく読み始めた『うるさいこの音の全部』で、自分のうそをつく癖のグロテスクさが浮き彫りにされたような、目の前に突きつけられたような、そんな気になった。

 16時を過ぎたあたり、私が入店して一時間ほど経ったころからにわかに店内が混み始めた。仕事終わりなのかなんなのか、サラリーマンとマダムがぞろぞろと入店して、席はほとんど埋まっているようだった。17時くらいまでいようと思っていたが、ホットケーキも食べ終わったし、席を空けてあげた方がいいような気がして、退店。
 17時まで、というのは、この後に控える楽しい楽しい予定という、最近ずっと楽しみにしていた、お笑いライブがあるからであった。それが17時からだった。近くに小さめのショッピングモールがあるのでその辺で時間を潰そうと、トイレに入ったり、お散歩したり、Seriaに入ったりした。
 そこでふと気づく。17時17時って、それ、開演時間じゃない?急いで鞄の中を漁って、先程発券したチケットを確認する。17時開演。16時30分開場。スマホを見る。液晶に縦線が入ったスマホ。16時32分。開場していた。ここから会場までは歩いて10分くらいで、間に合わないことは無いが、余裕を持って向かいたかったので大慌てでSeriaを出た。
 出た、ところで、もう開場してるってことはお客さんは中に入っていて、その人たちよりも中程の席なら「すみませんすみません」って言って席に向かわなくてはならなくて、そういうのが嫌だから映画とかでは開場と同時にはいるか、もしくは端っこの席をとっていて、ええと、今日の座席ってどのへんだっけ、と思い、チケットで確認しようと歩きながら鞄の中を見た。チケットがなかった。は?思わず声に出る。足を止めて、鞄の中を見る。「は?」また声が出た。
 いやいや、いまさっき見たやん。チケット。近くのベンチに鞄を置いて、中身を取り出しながら探す。ない。コートのポケット。ない。来た道を引き返し、Seriaの中で落としたのかと、店内をくるくるする。ない。
 そんなこと、ある?チケットを見ていたのって本当に30秒前とかで、さっきは確実にあって、それで、今はない。えっ!そんなこと、ある!?笑
 でもとにかくもう開場はしていて、時間はなくって、だからもう「なんとかなるやろ」と思ってTTホールに向かった。スタッフの人に「発券したチケットを無くしてしまって」と伝えた時に、30秒前にはあったチケットが、ないんです、とは言わなかったけれど、頭の中では言っていて、だから私は笑いながら言った。変な人だと思われだと思う。笑いながら名前と電話番号を書いて、購入を確認してもらって、何故だか16時55分に席に案内しますとのことだった。だれも私の席に座っていないことを確認してから、私は座れるとのことだった。そういうもんなのかぁ。
 そして私の席はそこそこ前の方で、そしてど真ん中だった。つまりたくさん「すみませんすみません」して、席についた。一番嫌な着席の仕方で、もう絶対にチケット無くしたくない、と思ったし、チケットを無くしたくないからギリギリの発券にしているのに、と思った。間抜けすぎる自分を本当に呪った。しっかりしろよ、と思った。 

 ライブは素晴らしかった。大好きなランジャタイと、大好きなフースーヤと、大好きなヨネダ2000。内容について触れていいのか、私にはよく分からない。お金を払って見られるものについて、文字とはいえ書き記して公開することを良しとしないのもわかるし、実際に本人たちが動いて話して漫才している姿に価値があるので文字として他人が記すことはまた別のものだ、とするのも、わかる。そしてそれらをどうでもいいとも思っている。マナーやルールはあった方がいいし、あった方が楽なのだが、盾ではなく鉾にされるとついうるせぇなぁと思ってしまう。
 内容としてはそれぞれ一本ネタをして、あとはコーナーだった。オープニングの合唱は「うわ〜変な三組の変なライブ、始まる〜!」みたいな高まりがあり、すごく良かった。フースーヤの谷口理がうっせぇわの歌詞を曖昧にしか覚えていないのも、良かった。かすかに聞こえる愛ちゃんの声がとても良くて、ハモネプ、見よ!と思った。
 私はランジャタイが一番好きなのだが、そう言うようにしているのだが、ネタはフースーヤが一番かもしれない。なんていうか、バランスがいい。はちゃめちゃなことで笑いたいが、王道な流れというか割としっかり目の作りの漫才を見たい、みたいな、セクシーなのキュートなのどっちが好きなのみたいな、どっちも好きだよみたいな、カフェオレが飲みたいの、みたいな、白黒つけないよみたいな、それで丁度いい塩梅なのだ。フースーヤは。

