🦑　【掌編】おしりがかゆい

いけない。
どうやら私は「人前でかけない場所が痒くなる呪い」にかかってしまったようだ。

元来の頑固さや皮肉屋であることを深く反省し、人様とはなるべくやりあわないように重々慎重に過ごしていたつもりが、先日ちょっと職場の後輩であるめぐちゃんにうっかり口を滑らせてしまったのだ。

「めぐちゃんはいいなあ実家暮らしで。自分で使えるお金たくさんあるんでしょう？」

最後の「しょう」のところでめぐちゃんの顔が軟体動物のようにぐにゃりと歪み、
「ああん？」と顎をしゃくりながら睨みつけてきた。

ああん？　にはそれぞれ濁点が付いている。
しまった、と反省した時には時すでにお寿司、
「なんかあ、感じ悪いんですけどお！　坂田さん私のことパラサイトって言いたいんですか、依存って言いたいんですか家事やってないって言いたいんですか！！」
つかつかと詰め寄られてしまった。

めぐちゃんの右腕にはパワーストーンのブレスレットが四連に装飾されている。恋愛成就、交通安全、家内安全、立身出世だそう。他力本願にもほどがある。

彼女は重そうな右腕をじゃらじゃらさせて、左手と右手を組んで印を結ぶと天井にかかげて大声で叫んだ！

「坂田さんが人前でかけない場所が痒くなりますようにっ！はっ！！！」

めぐちゃんの呪いの効果はてきめんで、翌日から私は人前でかけない場所が酷く痒くなった。

臀部のちょうど肛門半径5センチに渡り猛烈にもぞもぞする。臀部をきゅっと締めたり、椅子の角でごそごそやるんだけれども、どうも人目が気になってダイレクトにまさぐることはできない。

「ごめんごめん、馬鹿にしたわけじゃないのよ。単純に実家暮らしの頃のじぶんと比較して今が経済的にきついからめぐちゃんが羨ましくて…」

お昼休みの時間に正直にめぐちゃんにそう謝ったのだが、彼女は細い瞳をキッと釣り上げてキイキイ怒鳴った。

「そういう、自立してる私マウンティング、やめてもらっていいですか！！　ハッ！」

ワダアキコ並のハッ！　を繰り出した後、彼女はまた両手で印を結んだ。

「坂田さんの見えないところがハゲますようにっ！！」

まじか、見えないところがハゲるのか私は。右手を後頭部に当ててハゲるな耐えろと念じてさわさわ髪を撫でた。

でもめぐちゃん、素人が呪いをかけるとおぞましい呪い返しが来るって知ってる？

さっき喫煙ルームで聞いちゃったんだ。

使えない人間は人員削減として尻から切ってくってさ。スピリチュアルかぶれのあいつがいなくなっても痛くも痒くもねえよなって。

まあ、職の一つ無くしたって大丈夫だよね。

なんたって実家住まいなんだから。

（了）

イカ変態同好会に勝手ながら参加させていただきました〜。楽しかったですー🦑

#イカ変態同好会 #小説

私は実家暮らし賛成派です。貯金ができるのも、自分の時間をたくさん持てるのも親孝行できるのも実家暮らしの良いところです。お母ちゃんの料理食べたい…。

そして、実家暮らしの人、ちゃんと両親に食費入れているひとがほとんどですよね。（わたしは実家暮らし中、一銭も入れていませんでした。ごめん）