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美味しい飴玉

目玉を一つほじくりだせば美味しい飴玉と交換してくれる。そういうおじさんが私の帰路に現れた。
子どもをだますならまだしも私は大学卒業してすぐに働き始めた新卒社会人である。
そんな妄言はゴミに捨てるまでもなく通り過ぎるはずのものであった。
連日おじさんは道端そう呟いていた。おじさんの身なりはボロボロでただ靴だけが汚れ一つないピンクの革靴であった。
 ある夜の日、私はその日特に帰りが遅くなって空腹に苛立ちながらも帰路についていた。しばらく歩くといつものおじさんはこの時間になってもいた。
 まともな店はもう全て閉まっていた。
 「目玉を一つほじくりだせば美味しい飴玉と交換してあげるよ。」
 おじさんは私に声をかけた。勿論そんなことに興味を持つ私ではない。ただその日は違った。
「どけっ」
 私の背中を大きく誰かが押した。私はつんのめりながらも何事かと後ろを振り向いた。すると一人の男性がおじさんの前に立っていた。
「ほらっ」
 男性は乱暴におじさんになにかを投げつけた。おじさんは軽やかにそれを握ると
「あぁ目玉だ目玉だ。」
と大切に手のひらの中にあるものを撫でつけた。暗がりでそれが私の知る目玉なのかなんなのかは分からなかった。
「くれ、あれをあの飴玉を」
 男性は興奮気味におじさんに話しかける。
「あぁあげるよありがとう。」
 おじさんがポケットからなにかを取り出し、男性に向かって渡した瞬間である。
 男性はおじさんの手ごと口に含みそうして雄たけびをあげた。
「あぁ甘い、飴玉は甘い。」
 そうして男性はおじさんに背を向けて去っていった。
 私はその時の男性がとてもうらやましくなってしまい。ついつい自分の目に手をかけてしまった。
 まぁでもしかし食べるなんてしないけれど
 この先もけしてそんなことはないのだけれど
 私は生唾を一つ飲み込んで家路に向かった。

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