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毎週ショートショートnote

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たらはかに様の企画のショートショートの自作品をまとめております。
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記事一覧

オバケレインコート(ショートショート)

夜道を歩いてると、自動販売機の横にオバケがいた。どうしてオバケだと分かるのかと言うと、こんな大雨なのに傘もなにも差さずに立っているし、目玉が1つしかなかったからだ。 「風邪引くよ?」 「怖くないの?僕は一つ目小僧だぞ」 「逆に心配、ずぶ濡れじゃないか」 「オバケは風邪ひかない。ここに立っていれば、人間を驚かせる」 「この自販機はあまり使う人いないよ。ほら、濡れないようにしないと」 「余計なお世話だ」 私はオバケを無視して、鞄の中ならレインコートを取り出した。

秋の空時計(ショートショート)

僕は彼女を愛していた。彼女もきっとそうだと思っている、多分。 春から付き合いだした僕たち。その頃の彼女は、正に春の空を舞う春風のように、優しく温かく僕を包んでくれた。 でもどことなく、春風の様な優しさが、逆にどこに飛んでいくか分からない危うさみたいなものを僕は感じた。 夏。彼女は夏空の入道雲の様に気が大きくなり、容赦なく照りつける大陽の様に僕に攻撃的になり、他所で遊んだりと開放的になった。 本当に僕の事を愛してくれているんだろうかと不安が募る日々。 秋。僕は毎日の様に空を見上

半分ろうそく(ショートショート)

「姉ちゃん、今度誕生日だろ?今年は俺がケーキを用意してやるよ」 「あら、見習いパテシェの癖にえらく自信があるのね」 「任せてよ!誕生日会にはさ、例の彼氏も来るんだろう?」 「そうよ。付き合ってまだ日が浅いんだから、彼の前でくれぐれも変なケーキは作らないでね見習い君」 「ろうそくもいるだろ?」 「い、要らないわよ!歳がバレるじゃない!」 「何だよ姉ちゃん、歳隠してんのかよ」 「か、隠してなんかないわ。サバをよんでるだけ」 「同じことだろ」 「とにかく!ろうそく

草食系男子に教えられたこと(ショートショート)

僕の家の近所にとある草食系男子が住んでいた。 御年80歳のおじいさんである。 80で男子とは可笑しな話なのだが、本人がそう言うのだから仕方がない。 おじいさんはこれまで女性と付き合ったことがないという。女性が苦手な上、自分に全く自信がないからなのだそうだ。 おじいさんの趣味は野菜作りで、庭にレタスなんかを育てていた。そう言う意味でも草食系だなと本人は言うのだった。 そんなおじいさんがある日、恋をした。 お相手はゲートボール仲間のおばあさん。そしてその人は僕の祖母で

噛ませ犬ごはん(ショートショート)

噛ませ犬専用の宅食が最近話題だ。世の中にはあらゆる理由で噛ませ犬と呼ばれる人たちがいる。 サラリーマンの世界では人の尻拭いばかりさせられ自分が評価されなかったり、男女の世界でも自分が引き立て役になって恋が出来ないということもある。 そんな普段損な役回りを演じている人達は、食もカップ麺やコンビニ弁当の様な負け犬飯を食べている人が多い。そんな人達に食を通じて自信を持ってほしいというのが、その宅食の目的なのだった。 利用する際は会員制で、会費を事前に払う必要があるのだが、メニ

大増殖天使のキス(ショートショート)

僕にとって娘は何物にも代え難い存在だった。娘が3歳の頃から僕にしてくれるようになったほっぺのキスは、まさに天使のキスと言ってよかった。 だけど気になることもあった。娘は何か欲しい物がある時に限り、キスをするようになったのだ。キスをされると僕が機嫌よく何でも買ってあげることに味をしめたらしい。 その回数は娘が大きくなるにつれて増えていき、1日に何回もキスをされてはねだられた。 そんな天使のキスの大増殖に困り果てた僕は、ある日を境に娘のキスを拒否した。 それを境に娘も僕を

音声燻製(ショートショート)

「愛してる。俺が悪かったよ」 彼のその余りに無感情な言い方に僕は首を振った。 「そんな言い方じゃ火に油だろ。ここは我慢して誠意を込めろよ」 「あいつも悪いんだ。そんな事出来るか。何が愛してるだ」 仕方がないと思った僕は、さっきの無感情な謝罪をテープに録音し、それを音声燻製器にかけることにした。新発売のこの燻製器を、こんな犬も食わない痴話喧嘩に使うのはチップが勿体無いけど。 テープを入れて蓋をする。チップは純愛を花言葉に持つナデシコを乾燥させたものにしよう。 数時間

