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エッセイ「倒れる」


これまでに人が倒れるところを何度か目撃したことがある。昨日も電車の中でどだっ!!と音がして顔を上げたら男性が直立姿勢から後頭部をぶつける形で倒れていた。ざわつく車内。
音に敏感なわたしは反射的に「ぎゃっ!」と叫んでしまった。その声でまた車内がざわつく。ごめんなさい。

車中の我々はみんなそわそわしてあるものは緊急停止ボタンを押し、あるものは男性を椅子に座らせ、あるものはそのままにした方が良いのではとアドバイスする。
わたしは所在なくただ心配そうに見、スマホで「人 倒れたら 救助」で検索をかけていた。検索するのみ、つまり無能である。

椅子に腰をかけた急病人の顔色はぞっとするほど血の気がなく、腕の血管が浮き上がっていた。そして彼はマスク越しに何度もあくびをしていた。マスク外してもいいんでないかい?そう思ったけど席も向かいだったし無能なので声がかけられない。念のため車内にAEDがあるか目視で確認するが見当たらない。ああいうのはもしかして先頭と最後の車両にしか設置されていないのかしらん。

人が倒れると、赤の他人であっても心配になる。でも同時に関わらない方がいいのかもしれないとも思ってしまう。わたしは無能だけれども有能で優しい人間だからこそ巻き込まれるトラブルもあるだろう。このご時世なら特に。

倒れた彼はそのあとスマホでぽちぽち打ち込みしていたので、知人が駅まで迎えに来てくれたらいいなと願った。


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