受胎

受胎

いともすみやかに接吻は忘れられた

放物線を描いた鳥の
糸柳の髪でしかなく
空の水脈を攪拌する杖がある
石灰質の裸身を人外に晒しながら
生まれなかった姉の
名前を聞いたことがある
幡の終わらない参道に
葬列は乱れ
風に緩やかに呼ばれている
招かれていたのかもしれない
逃避なのかもしれない
むかし
飛行機が墜ちた日のこと
海岸に耳が打ち上げられ日のこと
たくさんの林檎の実が落ちた日のこと
覚えている
そのあと
小雨が犬のこうべに至り
この星がたわわに実る      
    *
姉の畑に落ちていた林檎を
妹が食べた
きっと
硝子の唇にいともたやすく
接吻を覚えるのだろう

#詩

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