告白雨雲(ショートショート)

何事も念じ続けば願いは叶う。 (あの人に告白する勇気が欲しい) それが私の願いだった。 だけど今しがた、折角の告白チャンスを棒に振ってしまった私。晴れ渡った午後。図書館で二人きりになれた私とあの人だったが、結局少し離れた席で、あの人を見つめる事しかできなかったのだ。 結局願いは叶わない。諦めムードな私は、この零れそうな涙を帰り道で人に見られたくない為、雨が降るように強く願った。 一人図書館を出る。すると空模様が急に怪しくなってきた。さっきまであれほど晴れていたのに。

棒アイドル(ショートショート)

取調室。男はデスクの上のライトを顔に向けられ、反射的に顔を背けた。 「で、ストーカーをしていたことは認めるんだな?」 刑事が高圧的にそう言う。 「ストーカーではなく追っかけなんですけどね」 男もそこは譲れない感じだ。 「被害届が出れば立派なストーカーだよ。ったく、相手は子供向け番組のお姉さん?いい歳してそんなTV見てんのか」 「彼女は僕にとってアイドルです。別名、棒姉さん。棒を使った諺を自ら演じて子供たちに教えてくれるんです」 「これがお前さんが彼女の事務所のゴ

ジュリエット釣り(ショートショート)

どんな男でも、一目惚れした人を一本釣り出来るという噂のスポット、ジュリエット釣り堀へとやってきた私。 怪しさ満点だが(今日から貴方もロミオだ)のキャッチコピーに私自身も釣らてしまった。 疑似餌売場の親父にジュリエットが誰かを聞かれる。 「営業先の受付嬢の方なんです」 親父はその受付嬢の情報をパソコンで調べだした。 暫くして私に相応しい疑似餌が決まった。 「プロ野球のチケット?」 彼女の趣味らしい、つまりこれで誘い出せということか。私は半信半疑で釣り堀へ向かった。

二重人格ごっこ(ショートショート)

男が防波堤で物思いに耽っていると、背後からおじさんが声をかけた。 「どうした兄ちゃん浮かない顔して」 男は何かの縁を感じ、ワケを話すことにした。 「海は二重人格だと思いませんか」 「え?」 「だって今はこんなに美しい凪でも、時として荒れ狂う大海となるから」 「まあそうだな」 「彼処にいる猫だってそう。人や状況で一々性格を変える」 「何がいいたい?」 「私もいっそ二重人格になりたいんです。会社ではいつも浮いた存在。一辺倒の詰まらない人間なんだ」 (成る程大人

初めての鬼(ショートショート)

今日、私は「鬼」になった。生まれて初めて「鬼」になった・・・。 ・・・というだけでは説明不足だから補足します。私は今日、彼と入籍をした。彼の姓は鬼。 そう、私は今日から姓を鬼、と名乗ることになったのだ。しかも私の旧姓は桃田である。桃から鬼。何かのギャグかと思った。 彼はとてもいい人だ。結婚するには申し分ない人。でも「鬼」なんて姓を名乗って生きていくなんて恥ずかしすぎる。病院なんかで名前を呼ばれたら絶対に注目の的だ。 夫婦別姓も取りざたされている世の中ではあるけど、まだ

フシギドライバー(ショートショート)

(フシギドライバー)という店を始めたという友人を訪ねて、夜、俺は指定された飲み屋街の雑居ビルにやって来た。 事前にどんな店かを全く教えてくれなかった友人。ドライバーといえば、運転手か工具かゴルフのクラブだけど、果たしてどんな店なのだろう。 店の前に到着。両隣の部屋はスナックとパブだった。ということはこの店も飲み屋という事か? 中に入るとそこは小さなバーだった。カウンター席が数席。BGMは無く無音だった。 客は他に二人。それぞれ黙々と酒を飲んでいる。 カウンターの奥に友人がいた

自己紹介草(ショートショート)

三月も中旬に差し掛かった今日この頃。巷では四月からの新生活に向けた様々な動きを見せています。学生はノートを新調したり制服のサイズを測ったり。大人は引っ越しの準備をしたりスーツのサイズを測ったり。 何かと慌ただしい新生活への準備。しかしそんな新生活を迎える人たちにはもう一つ悩みの種がありました。 それは自己紹介です。新天地での自己紹介は付き物。何かと苦手な人はいるのではないでしょうか。 そんな中(自己紹介草)という商品が話題になりました。この草、朝出かける前に煎じて飲めば