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どこか知らない部屋に閉じ込めれた件について

 薄ピンク色の真四角の部屋に閉じ込められたときは動揺したが、数週間たった今は慣れてきている。

 薄ピンク色の真四角の部屋にはベッドとテーブルが一つと扉がついていないふきさらしのトイレと壁一面を覆うほどの大きさがあるテレビ画面、それとリモコンだけであった。

 俺はこの部屋でひたすら飯を食わされている。分かっているのはそのことと、同じように飯を食わされるために閉じ込められた人たちが他にもいるということだ。

 皆違う色をしており、俺の部屋はどうやら「#f5b2b2」というらしい。それは「#734e95」の部屋の人から画面越しに教えてもらった。

 チャンネルは一二あり、外の景色を映すものが三つと、各部屋をランダムで移すものが一つと、部屋の全体をうつものが一つある。あとはどこかの国の番組を映すものが一つ、どこかの国の動画配信を映すものが一つ、アレを映しているものが一つ、残りのチャンネルはランダムで自然や誰かの部屋の覗きと思われる様子が映っている。

 アレというものは皆が存在を分かっていないもので白く人の形をかろうじてしたものがウロウロと歩く映像だった。

 俺は平気だったが、気が狂って舌を噛みきるものやずっとこちらを見てしゃべっているものなどがいてそういう人たちは部屋全体を映すチャンネルから消えていった。

 毎日のルーティーンは起きる、出された飯を食う、テレビを見る、寝ることだった。
 
 俺たちはなにかの実験として扱われているということは入ってまもなくして分かった。

しかもそれが世界規模だということも最初の三日で恐らく閉じ込められた俺たちの中で一番賢かった「#c97e13」が教えてくれた。その彼は二日前に晩御飯を食べて死んだようである。画面から消えたからあくまで憶測ではあるのだが。

 この部屋に居て唯一良いことは食事の楽しみである。出てくる食事が生涯で食べた中で一番おいしいと毎回思えるものであったからである。


 一日目は、カレー
 二日目は、チキンライス
 三日目は、八宝菜
四日目は、ミートパスタ

どれも俺がこの部屋に閉じ込められる前に食べたことがあるものであったが抜群にうまかった。五日目以降は知らない国の料理が出たがそれも美味かった。

今日なんかは、ミルワームの炒め物のようなものが出て来たがそれも美味しく食べることが出来た。虫がこんなに美味しいのであるならばこの部屋から出た後に散歩している途中で食べてしまいそうだなと思った。

まぁ出られる未来は全く見られないのだが。

閉じ込められてから一年が経った。同じ生活が繰り返される。

 きっとなにか食べる飯や飲む水になにか薬が入っているのか俺の感情はいまだに平坦だった。部屋の人数はかなりへって二桁にまで落ちた。

 出される食事に変化はあったもののそれ以外に変化はなかった。

 その変化というの食事の色が薄くなっていったことである。色の彩度が本来の食事ではありえないくらい薄いのである。今日食べたニンジンなんてもはや肌色に近かった。

 味は変わらず美味いのだが違和感を覚えざるをおえなかった。最初はそういう国の料理かと思ったのだが部屋にいるメンバーの誰もがその料理に違和感を覚えていた。

「怖いですね。今に始まった話ではないですけれど。」

 ロシアから来たという男はそう話した。男の言葉は自動翻訳されて画面に映し出される。

「そうですね。」

 俺はその男に答えた。男は「#5c9291」の部屋にいる男だった。
「いつになったらここから脱出できるのでしょうか?きっと「#c97e13」さんなら分かったんでしょうけどね。」

ハハッと笑った後に男の口から食べたばかりのニンジンとその他諸々が噴出した。画面は変わり他の部屋の人物に映し出された。俺は慌てて全員が映るチャンネルに切り替えるがその男の部屋はもう映っていなかった。話し相手がまた一つ減ってしまった。

俺はベッドで寝転がりながらチャンネルを変える。気まぐれにアレが映っているチャンネルに変えた。アレはどこかの街中をうろついていた。合成だろうか、街の人が気付く様子もない、影のつき方といい適当だから何かのCGなのだろう。

一年たった今もこれの意味が分からない。

そうしてそこからさらに数か月たった頃だろうか、皿に真っ白の腕の形をしたものが乗って出て来た。

一目で見て分かった。アレの腕である。

「食べてください。」

 ここに来てから初めて聞く声が部屋の天井から聞こえた。スピーカーついていたんだと俺は思った。

 俺はアレの腕を切った。柔らかかった。そうしてそのまま口に運んだ。食べるだけですむならべつに何を出されても別によかった。それよりも食べずに暴力などをうけるかもしれないことの方が怖かった。

 アレの腕は今までで食べたどの料理よりも美味しかった。俺が無我夢中でアレを食べきった。

 チャンネルを切り替えると二桁ほどいたはずの部屋が数十人程度になっていた。

「みなさま、お疲れ様です。ここまでよく食べきりました。ではこの後で性行為と精子提供に移っていただきます。一人ノルマは三人です。三人産んだらここから出てください。」

 スピーカーの声は心なしか嬉しそうでありつつもそれを隠すように淡々と話していった。

 俺は二年目にしてようやく誰かと触れ合えることに喜びを感じていた。相手の女性には可哀そうだと思うが、そこはきっと天井の声の主がまたうまいことしてくれるだろう。

 そのさらに数年後の話になるが、アレが地球を侵略するモノらしくそれを捕食して退治しようというのが政府の打ち出した計画と知ることになる。
 
その時には俺は外の世界にでてカフェに出て不味い茶をすすっていた。なにを食べてもまずかった。俺の舌はもうアレしか受け付けなくなっていた。

 外来生物の駆除というところだろう。俺は町に出かける政府から金もある程度もらっているから生活には困らなかった。
 
スピーカーの主から最後の言葉は一つだった。

「アレを食え」

「いただきます」
俺は町の中にいるアレを見つけては今日も食う。

アレがどんな問題を起こすのか、アレによってどのようにして人類が滅びるのかは分からない。

「#c97e13」がいないことが悔やまれる。

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