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宇宙人、地球に降り立つ 後編

 しかし書かれていた文字は宇宙人二人が知らないものであった。白い壁に文字らしきものが大小様々に書かれている。
「A分析しますか?」
「そうだな、頼む」
 Bは文字に向かって手を合わせる。手から薄白い光が出て、文字全体を包み込む。
「A、これは文字ではありません。少なくとも宇宙10個分に当たる周囲の文字文化、もしくはそれに準ずるものを探しましたが全て該当しませんでした。一番近いものはこの人類が作った文字が近いですが、私が知る限り最新の人類が作成した文字とは違います」
 Aはその文字を見つめる。文字は丸くなっていたり線になっていたりと様々であり気息性がない。なかには再現性のない画像が埋め込まれていた形式のものもある。
 その時、一陣の風が二人を包み込んでいった。二人にとってはそれで全てが分かった。
「どうやら人類のデータを書き換える必要があるようですね」
「67年前にくれば良かったですね。私は霊長類生物の形を観たかったものです」
「私もそうだ。なに、人類の文明が滅んだとしてもこの辺りの他の生物でも見るとしよう」
「えぇそうですね」
 そうして宇宙人二人は地球の観光をして地球時間で一か月ほど暮らした。
 人類は67年前に文明と成長を辞めた。始めは小さな声であった。
「それは差別です」
 人類は「差別」は良くないと思いながらも初めは、今ある文明を大切にしていた。しかし、声は次第に大きくなっていた。
 凌辱はいけません。ロリコンはいけません。殺しはいけません。犯罪を助長するものはいけません。人を見た目で判断してはいけません。女の身体はいけません。性別のくくりはいけません。
 そうしてありとあらゆる「声」を人類は受け止めていった。
 身体は「差別」となるのでなくなった。
 言葉は「差別」となるので書かなくなった。
 文明は「差別」となるので人類は成長を辞めた。
 今の地球にいるのは言葉を持たず、個体性も持たず一体化した空気となった人類だけであった。
 そうした選択が今の人類であった。
「さて、次にこの地に文明が芽生えるのはいつかな」
Aは宇宙船に乗り込みながらBに問いかける。
「予想ですとあと3万年後ですね」
「なるほど、その時にまた来ようか」
 そうして宇宙人は地球を去っていった。

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