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大人も青春

1これは忙しい一日のはじまり

ナオコはケントにもたれかかって見上げた。
ケントの日焼けした、鼻筋の通った顔にナオコは微笑み、口を開く
「ケントって平井堅みたいだよね。どうしたらそんなに鼻が高くなるの?」
仏頂面だったケントがへらへらしながら答える。
「毎日、目ん玉押して寝るから彫りが深いんだよ」
ナオコが噴き出す。

シェアハウスの主のサトルがつまらなそうにゲームを辞めてつぶやく。
「ケント目が傷つくぞ、誰だよその女」

「その女はないでしょ~」ナオコが眉根を寄せる。

ケントが「おまえは怒ってもかわいいな」とささやく

いやーくすぐったい~なんだよかわいいな~

あまりに苛ついたサトルがバン!と席を立つ。
「飯の時間だ!!ケント手伝え!!」

「え~」という言うナオコを引きはがすように
ケントが「へーいおやびん」と答える。

ご飯はチャーハン餃子だ。
大阪王将の冷凍餃子は蓋をしないでも
フライパンだけで羽根つき餃子になる。

「ケントは餃子な」チャーハンの具を切りながら
サトルが言う。

「おいしそうな匂い♪」とナオコが言ったら、
男二人が声をそろえて「お前の分はない」と言い放った。
・・・
「どういうこと~スーパー行ってくるよ」と
仲間外れになったナオコが玄関でブーツを履いている。
「ぎょうざ二個くらい頂戴」
「俺の分から一個」とケントが答える。

「けちんぼ!!」とドアが閉まり、ジュージューという音が残されたふたりの耳につき始める。

「ケント、あいつといつから付き合ってんの?」
サトルが聞くが、ケントはにやにやするばかり。
「じゃあ、食べた後夜勤まで掃除するわ」とケントが餃子を皿に返す。
「わかった。おれは明日日勤だから、食べたら寝るわ」とサトルは、チャーハンを皿に盛る。
「じゃあ、掃除した後、ナオコを家に送って夜勤行くから車借りるべ」と返すケント。

「ぶつけるなよ!よしできた。ナオコ待つか!」サトルは額の汗を拭いた。
ケントは同じ介護施設に勤めるサトルと、もう2年も一緒に暮らしているんだなと感慨にふける。
2人はレンジでチンのチャーシュー麺を買ってきたナオコを迎えて席に着く。
ナオコ「おつかれ~」
ケント「働くのこれからなんすけど」
サトル「まあとにかく食えよ」
わちゃわちゃとチャーハンを分けたサトルは
おいしそうに餃子をほおばった。

貧乏暇なしというが、捉え方次第では暇はできるんだな、と、
ケントは2人を眺めながらチャーハンをかっこんだ。

ナオコが餃子をほおばって「羽がぱりぱり!!」と叫ぶ。
サトルはそっと、ニコニコとケントを見るナオコのラーメンに自分の餃子を放り込んだ。

2 私の名はアキコ。
サトルは介護施設「思い出の里」の介護士だ。
介護士仲間のケントとシェアハウスをしている。

サトルは令和の時代にPS2をやり続ける猛者で、
ハードオフなどでPS2ソフトが安いと買いあさっている。

安いが、どれもこれもやりたくて困っている、とサトルがケントに話していたら、
料理の苦手なケントがサトルにルームシェアしようと言い出した。
最初聞いたときはケント、ゲイじゃないよね、だったが、
仲良く暮らしているという事は、どちらにしろいいことだと心を落ち着かせていた。

そのうち、ケントはマッチングアプリで出会ったナオコと付き合いはじめ、安心した。

ナオコは母親をアル中で亡くしていて、自身も危ないと言われて禁酒しているらしいが、
酒が飲めないケントとサトルに出会い、断酒している。
サトルと、サトルの指示通りに動くケントのご飯は酒なんかより満足感がある、とナオコは言っているらしい。
サトル凄い。

