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山に呼ばれた男5 (終)

「なぜここで性行為を?」

 私はぐったりとしてベットに横たわったまま女に質問をした。

「山がそう言うからです。「子を成せ。」と不定期に言うのです。その声が聞こえるとその日に男がやってきます。最初は山で性行為をしていたのですがそれだと不憫でしたのでロッジを建てました。それでは、私はそろそろここを出ます。ここも俗世のものですから長居はできません。なにかほかに聞きたいことはありますか?」

 見ると女の背中はうっすらと赤い斑点ができ始めていた。
「この先どうするのですか、子を成してその後どうするのですか?ふもとにいるあの母が居なくなったらどうするのですか?」

 女は私を見ることなく、答える。

「どうなるのでしょうか?分かりません。私はもう山に捕らわれていますから。いつかこの山が崩されるときに私も父も死ぬのでしょう。母に関しては可哀そうだとは思っています。もしかしたら私の前にもあの男根像を見て同じような暮らしをしていた人がいるのかもしれませんし、そうではないのかもしれません。」

 女は振り向いて、私の瞳を見た。女の瞳からはどんな感情が出ているのか私には分からなかった。

「それでは、さようなら。落ち着いたら山を下りてください。山がきっと帰り道を教えてくれるはずですから。」

 女はそう言って去っていた。私は下半身のべたつきを感じながらもズボンをはいた。ベッドからは濃い精液の臭いが立ち込めていた。

 私は山小屋から出ると言われた通りに山を下った。一度立ち止まり、この先にあると言われる男根像を見たくなったが恐ろしくなって止めた。
山を下るときの道は自然と分かった。頭の中でこっちの道が正しいということがわかるのである。

 山を下りると太陽はもう沈み月が顔を出していた。振り向くと山の口はもう閉じていて暗闇の中に包まれていた。もうどう進んでいいのか分からなくなった。
 

 車に戻るとボンネットの上に手のひらよりも一回り小さいサイズの石が一つ置かれていた。暗闇の中でも光輝く黄色の石であった。私はそれを手に取り車に置いた。
 

 車に乗った時に社内から香る日常の臭いに一呼吸着いた。あれはなんだったのだろうか、幻のような経験であったが、下半身のドロドロとしたものが現実ということを示していた。

それから車を走らせ自宅に戻ると急いで下半身を洗った。すでに下半身はカピカピとしており控えめにいって最悪だった。
 

 私はボンネットに置いてあった石を本棚の片隅に置いて眠りについた。後日宝石買取店に査定だけしてもらったところ家一軒は軽く買えるほどの金額であった。店員からはぜひ売ってくれと言われたが断った。

 その石ころが今となっては私とあの女との記憶を繋ぎとめているものであった。

それから数か月後、夢で女が子を孕んだことを伝えて来たような。そんなような気がした。

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