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メンコとショベルカー。
ふと思い出した話。
あれはまだ、ピッカピカの小学1年生の頃のこと。
家のすぐ近くで、工事が始まった。新しい家が建つらしく、物心ついたころからあったボロボロのちいさな倉庫みたいな建物が、あれよあれよと解体された。何もなくなった倉庫跡地に、ショベルカーがきた。
憧れのショベルカー。なんでかはわからないが、当時、一番好きな乗り物がショベルカーだった。ショベルカーのおもちゃも、5台くらい持っていた。
そんな憧れの乗り物を、間近で見るのは初めてだった。しばらくずーっと見ていたが、なんの衝動に駆られたのか、突然、家に帰って、ショベルカーの絵を描いた。
描き上がるやいなや、家を飛びだし、描きたてほやほやの絵を、ショベルカーに乗っていたおじさんにわたした。
絵をもってモジモジしていたら、わざわざ作業を止めて、ショベルカーからおりて、絵を受け取ってくれた。何を言われたかは覚えていない。でも、受け取ってくれた時の表情は、今でも覚えている。
その日から、工事現場は毎日通う場所になった。通うといっても、家の目と鼻の先なんだけど。
働く人はみないい人ばかりで、缶コーヒーを飲みながら休憩している時、どこの誰かわからない子と地べたに座っておしゃべりしてくれた。
ある日、ショベルカーおじさんが帰り際に言った。
「バイバイ、坊や。」
ショベルカーおじさんはいつものように、それしか言わなかったが、なぜかぼくにはわかった。もうおじさんたちには会えないのだと。今日が最後なのだと。
ショベルカーおじさんはその言葉の後に、何かを手渡してきた。
ガチャガチャのカプセルだ。中にはミニ四駆のメンコが入っていた。
きっと、いつも現場にきてた坊やに、最後に何かをと思ってくれたのだろう。そして、流行っていたミニ四駆のメンコガチャを見つけ、ガチャガチャっとしたのだろう。
「知らない人から、モノをもらってはいけません。」
こんなことが小学校では教えられる。知らない人についていっちゃいけません、と同じように。
ちくちくとした寂しさと、メンコどうしようの迷いでその場に立ちつくす坊やを置いて、ショベルカーおじさんを乗せたダンプカーがゆっくりと走り出す。
ダンプカーの後ろ姿を見つめる。
「いや、ダメだわ!…お母さんに怒られるわ!!!」
とても真面目な坊やだったのだ。走っていくダンプカーを、全力で追いかける。自転車で。
曲がり角で減速したダンプカーに追いつく。
「あの…これ。」
メンコを返そうとする。ダンプカーの窓から顔を覗かせるショベルカーおじさん。ダンプカー、めっちゃでかい。ビルの2階から顔を出しているように感じた。
「いいよいいよ!あげるって!」
そう言うと、かっこよく手を振ってきた。
ダンプカーが走り出す。ビルくらいに見えたダンプカーは、ミニ四駆くらい小さくなって、そして見えなくなった。
あの時のメンコは、まだ実家のおもちゃ箱にあるだろうか。ショベルカーのおもちゃと一緒に、入っているだろうか。そんな、ふと思い出した話。
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