 正直私はいつもコーナーってあんま要らないなと思っている。ネタがみたい。ゲームをして、罰ゲームをして、ボールを投げて、みたいな、あれがなんて言うか、少し苦手だった。何が苦手なのかよくわからない。出来上がった作品としての漫才、もしくはコントを見に来たのに、未完成なその場のものを見せられている居心地の悪さとかがあるのかもしれない。プレゼントとか、ボールを投げたり、チケットの半券を引いたり、そういうのでもし自分が当たってしまったらどうしようというそわそわも苦手だった。それは期待とかではなくって、純粋な恐怖。
 サイン入りの何かが欲しい、と思わなくもないのだが、それを上回る「絶対に私の方に来ませんように」「私の座席が引かれませんように」という祈り。呪いかもしれない。学生時分、夏開けっ放しにされた窓から虫が入ってきて女子が騒いでいる時に、私も同じように怯えたが、それは虫が怖いという事ではなくて、虫が自分の方にきたらどういう反応をすれば良いのだろうという恐怖だった。あの、高い声で怯えている女の子たちと同じようにしなければいけない、出来ているだろうか、虫に近寄られることを嫌がらなければ、という、プレッシャー。虫は怖くなかった。虫とどう向き合えばいいのか、それが分からず、恐ろしかった。
 しかしまぁ、コーナー、普通に楽しかった。なんていうか、みんなでつくりあげる、みたいな時間だから笑いが起きないということはない。笑えるものが出てこなくても、笑えるようにする、そういうプロの人たちなので、つまり楽しかった。
 国ちゃんはもっとふざけてコーナーをぶっ潰す勢いなのかと思ったが意外とそうではなく、ヨネダはかわいくて頭の回転が早く、フースーヤはコーナー慣れしていた。
 ルーレットで出た芸人二組のギャグを組み合わせるゲームは、ショータイムがほとんどフル尺の86をやっててまじで楽しかった。86大好きだったのだ。久しぶりにラッスンゴレライが見れた。嬉しい。転調するところ、ほんまに好き。誠は組み合わせるのがめちゃくちゃ上手かったし、ランジャタイは同じ芸人を引き当ててなんかの運を使っていたし、マルセイユ別府ゲームでは反射神経が若さと比例していて爆笑した。誠と愛ちゃんが早い。フースーヤもついていっている。ランジャタイは遅れていた。おじさん、がんばれ!

 うどんを食うコーナー、うどんを食うコーナーでは無いのか、いや食うコーナーか、とにかくうどんを食うやつでは、国ちゃんが国ちゃんで、ヨネダとかショータイムが「食べてません!」「国ちゃんが食べるはずないでしょ!」と言い張っているのがよかった。しつこくてよかった。あのノリずっと見てたい。令和河野をずっと困らせてほしい。
 うどんが下げられる中、器を引っ掴んでうどんを食う国ちゃんと、それを見てスタッフさんからモップを奪ってポーズをとる理、めちゃくちゃ兄弟に見えた。都市が離れているのにやってる事のレベルが同じの兄弟。親は大変だ。うどんとモップをスタッフに返したあと、国ちゃんが理に何か言っていて、えなんて言ったの今〜!て、オタクは気になった。 
 お絵描きコーナー、お絵描きコーナーって笑  うん、お絵描きのコーナーで「絵うまいやつおる?」だったかな、そういうことを理が言ったあとに誰も何も言葉を続けなくて、広い会場で無が生まれて、びっくりした顔の理が「え俺今下ネタ言った?」って言ったの、天才かと思うくらい面白かった。文字にすると伝わらない、人が見た夢の話くらいつまんないけど、あの場ではめちゃくちゃ面白かったし、フースーヤが天下取るど、みたいな、そういう気持ちになった。その後のショータイムの「俺え上手いで  え?」っていうボケも、それを全然聞き流してコーナーをこなそうとしている理も、無視されて笑っちゃったショータイムも、これ最高だな〜酒飲みてぇ〜今〜!になった。現地では生で見られて最高に興奮するけれど、酒を飲みながら見れるという配信ならではの良さもある。配信っていい文化だよな。コロナが無くても配信って根付いた文化なのだろうか。なんでコロナ前はチケット取れなかったライブは見れない、という残酷さに耐えられていたんだろう。もうあの頃には戻れない。

