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人型に吊るされた青い髪①


 その日は月明かりが綺麗だった。スーパームーンとかパーフェクトムーンとか特段に綺麗な月明かりには名前がつく。その日の月もきっと名前のある月の日だったのだろう。


 大学生の男が深夜のバイトを終わりにうっすら肌寒くなった初秋の夜自転車をこいでいた。


 半袖だとこの夜の時間帯だと寒いな。といったようなことを考えながら無心で自転車をこいでいた。次の日が二時限目から授業があるということもあって自然と自転車のスピードもこの曜日はいつも早かった。


 住宅街を抜けて河原に出る、そこで人一人いない街灯も橋向こうに一つあるだけの暗い橋を男は走り抜けていった。


 その瞬間目の端に青いものが入り込んだ。男は気になり自転車を止めた。

「なんだあれ」


 思わず口に出た。月明かりの下に青光したなにか玉のようなものが浮いている。男はさらに目を細めて月明かりに照らされたものを見ようとした。


 それはよく見ると人型のようで、頭頂部が青かった。真っ青な髪をしていたのである。人型、それが人なのか人ではないのかは男にとって二の次だった。人の形をしたものが川の中心部で宙に浮いているのを見て男は全身が冷たくなるのを感じた。


 止めた自転車のペダルを思いっきり踏み込むがすかしてしまい足を大きく擦ってしまった。ズボン越しからもじんわりとした痛みが広がるがそれを気にしている暇なはない。


 「見ちゃだめだ見ちゃだめだ。」


男は頭の中で唱え続けながらペダルをこぎ進める。走る身体に反比例するように身体はどんどん冷たくなっていく、そして頭の中に浮かぶのは川に浮かぶ青い髪をした人型のなにか。


「気のせいだ。気のせいだ。」


 唱えるようにして男は家につき、そのままシャワーを浴びることも食事をとることもなく、部屋を明るくしスマホから無意味に明るい動画やSNSを夜明けまで垂れ流した。


翌日男は日の光を見て、徹夜特有のぼんやりとした頭で大学に行く準備をした。通学路にはあの河原がある。通り抜けなければいけない。


いつもより大分早い時間帯に家を出て、男は河原への道をゆっくりと行った。徹夜でぼやける頭の中にもぼやけながらもあの青い光が映った。


河原につくとそこには朝日に照らされた綺麗な河原がそこにあるだけだった。


男はそっと心を撫でおろし、大学へ向かった。


その日の帰りも夜遅くなったので、理由をつけて友人と一緒に通ったがそこにはなにもなかった。


なんだ、ただの見間違いだったのか。

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