恋。人口物

 クラスが同じ男子生徒に放課後一つのゼリーを渡された。薄ピンク色のそれは最近この村で流行っている「恋心ゼリー」というものであった。
 この日本の中で一生TVや雑誌で取り上げられることがなく、老人ばかりが増えていくこの田舎でそれは突然として流行りだした。スーパーやコンビニで売られるそれは好きな人と両想いになりたいときに相手に渡すといったものであった。
 値段は一つ1000円、サイズは通常のゼリーと同じでスプーンですくって食べるくらいのもの。ジョーク商品としても学生が手に出すには少々高すぎる値段である。一般的な社会人(この街ではほとんどいないが)が考えても高いものであろう。東京だとこれくらいの値段のゼリーは普通にあったりするのだろうか。
 私はこのゼリーの存在を常々馬鹿にしてはいたのだがまさか自分が渡されるとは思っていなかった。
「白木、これ、買ったから」
 そういって男性生徒から渡された。私は初めなにを渡されたのかよく分かっておらず
「え?あ、うん。ありがとう」
といって受け取ってしまった。私は親にばれないようにこっそりと自室にそれを置いた。このゼリーが渡されたということはそういうことなのだろう。
 その男子生徒のことなどいままで全く意識してなかったというのに、その日はその男子の顔が頭から浮かんで消えなかった。そういえば今までやけに優しくしてくれたなとか、なんとかないようなあるような薄味の思い出を必死に脳味噌から思い出されていく。
 ゼリーの賞味期限は三か月、ギリギリまで考えてそれで決めよう。私はそう思ってそのゼリーを机に入れて眠った。
 その次の日から私はその男子生徒をチラチラとつい目で追ってしまっていた。男子生徒も私を見ているようでチラチラと見返す。お互い目が合って、慌てて逸らしたたことはもう数えきれないほどある。
 三週間後くらいからその男子生徒とあいさつを交わすようになった。といっても
「おはよう」「さよなら」
 程度のものであったが、距離がぐっと縮まった気が私はした。
 二か月ほど経つとその男子生徒と短い会話をするようになった。私と男子生徒の距離がさらに縮まった。私はその時には一層ゼリーの存在を意識するようになっていった。
 そろそろ三か月がたつという頃であった。教室の扉をガッシャンと勢いよく開けなかから黒い制服を着た成人男性が何人もやってきた。
 「………逮捕!!……よって処分する」
 成人男性は何人もやってきて、授業を中断させた。そうしてクラスの中から5人の生徒を連れ去っていった。その五人の中にあの男子生徒が含まれていた。
 その日村から四割の人が消えた。と同時にあのゼリーも消えた。
 新聞ではこう取り上げられていた。
「恋心ゼリーは病気を生む薬!よって使用者及び購入者は村から移動される!その行先は不明!」
 村の中でそのニュースはセンセーショナルで刺激的なものであった。同時にただでさえ少ない村から四割の人が消えたことによって村の滅びは確実なものになった。
 あぁ私は男子生徒がいなくなった机を見て思う。
「好きだったのにな」

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