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地底人のとある非日常の出来事

 その日土の中に大量の血が滲んだ。そして次の日にはまた違う血が大量にしみ込んだ。
 その土の下で暮らす地底人にとってこれは異例のことであった。
 「最近血なまぐさくていけないな」
 父は土とミミズを食いながらため息を一つした。
 「そうね。」
 母が一つため息をついた。
 「じゃぁあの黒いのする?」
 娘は部屋の隅に転がっている黒くて細くて文字盤がついているものを差す。
 「そうだな。しかしこの山に人が来るのは嫌だなぁ。ちょっと上にあがって状態を見て見ようか。」
 黒いのは地上にいる人から定期的に父が渡されるものであり、それにより地底人と一部地上の人との連絡を取っている。
 「見に行かなくていいわ。わざわざ地上に行くこともないでしょう。どうせ明日にはもう止むでしょう。」
 母がそう言い父は納得し、その日の晩の食事は終わった。
 しかしその後も何日も何日も血なまぐさい日が続いた。父は耐えかねて地上へ確認をしにいった。
 父が土の上で見たものは折り重なる地上に住む人の山であった。しかも一番下の人はすでに腐敗が始まっていた。
 父は大きく一つため息をついた。誰かがここを人捨て山としているようである。父は土の中へ帰ると黒い物体を取り出した。
 それは地上に住む人が携帯と呼ぶものであった。ボタンを押すとギラギラとした明かりが灯る。父は教えられた通り1と1と0を押し、山の上に死体があったことを告げた。
 「今地上に住む人に教えた。一か月は土上が忙しくなるだろうがなに、ここが人捨て山となるよりかはましだ」
 父がそういった通り翌日から土上はとても騒がしくなった。地底人はバレないかとはらはらしたが、父の知り合いの地上に住む人がこの土の中は詮索しないようにしてくれた。
 しばらくして土上が落ち着いた。
「良かったねお父さん」
 娘はいつも通り土を口に含んだ。その日の土はいつもと少し違う味がした。
「なにこれなんか変」
「これが地上に住む人の血の味だよ。地上に住む人は赤い血をしているらしい。」
 父は淡々と血が沁み込んだ土を口に運ぶ。
「ふうん変な味」
 娘が地上に住む人を知った初めての経験であり、味であった。こんなに変な味をする地上に住む人とはやっぱり会いたくないなと娘は思った。


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