ネクローシス(necrosis)
静岡県歌人協会年刊歌集(第三十集)の8首をほぼ推敲した。未来800号記念原稿の10首をベースに、多少手直しをして8首とした。
タイトルは、当初「アポトーシス」としたが、「ネクローシス」に変更した。私の詩歌は、アポトーシスのようなプログラムされたものではなく、ネクローシスのような身体の一部の自己融解だと思っている。
ただし、生物体の壊死とは異なり、想念の壊死は完全には修復されず、むしろその傷は生々しく残る。壊死が大きいほど、想念の喪失が大きいほど、詩歌として良いとは限らないが。
ネクローシス
習いたて指でマッチを擦るように冷蔵庫のなかベッドを燃やす
眠ってる眸を指で開くときみなしたふ魚が素早く逃げる
夏の日のわずかに欠ける貝殻のいち枚だけを月だと許す
ひとを抱いたあとの夜へと戻るときからだのまるさ隙間はかなしい
寝室は岸辺のように明けてゆく駆け足で遡る死後へと
永久凍土のなかのふたりのままならば死篭り卵になって微笑む
理解できないままに最後の列につく後ろはきっと比喩にすぎない
パブロフの犬の反射のようなもの一生をふいにする喜びは
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