ナオコの家はあんまり経済的には大変ではないらしくて、お金を入れる年中単身赴任の父親とナオコは一軒家に住んでいる。
ナオコは一軒家に一人が怖くて、実はお嬢様だがはじめてのマッチングアプリで気の合ったケントと暮らすことを夢見ている。

しかし、ケントは結婚するまで家に上がらないと言う。

ナオコはケントに惚れ直した。
惚れっぽいのかもしれない。
自然とナオコはサトルとケントの住むアパートに入り浸るようになった。

サトルとケントがルームシェアをはじめて一年半は過ぎていたと思う。
ナオコはシェアハウスにブリ大根の鍋を持って初侵入したのがはじまり。

というか、シェアハウスと知らなくて、三回訪問した時にふたりが兄弟ではないと知った。
シェアハウスと聞いたときに、ご飯をサトルにふるまわれ、少し馴染み始めていたナオコは、赤の他人が家族のように暮らす雰囲気に馴染んでいたことに物凄い驚いた。
すごいドキドキしたらしい。
ナオコも人並みにBLを履修していたので、
シェアハウスで勝手な想像をしては冷蔵庫を開けてほてった顔を冷やした。
そんなことはリアルでは全くなかった。

サトルはゲーマーで、オフはリビングの奥のソファに座って背を向けてゲームをしていることが多い。もしくはそのまま寝ているか。

ケントは料理の復習に洗濯に、家事一般をしながら介護の勉強を、サトルから見えない壁のくぼみに椅子を持って行ってしている。サトルもケントなんか気にしないらしいが、
ケントはそこが落ち着くらしい。すみっこが好きなのだ。


本棚は半分がサトルのゲーム置き場。(PS2ばかり。CDも少しある。)
もう半分は介護オタクのケントの本が並んでいる。
二人ともルームシェアで浮いたお金で思うさまテリトリーのソフトや本を買うので、
数はすごいが、何も置いてない空き棚も二段ずつある。

ナオコはふたりの本棚を理解した時、その情熱に鼻血が出そうになり知恵熱を出し、
ケントの絞ったおしぼりを頭に載せてサトルのおかゆを食べた。

介護施設ではサトルは入浴のスペシャリスト。入浴拒否の高齢者もいつの間にかお風呂で「はぁ~いい湯だ」となっている。
ケントはレクリエーションのアイディアマン。認知症、麻痺、いろいろな利用者ができるレクリエーションを用意して重宝されている。

「思い出の里」には介護士は20人所属し、ローテーションで5~10人が出勤する。
入居者50人前後でその数がどうなのかは、ケントに聞いてほしい。
彼ならきっと「全国的にはどうで、この地域としてもどうであるが、どこそこにはかなわない」などと説明できるだろうが、私は知らない。

・・・
私は思い出の里の介護主任の日向アキコである。サトルを無資格から育て、ケントを引き抜いてきた。
話のネタにしてサトルとケントからナオコのことを聞き出しているが、
わたしはサトルとナオコができてしまうことを危惧している。
悪いと知りながら、ナオコと陰で友達になっている。
職員名簿で調べたシェアハウスにナオコが居そうなときに訪ね、「ふたりの上司です♪急ぎの書類があったので」と封筒を渡すうちに仲良くなっていったのだ。計画通り。大した計画じゃないが。

そんな訳で部屋の様子も本人たちには無断で悪いが知っているし、ナオコからも話を聞いている。ナオコはいまのところケントにぞっこんだ。
ちょっとストーカー規制法だかなんかに引っかかっていそうな私だが、人間は簡単ではないのだ。ちょっと不安だけど、あいつらそんなうるさく言わないでしょ。

