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最悪な未来と現在の思考

 ぼんやりと考えることがあった。生きていて意味があるんだろうかと。
 しかしそう考えていた時が幸せであった。
「止まらない」
 とある場所に向かった先にあった急激な下り坂を自転車で漕いだ時に問題が発生した。ブレーキが止まらない。脳味噌は自転車の回転とともに激しく回転していった。下り坂の先には激しい車通りがある。
 このまま進んでいったら間違いなく死ぬ。私はそう確信した。私はとっさに足先を地面に置いたが、自転車は止まることなくそのまま私の足は回転に負けて変な方向に曲がっていった。
 足先に激しい痛みが走る。痛い。嫌だ。
 私は頭の中で強く願った。
「生きたい。死にたくない」
 その考えは私にとってとても新鮮な考えであったのだが、それどころではない。坂道は確実に下っていき徐々に激しい車通りのある車線に入ろうとしていた。
「嫌だ。嫌だ。」
 私は駄々をこねるしかなかった。もし死ななかったとしても重傷を負うことは間違いがない。
「助けて」
 私がそう強く願った時、時間が止まった。ぴたりと自転車は止まり車道を通る車が止まった。空気が固まったのを感じた。
 「本当に助かりたいんですか?」
 そうして止まった世界の中で出て来たのは、老けて疲れた私であった。
 「え?」
 「あなたは私です。もう一度問います。本当に助かりたいのですか?」
 私は私に向かって問いかけて来た。
「えぇ、助けてください。私は生きたいです」
 私は必死に未来の私らしき人に訴える。
「たとえこの先が不幸だとしてもですか?」
「え?」
 怒涛の如く私がしゃべる。
「あなたはこの先対して好きでもない人を妊娠させ、結婚します。その後は生まれた子どものために働きます。あなたは今以上に過酷に働くことになります。あなたの子どもはあなたを愛していないし、あなたもその子どもを愛することはないです。趣味も家族が軸になりままなりません。ストレスだけが溜まる日々です。幸せはありません。ここで死ぬのがあなたのためです。この先進めばあなたは即死します。それが幸せです。」
「え?それは一体……」
 私が戸惑いを見せている間に、未来の私の姿は薄れていく。
「良いですか、今、今死ぬのです。それが幸せなんです。私は……私はずっと……」
 そこで私の姿は消えてしまった。私が理解する前に次の声が聞こえて来た。
「生きたいですか?」
 それは綺麗な女の声であった。
 「え、えっとあなたは……」
 「問います。生きたいですか?」
 私はしばらく沈黙した。どれくらいの時間考えたのかこの止まった時間の中ではわからなかった。
 「私は生きたい。不幸な未来があったとしても私は生きて変えていきたい」
 その言葉は私の人生の中で一番前向きな言葉であった。
 「それでこそあなたです」
 時が進み始めた。下り坂を急激にまた下り始める私は両手に違和感を覚えた。ブレーキに力が入る。
 私はそのまま両手に力を込めてブレーキを握った。
 そうして車道ギリギリで道が止まった。
 私は生きたのである。喜びの感情が沸き上がる。
 数年後私はある女に出会い女を孕ませた。そうして私はあの私がいった通りに生きるのであった。
 運命は変わらなかった。私はその運命を不幸だと感じた。
 そうして私は運命を変えるためにあの時へと繰り出す。
 私は死にたい。それは確信的な願いであった。


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