 エンディングの挨拶はショータイムが任され、地方巡業してきた劇団の座長みたいな挨拶をし、聞いているとなんだか地方を追いかけた無い記憶や、色々とトラブルが起こった無い記憶が呼び起こされ、泣きそうになった。一種の洗脳とか、そういうのかと思った。ヨネダ、フースーヤ、ランジャタイという三組、まだまだ生まれるものはあると思うし、引き出し切れていない良さもあると思うから、これからももっと絡んでほしい。難しい問題もあるのだろうけど、ええやんええやんの人たちがもっと、なんかこう、いい感じにしてくれることを願う。

 終わって、たのしかったぁとにちゃにちゃしながらいつも通り一人で帰路につき、途中スーパーに寄って酒などを買い、本屋にも行った。欲しかった本はついさっき、みたいな日付けが発売日で、だから新刊コーナーにあると思ったのだが無くて、検索するやつで調べたら場所はわかんないからスタッフに聞いてね、みたいな文字が出てきて、スタッフに聞いたら案内してくれた。普通に既刊コーナーにあった。何故?
 レジは長蛇の列で、人ってこんなに本を読むのだなぁ、週末読む本を買いに来たのかなぁとなんだか嬉しくなった。本を読む人が身近にいなさすぎて、本屋にいる人間のことは無条件に愛している。おじさんも部活帰りの高校生も子供の手を引いたお母さんも資格の勉強をがんばるお姉さんも、みんなが本を求めていた。レジの番が回ってきて気づいたのだが、駅ビルのポイントカードの5倍デーだった。みんなポイントを求めていた。私はポイントカードを失くしていて、再発行だとかの手続きは面倒でしていなかった。

 家に帰り、買ったお酒を飲みながらライブの感想ツイートを検索していいねを押しまくる。いや、感想ポスト。ポストを見て、ライブを思い出し、にやにや。買ってきた柿ピーの梅味を食べ、酒を飲み、にやつき、そして『うるさいこの音の全部』を読了。小説家になった朝陽にちょこちょこ連絡をくれる「幸田さん」について特に説明がなく、昔好きだった人とか、マチアプで知り合った人とかだろうか、と考えていたのだけれど、180頁くらいで「小説家になってから連絡が来るようになった人で、初めに幸田と名乗られたからそう呼んでいるが、この人が誰だか、女性が男性かもしらない」ときて爆笑した。知らないんかい。何の補足もなく、しかし度々出てくる「幸田さん」は何かのキーワードなのだろうかと思っていたら、そういう関係を続ける人間性というキーワードはあるのだろうけれど、こんな形に収まるとは思っていなくてすごく楽しかった。当たり障りのない返信ではあるがやり取りをやめない朝陽は、なにか徹底しているなと思った。
 この本はジャケがめちゃくちゃかわいい。オレンジとブルーで、ゲームセンターとかメダルゲームとか中華とかお化けとか、小説内に出てくるものががちゃがちゃっと描かれていて、配色を絞ってまとめているのにタイトル通りの騒がしさを表現していて、とってもいい。私が飲食店勤務でなければこのジャケのイメージネイルをネイルサロンでしてもらいたかった。してもらうために、飲食店勤務を辞める事も視野に入れる。そのくらい、好みだ。

 今日はとても素敵な日だった。お笑いライブは楽しい。お酒は美味しい。本は面白い。最高。
 ライブを見ている最中に発表されたらしき、マツクランジャタイ、東名阪全部とりあえず申し込んだ。全部行けるなら行きたい。頼む行かせてくれ。後フースーヤの単独先行も一般もご用意されなかったの、今日めちゃくちゃ効いた。行きたい。配信なしって、現地に行けると特別感があって素敵に思えるが、行けないとなると「どぼじで……」になる。配信してけろ。
 

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