怒羅獲者・その5・物の価値は人それぞれ~!の巻

バブルの産湯でBlue~Blue~♪End of Showdown No down のたまう~♪どんどん 下がる 地価 価値が~♪世界の皆さん アニュハセヨ~♪ 静華ちゃんは泡姫だ。1日の大半をお風呂に浸かって、歌を唄って過ごしている。子供の頃から静華ちゃんはお風呂が大好きだったから、今の仕事は静華ちゃんにあっているのかもしれない。子供の頃、僕は、静華ちゃんのお風呂を覗くのが好きだった。静華ちゃんちは僕の近所の長屋だったから、夕方になると、僕はよく覗きに出かけた。静華ちゃんに見つかると怖い顔で怒ったけれど、今は怒りはしない。僕は時々お金を貯めては、静華ちゃんの店に行く。静華ちゃんと一緒にお風呂に入り、色々な話をする。大抵は夢の話で、そのどれもが叶いやしない夢だった、と思う。今までは…でも、今なら、もしかしたならその中の一つくらいなら叶うかもしれない。今日はその話を静華ちゃんにしようと思う。その為に僕は来た。今日は伸太さんが店に来た。いつも伸太さんは一緒にお風呂に入るだけで、それ以外は何もしない。だから一方的に私が喋っては時間になる。正直、伸太さんは楽なお客さんだ、最初は裸を伸太さんに見られるのが嫌だったけれど、伸太さんはお風呂に入って始めようとしたら「違うんだ…静華ちゃん…ただ話をしたいんだ」と言った。それからと言うもの、伸太さんは店に来ても、裸になって一緒にお風呂に入って話をするだけで帰っていく、話をすると言っても、いつも伸太さんは相槌を打つだけで、ほとんどは私が話しているのだけれど。だけど、今日の伸太さんは違った。部屋に入ってくる時から、どこか思い詰めたような顔をしていた。いつものようにお風呂の中で私が話し始めると、私の肩をがっと掴んで「静華ちゃん!もしも一つだけ夢が叶うとしたら…一つだけ叶うとしたら…静華ちゃんは何を願う?」そう唐突に伸太さんは私に言った。私は、冗談だと思ってはぐらかそうとしたけれど、伸太さんは掴んだ肩を離さない。私はもう一度伸太さんの目を覗いた、その目はとても真剣だった。私は思った。夢の事を。沢山夢を見た、子供の頃からずっと。中でも私の心を捉えて離さなかったのは、小さな白い家だ。その家はゴミ捨て場に、小さな人形達と一緒に捨ててあった。赤い屋根と白い壁、部屋の中には花柄の壁紙、かわいい家具類、レトロなキッチン、広い応接間、中でも私がお気に入りだったのはお洒落なバスタブだった。その家を空き地に持っていっては、人形を自分に見立てて、庭を作っては、花を飾ったりしては、時間を忘れて私は遊んだ。毎日お洒落なバスタブに浸かって、かわいい白い子犬を飼って、庭には薔薇の花を沢山植えて…私の想像は膨らんだ、そして、いつしかそれは現実になった。私の中で。しかし、月日が経つにつれて、その現実は私を苦しめる存在になっていった。私は大人になったのだ。そう、自分を納得させた。この仕事を選んだ時、私はその豪華な部屋の内装に見とれてしまった、それは、あの家のお洒落なバスタブとかわいい部屋みたいだったから。私がこの部屋に居るときには、部屋の外には広い応接間があり、レトロなキッチンがあって、家の前には薔薇で一杯の庭があり、そこにはかわいい白い子犬が走り回っている。だけど、店を一歩出ると…そんな頃だった、あの家を見つけたのは。仕事帰り、町外れの外国の人たちが多く住む地域に、あの家を見つけたのだ。子供の頃遊んだあの小さな白い家は、とても大きな家になっていた。私の想い描いたとおりの、理想の家に。その日から私はあの家を、買うためにお金を貯めはじめた。この仕事は普通に働くよりはずっと稼げるけれど、あの家を買うには全然足りない。でも、その夢が今の私を支えている。だけど、買える頃にはオバサンかお婆さんになっているかもしれない。それを思うと、私の心は暗くなる、そんなとき、私は歌を歌って自分を慰める。静華は言った。「伸太さん…あの家を覚えてる?子供の頃一緒に遊んだ、小さな白い家…」伸太は静華を真っ直ぐ見つめたまま答える。「覚えているよ。静華ちゃん!」静華は少しうつむいたまま、小さな声で呟くように言った。「あの家とそっくり同じ家が…町外れにあるの、その家に私は住みたい…」伸太にそう告白したとたん、静華の中で、何かのタガが外れた。静華の中で何が溢れだし、それは涙となって静華の頬を流れた。泣きじゃくる静華の肩を握ったまま、伸太は言った。「わかったよ!静華ちゃん!!」いつになく伸太のその声は自信に溢れていた。家に帰ると、伸太は怒羅獲者に三つ目の願い事をした。怒羅獲者は願いを聞くと、窓から出ていった。そして、数週間の時が流れた。

ある日怒羅獲者は窓から帰ってきた。窮屈そうなスーツ姿で。乱暴に僕のほうに紙の束を投げると「お望みの家だ!」そう言って引き千切るようにスーツを脱いで押し入れに入ってしまった。「これが家?」僕は驚いて、紙の束を見た。それはあの家の諸々の権利書だった「怒羅獲者これって…」と、呟くように言うと押し入れの中から眠そうな声で怒羅獲者が言った。「不良債権だ、時間はかかったが楽な仕事だった…明日、判子を持って家に行け……」そう言ったまま、怒羅獲者は寝てしまった。翌日静華ちゃんに紙の束を渡した。家の前まで行くと、怒羅獲者の使いだと言う男が待っていて、静華ちゃんと手続きをした。そして白い家は静華ちゃんの物になった。夢をみてた。起きているのに、私は夢をみていた。なにがなんだか判らないうちに、目の前の男の人は言った「これで、この家は貴女の物です」と。どれくらい経ったか、私はようやくこれは夢ではないのだと、思い至った。そして、現実だと噛み締めるほどに、夢のような気分になった。私は泣きながら笑ってた。私の横で伸太さんも、泣きながら笑っていた。これは夢だけど、夢ではないのだ。夢だけど、夢ではないのだ。それから数週間、私は白い家を一人で改装している、まだ、お母さんには言ってはいない。店は辞めた。古い家だから所々痛んではいるけれど、自分の理想の家にしていく作業は眠りを忘れるほど楽しい。花壇には薔薇の種を撒いた。白い子犬を数匹買った。花柄の壁紙を貼って、理想のバスタブを買って、タイルを一枚一枚貼っている、まだまだ先は長いけれど、一つ一つの作業が楽しくてしょうがない。鼻唄混じりに作業している。これは私の夢の家だから。子供の頃に夢見た理想の家だから。バブルの産湯でBlue~Blue~♪End of Showdown No down のたまう~♪どんどん 下がる 地価 価値が~♪世界の皆さん アニュハセヨ~♪ その5・物の価値は人それぞれ~!の巻

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