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「好き」の正体を探る

 「好き」とはなにか。そんなくだらない恋愛のフレーズを、私は最近よく考えてしまう。

1.知った気になれる質問

 結論から言うと、「好き」というのは、たぶん「知りたい」だと思う。「好き」の反対は「無関心」だと思うから。さほど好きでない人、むしろ苦手な人のことを「知りたい」とは思わない。だから、「好き」=「知りたい」だと思った。

 私は、彼らがよく雑誌インタビューで聞かれるような「今回の1stアルバムはどんなものになっていますか?」とか、「ツアーに向けた意気込みを」とか、そんな質問より「最近聴いている曲」とか「学生の頃していたバイト」とか、そんな質問の方が、どちらかと言うと嬉しかった。自分でもびっくりしたのは、「コンタクトの度数」。雑誌で聞かれているのを見て、「知ってしまった」という謎の背徳感と高揚感に駆られたからだ。たぶんそれは、身近な質問の方が彼らのことを「知れた気になれる」から。アイドルとしての彼らも大好きだけど、やっぱり遠い存在に感じてしまうから、身近な質問の方が「同じ世界に生きている」という感じがして、ワクワクしたりする。

2.知ってるオタクと知らないアイドル?

 私の推しは2002年10月30日生まれ、現在20歳、血液型B型、趣味はバスケットボールと漫画。サイダーと焼肉が最高に好きで、ポケモンの新作が出たらバージョン違いを複数買いしてやり込む。身長は171cmと公式HPに書いてあるけれど、たぶん少し盛っている。ローランド様に憧れていて、地元沖縄のラーメン屋さんのもやしナムルが好き。去年の夏にMacBook Proの16インチを買ったけど、もはやオブジェ化していて、使いこなせていない。ブラックコーヒーとカフェオレは飲めなくて、パンorご飯だったら断然ご飯派。学生証の写真はあまり盛れていない。

 という感じで、私は彼のことをメモしている。テレビやラジオ、雑誌、YouTubeなど、本人の口から出たものを書き留めて、彼を知る手がかりにしたいからだ。たぶん、アイドルから見たら怖すぎるオタクの言動だと思うのだが。

 オタク常套句として、「私(オタク)はアイドルのことを知っているのに、アイドルは私のことを何も知らない」というのがある。しぬほど聞いた文言だ。でも私は、「オタクはアイドルのことを知っている」とは思わない。それはただ、「知っているつもり」なだけだと思う。

 アイドルの世界は厳しいはずだ。基本的に陰は見せず、明るくて楽しいところだけ魅せる。つまり、私たちが見ているのは彼らのほんの一部。そんな一部だけを見て知り、私たちが得られる情報だけで彼らを「知っている」なんて、大仰で傲慢だ。

 私が彼のファンだからといって、彼のことを知った気に、分かった気になりたくない。だから、「私はアイドルのことを知っているのに、アイドルは私のことを何も知らない」の文言は間違いではないけど、個人的にあまり好きではない。

3.どうやっても知り得ない

 現場に行くと、私はいつも「彼はどんな気持ちでステージに立つんだろう」と考えてしまう。いくら時間やお金をかけたって、どれだけ彼のことが好きだと言ったって、どうやっても知り得ないその気持ちを知りたくなる。そして、その気持ちを勝手に推し量って決めつけてしまいたくなる。好きゆえにそんな気持ちの、奥の奥まで知りたくなってしまう。

 この間、真横から推しを見る、という経験をした。ステージ下からリフターで登場した推しの背中を見て、「こういうの、普通は『背中大きいね』とか言うべきなんだろうな(笑)」と思いつつ、そんな小さな背中で何を背負って、何を抱えて生きてきたんだろうかと、変なことを知りたくなってしまった。まだ20歳の男の子、時に背負いきれない大きなものがあろうとも、どうにかしてあんな小さな背中に背負っているであろうこと、ごめんねと、彼の生きる力を蝕むものはなんだろうと考えた。

 つい、知りたくなってしまう。知りたいと願ってしまえば、知りたくてたまらなくなる。私の何を懸けても知ることのできない、彼の気持ちをどうにかして知りたくなってしまう。

 知りたくなるのにできないから、今度は「きっとそうだろうな」「こう思ってんだろうな」と推測して決めつけたくなる。たまにアイドルがふと見せる、残酷さやマイナス感情があって、そういうものの一部だけを目の当たりにした時、私たちは、その気持ちが彼らの隠した感情の全てだと思い込む。そして、彼らのことを全て知った気になってしまう。彼らに同情したつもりになって、ただただ、彼らの本当の感情も知らずに、一方的に決めつけてしまう。怖いことだ。そうやって推し量って決めつけて、勝手にわかった気になるのは怖い。

4.「好き=知りたい」

 「どこまでいったらその人のオタクと言えるのか?CDを買い込んだら?グッズを買ったら?はたまた、その人にしか持たない感情を持ったら?」。私はこの質問の答えが、「その人のことを知りたいと思ったら」だと思う。オタク観なんて人それぞれだから、別に、これを全アイドルとオタクの正解にしろなんて言わない。でも、私は「知りたい=好き」だと思うから、何か一つでも知りたいと思ってしまえば、もうその人のオタクなんだろうと思う。
 
 私は「推しのことを知りたい、つまり好き、だから私は彼のオタクである」と嘘偽りなく断言できる。そして、私は彼のことが好きな自分に誇りをもっている。

 彼のことが好きだ。その事実は私の自信になり、強みになり、励ましになる。「好き」にはとんでもない力があると思う。だから彼をずっと好きなままでいたい。そして、彼のことを知らないままでいたい。知らないまま、ただ、懸命に生きる彼を応援したい。いつか、彼がアイドルとしての生涯を終えるときまで。