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今話題の日本版「コーナーストーン投資」を解説

ココナラ、セーフィー、エクサウィザーズ、、そして当社Finatextホールディングスと、2021年は「コーナーストーン投資」/「親引け」のIPO案件が多かった1年だったかと思います。これらは、多く方にとってはあまり聞きなれない単語だったのではないでしょうか。

そもそも「コーナーストーン投資」とは何か?
アメリカで主流となっているものとどう違うのか?
なぜ2021年になって一気に増えたのか?

実際に本取引を実行した現場の立場から、日本版「コーナーストーン投資」について、自分のわかる範囲で解説したいと思います。

そもそもコーナーストーン投資とはなにか?

英語でコーナーストーン (Cornerstone)とは「土台・基礎」といった意味で、コーナーストーン投資は以下のことを指します。

「中長期で保有でき、IPO時の初期の株主層の土台となってくれるような投資家に対して、事前にコミットしてもらう代わりに、一定のロットの株式を配分する」

コーナーストーン投資家は、上場承認時または直後に、株式を取得することをコミットします(法的拘束力はないので、正しくは「宣言する」イメージとなります)。コミットしてもらうのは、株数の場合と金額の場合がありますが、いずれも上限を設定しておき、ブックビルディング後の正式な条件決定後に配分する株数が決定します。

上場承認時にコミットしてもらう場合には、承認後に提出される届出書において、以下のような形で開示されます。

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URL: https://www.nikkei.com/nkd/disclosure/ednr/20211116S100MW86/

発行体としてのメリット

なぜ「特定の投資家へ事前に配分することを決める」ことが良いのか。それを考察する前に、一般的なオファリングのプロセスを簡単について紹介します。

オファリングは、大まかには以下のようなプロセスで行われます。

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このIPOプロセスを踏まえた時、コーナーストーン投資は、主に以下のようなメリットがあると一般的には考えられます。

1. バリュエーションの納得感の醸成
2. 他の投資家への波及効果
3. 確実な需要の積み上げによる安定した案件執行

1. バリュエーションの納得感の醸成
IPOにおいて最も重要な要素の1つとして、今まで価格がついていなかったものに、数百億円、数千億円という価値を付ける「価格発見機能」というものがあります。

一般的には、上場承認前にインフォメーションミーティング(IPOの前に投資家と面談するプロセス)を通じて、機関投資家から大まかな温度感を確認しつつ証券会社が想定価格を決定します。そして、ロードショーのフィードバックを踏まえて証券会社が仮条件を決定していきます。この価格決定のプロセスにおいては、どうしても証券会社に大きく頼らざるを得ないことになります。

コーナーストーン投資の協議プロセスにおいては、発行体である会社側が投資家とのカウンターパートになる必要があるため、発行体が直接機関投資家と議論する必要があります。このプロセスを通じて、機関投資家から、バリュエーションの考え方について、直接意見を聞くことができるため、証券会社から提示された条件について、発行体としても高い納得感をもって、議論や意思決定ができるようになります。

2. 他の投資家への波及効果
上場承認時または直後に、「コーナーストーン投資家が、目論見書に記載された想定価格で投資することをコミットしている」ことをアナウンスすることができます。このことは、その他の投資家に対して一定のポジティブな影響をもたらす効果があります。

特にIPOにおいては限られた数週間という時間の中でリサーチを行い、投資の意思決定を行わなければなりません。プロであったとしても誰がいくら出すのか周りの様子もわからない中で、投資の意思決定をするのは簡単ではありません。そのような中で、優良な投資家がコミットしていることがわかれば一定の安心感を感じながら意思決定をすることが可能になります。特に、類似企業が少なく評価が難しいケースにおいては、こうした目線感があることは非常に重要な効果をもたらすと考えられています。

3. 確実な需要の積み上げによる安定した案件執行
IPOプロセス概要で示した通り、ロードショー後に投資家からフィードバックを受領しますが、その段階では実際いくらを投資してくれるかは非常に読みづらい状況にあります。また、ブックビルディングにおいてもヘッジファンドを中心に本当に欲しい需要額の何倍ものオーダーを出すことがあるため、実需としてどのくらいのオーダーがあるかはわかりにくくなります。コーナーストーン投資家が一定金額を事前にコミットしてくれていることで、ブックビルディング期間中に集めなくてはいけないオーダーは少なくて済むこととなります。

この結果、変動の大きいマーケット環境下においても、確実な案件の土台となる確実な需要に支えられて需要面で案件執行を行いやすくすることができます。今年はマーケットボラティリティが高かったことからもそうした案件執行を確実に行うために「コーナーストーン投資」の活用が多くなったという側面もあったかもしれません。

