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雑居ビルの1.5階で一人酒を覚えた夜

大学生活も終盤にさしかかりいよいよ就活の時期。興味があった出版・マスコミ系に絞って就活していたが大手は全滅。結果、地方でタウン誌を作っている出版社に運よく拾われた。

不動産屋を4件回って見つけた家賃3万8000円のアパートで始まった新生活。もちろん知り合いはゼロだったので休日になってもやることがなく、少し広い11畳のワンルームで暇を持て余していた。

生活にも慣れてきて、一人でやりたいこともやりつくした9月の休日。「絶対遊びに行くわ」と言っていた友人達は一向に来る気配がないのでついに飲みに出ることを決心。お酒の席は何度もあったが、一人で飲みにいくのは未経験。特にビールが好きだったので、事前にチェックしていたクラフトビールを扱うお店にいくことに決めた。

目的のお店は雑居ビル1階の最深部。階段を5段ほど上がった1.5階にあった。ビビりながら扉を開けると、長髪にちょびヒゲを蓄えた店主が心よく出迎えてくれた。店内は、一枚板のカウンターがあり6人座るといっぱいになるこじんまりとした空間。常連さんがいないであろうオープン直後を見計らったのもあって、店には僕一人だけ。ぎこちなくオススメを聞くと、ハンドポンプに繋がれたクラフトビールを勧めてくれた。

いわれるがままそれを注文し、‟1パイント”という聞きなれないサイズでてきた記念すべき一杯。少しくすんだ黄金色の液体の上には、目の細かい真っ白な泡がグラスなみなみに入っている。大人ぶって香りを確かめてみると社会人1年生のペーペーでもこれまで飲んできたものとは違うと感じた。恐る恐る口に含むと、ほどよい苦みと少し高めのアルコールが刺激を求めていた身体に一気に染み渡った。

徐々に緊張はやわらぎ、用意していた会話のネタを使い切る頃にはお酒が回りほろ酔い気分。気が付くと2時間以上が経っていた。そろそろ帰ろうとお会計をお願いすると「また来てくださいね」とマスターが爽やかに声をかけてくれた。

その言葉にまんまと乗せらせ、今ではほぼ週1ペースで通っている。仕事の愚痴に始まり恋愛の話や将来の事など、ここに来れば気を張らずなんでも話せるようになっていた。この店がきかっけで友人や飲み仲間もでき、どんどん生活の幅は広がっていった。最初は、クセの強いお店に来てしまったと思っていたが一人酒の解禁がこの店で本当に良かったと思う。あの一杯はずっと忘れないと思うし、子どもの頃に思い描いていた大人に近づいた気がした。

#ここで飲むしあわせ #お酒 #ビール  

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