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わたしの本棚129夜~「相米慎二という未来」

 相米慎二監督が亡くなって、2021年は20年になるそうです。享年53歳。当時のスタッフやキャストから、たくさんの方から愛された相米監督。本書は「相米慎二監督を過去にしない」ということをテーマに書かれています。相米監督が撮った13本の映画が紹介され、監督と会ったことも仕事もしたこともない人たちとの「邂逅」。出演者の「回想」。関係者の「証言」。主としてこの3つから構成されています。

 一介の主婦であるわたしからすると、スクリーンの向こう側では、こんなことがあったんだ、映画はこういう風に作られていくんだ、こんなに愛された監督だったんだということがわかり、面白く読みました。小林淳一氏と金原由佳氏の編集です。

☆「相米慎二という未来」 金原由佳、小林淳一編 東京ニュース通信社 2700円(税別)

 相米慎二監督の台本がカラー写真で載せられ、以下の13本の映画が写真と一緒に紹介されています。

・台風クラブ

・ションベン・ライダー

・雪の断章―情熱ー

・東京上空いらっしゃいませ

・翔んだカップル

・セーラー服と機関銃

・光る女

・ラブホテル

・お引越し

・夏の庭 The Friends

・魚影の群れ

・あ、春

・風花

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出演者の「回想」は三浦友和氏をはじめ8人(↑の写真右上)の俳優へのインタビューの形式です。「台風クラブ」は、わたしは残念ながら公開時に観てなくて、数年前にビデオで観たのですが、この作品が三浦友和氏は俳優生活の転機となったそうで、今まで正統派だったのが、梅宮という教師役でぶち壊された形になります。三浦氏が「放置プレイ」といった相米監督の演出方法は、牧瀬里穂氏は、無口で「さあ、やれ」と無茶苦茶なことをいうな、と思ったそうです。逆に浅野忠信氏は、「我々役者が主体である撮影現場であるということ、俳優が何か生み出さないかぎり現場は何もすすまない」のは、自分の中で全てが腑に落ちる現場であったそうです。佐藤浩市氏は、灯にたとえています。「灯りっていうのは正面から受ければ眩しくて見えねえんだよ。でも、その人の後ろから灯りを当てれば道がみえるだろう。今、日本映画の演出で多いのは、前から灯りをあてる演出。でも、後ろから、灯りといえない仄かな灯を当てて、役者を前へと進ませてくれていたのが相米のやり方だったんじゃないのか、と。」

「邂逅」では、村上淳氏をはじめ、相米監督と直接会ってない世代から板垣瑞生氏、唐田えりか氏の俳優陣。松井大吾監督、土井裕泰監督。「証言」は制作スタッフで、音楽、美術、脚本、スタイリスト、助監督の人達が現場での監督を懐かしみます。

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監督の台本が、カラー写真で掲載されています。「台風クラブ」では、↑のように「自分で考えろ!」という書き込みもありました。あとがきに、金原氏が相米映画では、何かをみるかは観客に主導権がある、と書かれており、これは優れた芸術全般にいえる鑑賞の仕方でもあるなあ、と思いました。読んでいて、現場でたくさんの人から愛されたこともわかり、非凡な才能とともに、没後20年なおも愛されつづけ、こんな面白い映画作り、未来に伝えなくてはという編者たちの思いも伝わってきました。

#読書の秋2021 #相米慎二という未来 #金原由佳 #小林淳一 #東京ニュース通信社



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