怒羅獲者・伸太と狂人教団・その2 どっか異国からの来訪者現る!誰も彼も見られてるぜぇ~!の巻

世界中の情報は、今や蜘蛛の巣のように張り巡らされ、個人が個々に情報端末を持つようになってからはその情報量は天文学的に跳ね上がった。
電話回線、Web、スキャニングされる膨大な紙媒体。それらに情報としての隔たりはなく、情報を喰らう蜘蛛は、この瞬間も、獲物がその糸に引っ掛かり、もがき出すシグナルに全神経を集中させている。その蜘蛛の名前はエシュロンと言う。

整然と配置された高価なマシン達は、複雑に絡み合い、どこか有機的ですらある。青や赤や緑に小さく光る小さなライト。幾つもの大小様々なモニター。重なりあう空冷ファンの音と、肌寒いほどの室温。いつもとなんの代わり映えのしない、ピッポの小部屋の中で今日唯一違ったのは、一匹の蜘蛛が1つの貴重なシグナルを感じ取った事だ。
その蜘蛛のいる場所は日本。青森の三沢基地。待ち望んでいたシグナルではあるけれど、ピッポはなかば諦めてもいた。それはまるで、藁の山の中から小さな針を探し出す事よりも難しい。そもそもそんな針があるのかも、解らなかったのだから。しばらく、どのくらいか、動けなかった。これからの事を、思った。
決断しなければならない、そこにどんな悪意が待っていようと、ずっとこの時を待っていたのだから。準備は万端だ。
ピッポはデータを端末に詰め込むと、シャベルとバックパックを担いで、センサーにデコイの情報を送ると、部屋を出た。そしてグリムの森に向かった。

何時間か車を飛ばしてグリムの森に着いた。グリムの森は荒廃とした雰囲気を漂わせている、人気の無い潰れた遊園地だ。もう何十年もこのままになっている。ピッポはその中のお菓子の家に入り、朽ちかけた床板を剥がす。そしてひたすらシャベルで土を掘った。
カチリとシャベルの先が何かに当たる、シャベルを捨て、残りを手で掘り出す。
あれは、ずっとこのまま土の中で待っていた。ピッポが来るの、ずっと。
幾重にもくるまれたビニールを剥がすと、いびつなボーリングの玉のような黒い石が出てきた。ボーリングの玉のように3つの穴も空いている。表面には厳めし呪術的な装飾が施され、3つの穴の下に文字が刻まれている。
ピッポはひとしきり玉のような石を眺めると、バッグパックに放り込んだ。
そしてまた、車に乗り込むと「極東の日本か…日本語も練習しておけば良かったな…」と、ドイツ語で呟いた。

伸太はスマホが壊れてしまった事に焦っていた。あのアラム語の文章をGoogleでググった途端、スマホはウンともスンとも言わなくなった。しばらくいじくり回していると、真っ暗だった画面に一瞬スマイルマークが表示された。そして、スマホはもとに戻った。だから、伸太はその事をあまり気にもとめなかった。

数日後、伸太の家を訪ねる一人の外国人がいた。伸太が玄関に出ると、金髪のくるくるパーマで、どぎつい牛乳瓶の底のような眼鏡をかけた、あばた顔の白人の青年が「ハーイ!ノビノビター!!アイタカッタデース!!」と、いきなり言って抱きついて来た。
突然の事に伸太が戸惑っていると「ワタシハー!ピッポ、ザンダー、ト、イイマース!ピッポ、ト、ヨンデクダサイー!ヨロシクオネガイイタシマース!!」と、白人の青年は自己紹介した。そして、玄関からそのまま階段を上がって二階に行ってしまった。伸太は驚いて、ピッポの後を追って階段を登っていくと、ピッポは伸太の部屋のふすまを開けて「怒羅獲者~!コンニチハー!!」と言った。怒羅獲者は、上半身を起こすと、ピッポを見据えるように見ていた。怒羅獲者のその猛獣のような視線を浴びても、ピッポは笑顔を崩さなかった。時間的にはきっと短い間ではあったのだろうが、伸太はピッポの顔の表面があまりにも長い間変わらない事に、生きた能面のような印象を受けた。だからなのか、ブルッと悪寒が伸太の背中を走った。
ピッポは伸太に「ボクノコトバー!ヨウイシタ、ブンシカ、アリマセン!ノビター!怒羅獲者ニタノンデ!ボクニ、コトバ、ハナセルヨウニ、シテクダサイト、イッテ!!」急にそんな事を言われた伸太は、怒羅獲者に助けを求めるように視線を送るが、怒羅獲者はもう、押し入れの中で背中を向けて寝ていた。ピッポの脅迫するかのような笑顔に、また悪寒を感じた伸太は「怒羅獲者~!お願いします!ピッポが日本語が話せるようにしてあげてー!!」と、なかば叫ぶように言った。
すると、のそのそと、熊のように押し入れの中から怒羅獲者は出てくると、押し入れの中からバッグパックを引っ張り出してきて。その中から、スマホやらMacBookを出して、小さなチップのような物を、大きな手で器用にいじくり回していた。
暫くすると、怒羅獲者は「出来たぞ!!訛りからぁ、基本言語はドイツ語で良いなぁ!!!」と言ってピッポに首輪のような物を放り投げて渡した。
ピッポは当たり前の顔をして、それを受けとると、自分の首に巻いて「伸太、怒羅獲者。ありがとう。これから暫くお世話になります」と、綺麗な日本語で言った。伸太は唯々、驚くばかりだった。

怒羅獲者・伸太と狂人教団・その2
どっか異国からの来訪者現る!誰も彼も見られてるぜぇ~!の巻

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