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災厄の魔法少女が死んだ

 この話は前回「なにがあったかはわからない」と前々回の「人型に吊るされた青い髪①」のストーリーと関連しています。

 蒼天のような青い髪が月明かりに照らされて映し出される。首には透明な太い糸と、体中には細い糸が張り巡らされていた。

海色をしたフリルのついた青い服はすでに血に塗れ鉄紺色に染まっていた。何度繰り返し死んだか分からない。

身体はもう動けない。身体だけにじゃない身体の中にもあの蜘蛛の糸が巻き付いている。私はもう死ぬことはできないからこうして緩やかに、確実に魔力を吸い上げられているのだ。

もう私はこの月が降りて朝日が昇るのを見ることができないだろう。

「負けちゃったなぁ」

そう呟こうとして口を開けようとしたががんじがらめになって開くことすらかなわなかった。

垂れ下がった首から見える景色は闇夜の中で流れる川と手に持った魔法のステッキだけだった。もうこのステッキも振ることが出来なければ意味がない。ただのおもちゃのようなものだ。

ここに災厄の魔法少女が敗北した。災厄とまで恐れられた魔法少女はついに禁忌に手を出した。

月の蜘蛛までもその手にかけようとしたのである。

「やっぱり強かったかー」

 ハハッと乾いた息だけは口から零れた。この服もこのステッキも自分が欲しくて願って手に入れたものだった。こんなに血で汚すつもりはなかったのだ。

 ダメかもしれないと思っていたけれど、でもどうしても私は月の蜘蛛を倒さねばいけなかった。

 その魔法少女は悪であった。一つ願いをかなえる代わりに誰かが犠牲になる。そういう契約であった。

 彼女は自分自身の願いのために戦った。そして多くの者を不幸にした。疫病を起こし、殺人事件を起こし数々の悪事によって叶った願いの上に立っていた。

 全ての願いを叶えつくした彼女にとって、もう叶えたい願いは一つだけになった。

「魔法少女を辞める」

 しかしすでに彼女は多くの不幸の上に立っていた。彼女が魔法少女を辞めたところで他の魔法少女によって彼女は狩られることは間違いがなかった。

 だから彼女は決めたのであった。世界の守り手の一つである月の蜘蛛を倒し、世界を混沌の渦に飲み込ませる。その対価によって彼女は魔法少女を辞めることができるのであった。

 背後では月の蜘蛛が目をゆっくりと動かしながらも着実に彼女を縛りあげていった。
 
 手力が抜けて魔法ステッキが落ちた。河原でポチャンとした軽い音が響いた。

「幸せになりたかっただけなんだけどな」

 彼女は思う。ただそれだけの願いだった。

 ただその願いを叶えるには彼女はあまりにも不幸すぎたのである。

 魔力が尽き果て、足先からキラキラと自分の身体が消失していくのが分かった。
 
 動かすことのできない視界の中で川が流れていく。重たい魔法ステッキは流れずに彼女の目下にある。

 彼女の身体は上半身まで消えかかっていた。
 
 魔法少女に生りたい人なんているのかな?

 あぁ私は願う……。

 ふぅっと息を魔法ステッキに吹きかける。彼女が出せる最後の魔力だった。

 息を吐くとともに彼女の姿は消え、魔法のステッキだけが残った。
 
 月の蜘蛛は消え、朝日が昇った。
 その川には魔法ステッキが一つ、流されずに置かれている。

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