式典のあさ

あさの
整列した内側が容易く抜け落ち
こえ、不自由なこえのひろがりが
行き先を失い暗く
素直に従うさきへと高く
行き先を変更した
風の、や けあと
あれから喉仏は乾いたまま
唇を閉じて窓を開けている
あさ、ミズアブを逃がそうと
窓を開けてやったら
唸りながら滑り落ちて
先生は何も話さなくなった
いつも微笑んでおられたのに
桜はいま満開で
沸騰した血の上流の色
やがて
知らない下流にまで
花を咲かせた
あさに
式典は始まる
割れた鏡の
わたしやわたしの
前に並んだ児童のうなじ
が陽炎のように
独楽のように
揺らいで空をいくつもいくつも
見せる
かつての夏に
と、話した人をそっと盗み見た
深呼吸した座標軸の
逆光に透ける葉脈には
戦死した兄のたましいが
みえると言う
棺にはなにも入れるものがなかったが
悔しさだけがいまだ
帯状疱疹のように痛い
ヘルペスウイルスは三半規管に潜伏し
忘れたころに病状を再発させる
結べないこと解けてしまうこと
の大半はうちがわにあり
つややかな髪を抜くには
力が足りず
影を踏みつけるには
なま焼きのままで
燃やしてしまうには
水を含みすぎて背丈がある

また、空が光ったのだ
あさの焦げ跡に

#現代詩

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