純粋無垢なマスターキー

 昨年度の警察白書によれば、1日平均で49,420件の電脳犯罪が発生した。人間が脳と機械を融合し、ウェブに常時接続できる電脳を手に入れて以来、最大の件数だ。ほぼ2秒に1度以上、どこかで誰かが電脳犯罪の被害者になっている計算になる。
 文明が発達するたびに、それを捨てるべきだというプリミティブな意見は常にどこかで誰かが叫んだが、人類は引き返せない。金を、車を、ウェブを、そして電脳を捨てることはできなかったのだ。

「それで僕に声をかけたと?」

 彼の問いかけに俺は頷いた。
 山小屋の中で、圧倒的な存在感を放つ鉄塊。それはマサカリだった。今時珍しい、電子制御されていない武器。これが彼のアイデンティティだ。
 電脳犯罪に対抗するには、電脳化を施していない人材を用いるしかない。非電子マサカリを振るい、山奥で野良ミュータント(バイオ系メガコーポの違法廃棄モノだ)を狩り、極めて原始的な生活を営む目の前の彼は、条件に適していた。

【続く】

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