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2023年のフィンテック業界を振り返る

今回は、2023年のフィンテック業界で目立ったトレンドを5つピックアップして、振り返っていきたいと思います。

その前に、、実は去年1月時点で2023年のフィンテック業界の予想をしていました。

この予想が当たったのかも気にしつつ、振り返ってまいりましょう。

① チャレンジャーバンク/BNPLの逆襲

チャレンジャーバンクやBNPLは、2022年まで黒字化できない/金利下がれば使われなくなるといわれ、そのビジネスモデルについて疑義がもたれてきましたが、2023年遂にトップティアのチャレンジャーバンクやBNPLが黒字化を達成!!!これにより、チャレンジャーバンクやBNPLに対する評価は大きく見直されました。

Monzo

チャレンジャーバンクとしては、もはや老舗といってもいいmonzoが黒字化を達成。2020年度決算で、監査人が事業存続の可能性について「重大な不確実性」を表明されてしまうほど綱渡りの経営が続いていましたが、レンディング事業が大きく成長し、売上高が増加しました。

決済手数料やサブスクフィーだけではなかなか1人当たり収益が伸びず、高騰し続ける顧客獲得コスト等を賄うことができていませんでしたが、レンディングサービスを導入し、コロナ渦を経て残高が積み上がると、2023年はARPUがなんと70%も増加しました。

Monzo Annual Report FY2023

レンディングを収益の柱とするチャレンジャーバンクが複数黒字化したことで、「便利でお得な決済サービスで顧客獲得をしつつ、レンディングでマネタイズする」という1つのモデルが確立されたといってもいいのではないでしょうか。

BNPLのAffirm / Klarna

また、BNPLでもAffirm、Klarnaがともに四半期黒字化を達成。

Affirmは、2023年9月期決算で調整後営業利益ベースで黒字化しました。主な要因は売上増加で、YoY+37%という高い成長を記録しています。売上高の成長には、Affirm独自のクレカ発行があり、クレカのアクティブ ユーザー数は 40万人、GMVは 2.2億ドルに達しているとのこと。BNPLでライトに顧客を集めつつ、クレカをクロスセルしていくことでユニットエコノミクスが合うようになってきているようです。

Klarnaも、2023年9月決算で黒字化しました。収益性改善に向けて審査をタイトにしたため、売上高成長率は以前よりも低い+30%にとどまりましたがクレジットロスなんと46%も減ったことで黒字化を実現しています。

Klarna Financial_Update 2023Q3

Nubank

更に、ブラジルのチャレンジャーバンク企業NuBankの大躍進も話題となりました。NuBankはお手本のようなクロスセルで収益を拡大しています。決算資料にこのチャートがはじめて登場した時は業界騒然でした。

NuBank IR Presentation 2023Q3

これらの企業のおかげで、再度B2Cフィンテック企業への注目が集まった年だったといえるでしょう。

② 法人カード競争の過熱、そして法人向けデジタルバンクへの進化

コロナ渦でのrampの急激な成長以降、この法人クレカビジネスが非常にホットな領域となっていますが、2022年に続いて2023年もフィンテック業界の話題の中心だったのではないでしょうか。

単なる「法人クレカ」としてとらえるのではなく、経費精算・コスト管理業務の自動化(CFO Suite)と広く認識されるようになり、サービスのパターンも広がりが出てきています。

この流れを生み出したのは間違いなくrampであり、新しい機能を次々と拡充しています。2023年は生成AIを活用したCopilot機能もリリースしています。(※rampの開発速度の速さにはいつも驚かされますが、それについてはこちらのブログで少しだけ触れられています。)

そしてrampの戦略に追随する形で、Brex、Navan、Pleo、Divvy、Jeeves、airbase、Mercury等々の会社が同様の機能拡充を遂げていきました。また、米国以外でも請求書/経費管理システムのスタートアップがたくさん登場したのが2023年でした。

直近ではrampとBrexどっちが大きいのか?!という論争も話題になっていましたが、この領域は生成AIの活用がしやすいこともあり、来年も引き続きホットなトピックになりそうです!

