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「死」になる。2

 そこからの私は退屈なものであり、もがくことも許されずただなされるがままであった。鼻の穴や口の中になにかを詰め込まれ、皆がやいのやいのと私の周りに纏わりついて話をはじめる。
「あの人はいい人でした。」
「娘さん、ご苦労様です。」
私は生きているというのに滑稽なことである。このまま葬式をするのは良いが、その後が問題である。私は仮装されるのだろう。
 感覚がしっかり知っているのというのに、このまま燃やされてしまうのは勘弁したい。この皮膚の感覚、鼻を詰められても分かるアルコールの臭い、私はまだしっかり生きているのだ。
 しかし、誰も脈を取ろうとしない。当たり前か、死んだと言われて心臓の音をわざわざ聞き直す人などおるまい。それになんだ私も長く生きてしまったから今更植物人間になって迷惑をかけるのも面倒だ。
 ならいっそこのまま燃やされた方が良いのか。
 私はそう思って覚悟を決めてその時まで待った。棺桶に入れられ、お坊の訳の分からないお経を聞き見えない目で皆が砂のようなやつを頭に乗せては燃やしている様を思い浮かべだ。
 その後私は棺桶のままついに火葬上に持ち込まれた。心の中で震えた。この熱い中で息絶えていくのか。
 ぐっと覚悟を決めて火葬の箱の中に入っていった。
 スイッチが点火されたときに私の棺桶は下に沈んでいった。茫々と燃える火が聞こえたが、私の棺桶はどんどん下に進んでいき、火から遠ざかっていく。
 「山崎さんご入館です。」
 「システム元に戻して。」
  私の身体をもう一度なにかで全身を触れると、目が覚めた。
  目の前には白い服を纏った男女がせわしなく働いており、私と同じように棺桶の中に入った人物がずらりと並んでいた。
 「山崎さん、突然のことで申し訳ありませんがシステムSIKOにより、あなたは輪廻かっここで働くことが決まりました。どうしますか生まれ変わりますか?それともここで働きますか?地下の仕事ですが時々地上にも出られますし、基本的に働いていれば毎年100年の寿命が+されていきます。」
 目の前の女は業務連絡のように淡々と話していく。システムSIKOだ?輪廻だ?働くだ?私には理解が出来ない部分が多い。強いて言うならば輪廻とは生まれ変わりのことであろうか?
「世界中の命というのものはシステムSIKOによって全て管理されております。山崎さんは今回焼却ではなく、新しく生まれ変わってまた人生をやり直してもらうか、このSIKOシステムの中で生きるか選ぶことが出来ます。山崎さんの功績から考えるにあと寿命500年は固いかと思います。」
 私はその後その女からSIKOシステムと人類の管理状況について詳しく聞いた。どうやら人類は管理をされており、生まれ変わりのシステムも機械的に行っているらしい。
「輪廻でお願いします。」
 迷った挙句に私は輪廻を選んだ。もう一度人生をやり直したいそうすればうまくできることがたくさんある。
「記憶は三歳で消えることが大半です。知能知性も一時的に衰えます。ただし感覚や勘というものは生前からのものが引き継がれます。」
 私はその女の言葉にうなずいた。
 すると頭の中に痛みを感じることなく一本の太い鉄が挿入され、私は意識を失った。
 次に目を覚ました時はぼんやりとした明るさの中であった。
 何がなんだかわからず私は泣き叫んだ。

そうして私は「生まれ」た。
 

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