直近の日本における事例

スタートアップのIPOにおける投資家による親引けは、私が知る限り合計5件あると認識しています。

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ココナラとビジョナルは、既存投資家による親引けであるため、比較的過去事例もあると思いますが、セーフィー以降の3件で行われている新規投資家による親引けは、これまでにない新しい案件であったと言えるのではないかと思います。
※ちなみに、、ビジョナルの案件でVCであるZ Venture Capitalが親引けで追加出資しているのも、かなり画期的な事だと思います。

実は2種類ある、日本版コーナーストーン投資

そもそも日本には、「コーナーストーン制度」と呼ばれるものはなく、現行制度のスキームを活用することで、「IPO時に、特定の機関投資家に、特定の配分を行う」ことを可能にしています。

日本においてコーナーストーン投資を行う場合、実は2つのスキームが考えらます。1つは「親引け」で、もう1つは「並行第三者割当」です。

1. 親引け
・概要:IPOでの販売分から、発行体が指定する投資家に、その一部を割当すること
・ロックアップ期間:180日

2. 並行第三者割当
・概要:IPOにおける引受けのタイミングにおいて、同時並行で、第三者割当増資を行うこと(IPOとは別ポーションとなる)
・ロックアップ期間:1年

※法的な留意事項については、弁護士にお問い合わせください。
※ロックアップ期間:上場後IPO前の既存株主が売却することができない期間

なぜ今、注目を集めるようになったのか?

今、コーナーストーン投資が注目を集まるようになったのは、投資家のニーズの変化と規制の変化の両方の側面があったと考えています。

投資家のニーズの変化
スタートアップへの投資が過熱し時価総額が高くなったことで、プライベートマーケットでの投資に対するリターンが大きくなる一方、上場している大型株でリターンを上げることが難しくなってきています。その結果、上場株を中心に投資していたファンドでも、非上場スタートアップへ上場前に投資するトレンドが加速しています。

例えば、香港のヘッジファンドTybourne Capital Managementは、ロングショートファンド(買いと空売りを組み合わせて、短期で絶対リターンを狙う戦略)から撤退し、非公開株とロングオンリーにフォーカスする方針に舵を切っています(※参考記事)。

非上場スタートアップへの投資の魅力は、主に2つありますと考えています。

1つは、単純に高いリターンを期待することができることです。上場前であるため流動性もない中での投資となるため、リスクが高い分、上場時よりも低い評価額で投資することが理論上は可能になります。

もう1つは、 1社に多額の資金を投資することができる点が挙げられます。通常、上場時には上記のブックビルディングのプロセスを経て、幅広い投資家に持ってもらいたいため、またせっかくロードショー(投資家面談)に参加してもらったのに全く株を渡さないのもよくないこともあり、1社にたくさんの株式を配分することは難しくなります。一方、非上場時にはこうした制約はないため、1社に対して大きなロットで株式の割当を受けることが可能になります。

IPO時のコーナーストーン投資では、上場前ではないため、魅力の1点目は限定的になりますが、2点目は享受することが可能です。特に大型ファンドの場合、非上場株への投資を行うほどではないけど、成長ポテンシャルの高い企業にある程度のロットで張りたいというケースが増えてきていることから、コーナーストーン投資への関心が高まっていると考えられます。

規制の変化
実は、2020年11月の東証規則の改正により、上場時の「並行第三者割当」が実務上可能になりました。これにより「日本版コーナーストーン」が可能になったと考えられるようになりました。これを契機に(実際私自身もそうですが)、コーナーストーンを活用できないかと考えるようになった人が増えたのではないかと思います。

しかし、検討を進めていくと、「親引け」の方がロックアップ期間は短く投資家から受け入れられやすいことから、「親引け」を選択する傾向にあります。「親引け」自体は従来からあるスキームですが、原則禁止されており、割当先を投資家とする「親引け」はあまり行われてきませんでした。

上記の規制変更の中でコーナーストーンを検討する人が増えた結果、従来から存在する「親引け」というスキームに注目が集まり、議論を積み上げていくことで、本スキームの活用が可能になったのではないかと個人的には考えています。

最後に

まだまだプラクティスが確立されていない日本版のコーナーストーン投資ですが、少しでも参考になれば幸いです。これから拡大していくスタートアップがよりよいストラクチャですることができ、この業界がもっともっと活性化していくことを願っています!

Finatextは上場しましたが、日本の金融インフラをアップデートするべく、まだまだ大きなチャレンジをしていきます。それに見合ったインセンティブプランもあります。少しでも興味を持っていただける方がいたらぜひTwitterかMeetyでご連絡ください!

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