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路上に立って口にするそれは

 ある道でブツブツとつぶやく男が居る。毎日通勤時に私はその道を通るのであるが、正直不愉快で仕方がない。関わりたくないので速足に過ぎていくのであるが男の声は時折聞こえる。
「ゆで卵をダメにしてしまった」「バターを帰りに買ってこなければ」
 そんな文字列として並べれば他愛のない言葉をたった一人で会話でもなく呟いているから気味が悪いのである。
 今日も歩いているとその男が通った。
「仕事に行きたくない。」「吉田を殺してしまった。」「JR線はいつも遅延する。」
 殺してしまったとは随分物騒だな。私が思うと同時に男はこういった。
「殺してしまったとは随分物騒だな。」
 続けて男はこう言った。
「吉永さんに書類を渡さなければ。」「今日漫画の発売日だったけか。」
 人々は男の前を通り過ぎて行く。
 私は逃げるようにして走り去っていった。もうこの道を通るのは止めよう。


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