まあとにかく、ナオコがサトルになびいて、サトルとケントの仲にひびが入るのは見たくない。職場の現在のチームワークも壊したくない。アキコは現状に満足している。ナオコはケントと幸せになるべきである。第一、サトルは私の好みである。大事なことだから二回言うがサトルは私の好みである。

社内恋愛も珍しくない思い出の里だが、サトルと私は歳が違いすぎる。ゼネレーションギャップだっけ?みたいなものがあって動けなかったが、ナオコという存在が私に決意させるのである。私はサトルをゲットするべきなのである。昭和のコギャルみたいな言葉遣いと言われてもいまは大丈夫。私にはサトルがいる。

しかしサトルとの関係はといえば、やっと二人きりで夜勤のコール待ちとかしていても、私がサトルに「最近どう?」と言い、

「鬼武者は織田信長を倒すゲームだが、秀吉が強すぎる」、とか、
「グランツーリスモってレーシングゲームでドリフトポイントを貯めているが、車はもともとドリフトするものじゃない」、とか、

なんだか私が呼び出されて説教されている気がしてくる。

勉強のためにPS2をセカンドストリートで買ってきたが、部品どり用のジャンクだったらしく、動かなかった。もう一度行って顔見知りの店員に聞いても「完動品のPS2はしばらく見てないですね、あ、彼氏さんがやってるんですか?アツいっすね。(アキコ注:実際そうならアツい)部品もメーカーにあるかわからないから、彼氏さんにプレゼントしたらどうです?喜ばれますよ」と言われ、PS4を買ったらPS2もギフト包装してあげると言われ、勉強のためとはいえゲームの大人買いである。
しかも、サトルにひらひらのついたPS2をあげたら、「あー調子悪い部品あるんで助かります、あざーす」とそれなり~な評価。
ぴえんである。
きのうツイッターで覚えた。ぴえんぱおん。
もうビジネススマイルで固まってましたよね。視界から消えるまで。

サトルはつかみどころがない。ケントは私の意図をうすうす掴んでいるのかサトル情報をくれるが、新しいPSのソフト名がわかって私の買い物が増えるか、ケントの本をサトルが借りたと聞いて、ケントとその分野の討論をするばかりなのである。そういえば、ケントに、サトルの好きな芸能人とか昔付き合った子がどんな感じかとか聞けばよかった。
今日はケントも夜勤だから聞いてみよう。

ケントに私の気持ちがばれてもいい。ナオコがサトルになびいたら最後だ。
ケントにからかわれるのも、望むところの助である。むしろ痛気持ちいい。

言葉が変になってきた。
ツイッターのやりすぎだ。
まあ、こころは17歳ですがなにか。

専門書の話をサトルに振っても「俺頭悪いからわかんなかったっす♪」
・・・
かわいい。
バカな子ほどかわいいという母の言葉を思い出したが、
サトルは謙遜しているだけだ。

しかし、私の後任の介護主任はケントだなと思っている。決めるのは私じゃないけど。サトルは職人だ。中間管理職にはまだ早い。皆さんご存じないかもしれないが、サトルは29歳、ケントは35歳である。ん?早いか遅いかよくわからない。
ナオコは・・・きっと私と同じ17歳。こころが。

そのケントも彼女ができたと知って、私もサトルに集中できるようになったが、(ケントに何度か口説かれた)
ナオコがサトルと長時間、狭いアパートで過ごしているのは言語道断。

私たち4人が救われるには私がサトルをゲットするしかないのだ・・・3に続く


3 ナオコの冒険

ナオコはホワイトハウスかと思うような白い建物を出て、
大勢にブーケを投げる。右を見るとケントが笑ってる。
あぁ、わたし、ケントと結婚したんだ・・・熱いものがこみ上げる。


ん?
ケントの向こうに、たまにアパートに来て話すようになったアキコさんもウェディングドレスを来て群衆に笑いかけている。

え、なんでケントの隣に!!?
不安になってそちらに体を乗り出すと、その先にサトルがいる。

え?どういうこと??

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