③ BaaSコンプラ問題の急増

米国ではBaaSのビジネスが急成長する中で、ライセンスを持つ金融機関がパートナーを適切にモニタリングできずコンプラ問題が多発しました。

Blue Ridge Bankは、Unit等のBaaS企業と提携し、様々なフィンテックプレイヤーへ金融サービスを連携していますが、適切なリスク管理とコンプライアンス順守をEnablerに頼りすぎていて自身で管理できていなかったとして、OCCから最初に改善命令を受けました。

その後、 Cross River Bank、Metropolitan Commercial Bank、First Fed等が、OCCから改善命令を受けており、こうした事態を踏まえて金融機関がBaaSを展開する際のパートナーに対するリスク管理について新しい指針が発表されました。

「最終顧客は金融機関の顧客であり、間に入るブランドパートナー、Enablerは、第三者に過ぎない」ことが明確化され、金融機関にすべての責任があることが改めて明確化されました。金融機関の責任というのは、当たり前と言えば当たり前なのですが、背景としては、中小銀行の場合、特にBaaS/AMLシステムのモニタリングは事実上困難であることから、中小向けには何らかの「セーフハーバー」を設けることを要求していましたが、それに対してもゼロ回答ということに。

これにより、パートナーやBaaS/AMLシステムの導入/モニタリング責任が重くなり、新規パートナー開拓は大幅にスローダウンしました。

④ 不正対応、AML対策スタートアップの増加

コンプライアンス違反に伴う罰金額も非常に高額なものになっており、例えば、2021年6月にJPモルガンは記録管理上の不手際で1.75億ドル、2023年3月にウェルズ・ファーゴもコンプライアンスリスクの監督が不十分だったとして、9,700万ドルの罰金を課せらています。

特に、Zelle、CashApp、Chime等の急成長した新興決済プレイヤ―たちは、経験が少ない分不正への対応が十分ではなかったため、詐欺グループに狙われ、不正利用に悩まされていました。しかしこれまでは、利益率よりも売上高成長を優先していたため、不正による損失は気にせずに事業成長に注力していました。しかし、一気に収益性が重要視されるようになると、不正対応の高度化の優先順位が上がり、こうしたケイパビリティを持つ専門ベンダーのニーズが高まりました。

こうした背景から、2023年(正確には2022年の後半あたりから)は、不正対応、AML対策に特化したスタートアップの資金調達が非常に多い1年でした。

毎週月曜日に発信している「フィンテック気になるニュース」でも取り上げた代表的な調達は以下の通りです。
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Alloy $ 52m
Sardine $ 51.5m
Unit21 $ 45m
Cable $ 11m
Themis £ 3.1m
TrueBiz $ 2.4m
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調達環境が厳しい中、不正対応、AML対策スタートアップのシリーズB~Cでの大型調達やシード調達が非常に目立った1年であり、フィンテックの1つのサブカテゴリーとして確立された1年でもあったのではないかと思います。

⑤ 預金性・利回り商品が人気に

米国では空前の高金利となったことで、利回り商品への人気が高まりました。その結果、高利回りな預金サービスが数多く登場し、一気に口座数と預金残高を伸ばしています。

そんな中で、わずか3カ月で100億ドルを集めたAppleの預金サービスの強さがわかります。金利が4.15%と当時としては常に高く設定されていたため、預金額を集めることができたように思われがちですが、米金融大手Capital Oneも金利4.3%の預金サービスを提供していることなどからもわかる通り、同水準の金利が付く預金サービスは少なくありません。そのような中で、何年間もサービスを運営している主要チャレンジャーバンクの規模と比較してみても、わずか3ヶ月半で預金額100億ドルの規模にまで成長しているアップルは目を見張るものがありました。

著者調べ

一方、SVBの破綻があったことで、銀行預金も必ずしも安全ではないということを再確認させられた年でもありました。この結果、預金を分割して様々な銀行に預けることでできるだけ多くの額を預金保護の対象にできるようにするサービスが登場したり、預金ではなく100%供託となる証券口座でMMF等に投資する銀行以外の預金性商品への人気も高まりました。

まとめ

以上、2023年のフィンテックトレンドを5つ取り上げてみました。
年初にした私の予想の結果は、、、

1.ValはB2Bフィンテックの大型上場が試金石に
 ⇒×:ほとんどのフィンテック企業のIPOは延期に、、、
2.Embedded FinanceにおけるB2B決済の進化と融資への注目
 ⇒:①の通り、融資の組込みによる収益拡大&黒字化の実績が出てきたことで、非常に注目が集まり、実際Embedded Lendingのプレイヤーもたくさん登場。
3.コンプラ/不正問題への対応を促進するサービスが黎明期へ
 ⇒:④の通り、不正、AML対策スタートアップの調達が非常に多い1年だったかと思います。
4.GAFAが推し進める、WalletとデジタルIDの進化
 ⇒:⑤の通り、AppleがApple Savingsをリリースし、ユーザー数と預金残高を獲得しました。一方、Googleはそこまで目立った動きはなく、どちらもデジタルIDについてもあまり進捗は見られませんでした。

うーーん、まぁまぁくらいの結果ですね笑。また近々、2024年の展望もまとめてみたいと思います!

昨年終盤は少し滞っていましたが、引き続き「気になるフィンテックニュース」は発信していきたいと思いますので、X上で見かけましたら是非コメント等々いただけましたら、大変励みになります!今年も何卒です!!

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