殻がない

殻がない

暖かい日差しから細いひとの産毛の呼吸を思い出した
奥浜名湖の岸辺へ帰りたくなる
そこから今切をあこがれる
ポエジィは事象から脱しようとする哲学
だと誰かが言っていた
海を渡る蝶が皮膚に引っ掛かって波が生まれる
わたしは海へむかって歩き出す
乾いた心は形而上学である
たんぽぽの汁を舌先に落としてみると
何かがはじまる
そのなかで魚がはね
死んだものにも影があるように
後ろから大股でやってくる
骨のない内面を
不合理を
感情を持たない文字を
くちづけをしようとして唇がなく
近づこうとして足がない
レントゲンのなかで真珠になる
ふたつに切られた林檎になる
ひらき鏡のなかの殻付きの寝具になる

#詩

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