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【OAK】あっという間に借金2桁【月刊ポジアス5月号】

久しぶりの勝率5割に到達したと思ったら、気づいた瞬間には借金2桁

現地5月4日、アスレチックスはものすごく久しぶりに勝率5割に到達しました。

しかし、どうでしょうか。5月が終わっている頃には、アスレチックスの借金は13に膨らんでいました。

20得点を挙げたマーリンズ戦の大勝からは6勝18敗と、その大ブレーキっぷりは顕著。いったいアスレチックスに何がおきたのでしょうか?

ブラックバーンがいないと勝てない

一言で言えば、先発投手に怪我人が相次いだことが転落の最大の原因です。

ジョー・ボイル 背中の故障で5/6にIL入り
ポール・ブラックバーン 足の故障で5/11にIL入り
アレックス・ウッド 肩の故障で5/13にIL入り
ロス・ストリップリング 肘の故障で5/25にIL入り

このように開幕ローテのメンバーが4人が5月にかけてIL入り。JP シアーズを残してローテが全員入れ替わるという惨事が起こりました。

パフォーマンスが不安定だったボイルとウッドはともかく、ローテの屋台骨を支えていたブラックバーンとストリップリングの離脱は特に響きました。

ブラックバーンは防御率4.11/fWAR0.4、ストリップリングは防御率5.82/fWAR0.7と、エリートスターターと言うほどの投手ではありません。しかし、1先発あたり5イニング以上を調子の良し悪しにかかわらず消化できる安定感は、なかなか代替が難しいものです。

特に「ブラックバーンがいないと勝てない」という昨年からのジンクスは強化される一方。

今年ブラックバーンが健在だったときは18勝22敗で勝率.450。今年ブラックバーンがいなくなってから5月が終わるまでは5勝14敗で勝率.263。去年の数字も見てみると、健在時は40勝67敗で勝率.373。不在時は10勝45敗で勝率.181という有り様です。

昨年からのトータルで見ると、健在時は勝率.394に対し、不在時は勝率.202という惨状。ブラックバーンがいる時は「普通に弱いチーム」なのですが、いなくなった瞬間に「アホほど弱いチーム」に変貌するということです。

とはいえ、他にも要因があるのは確か。昨年開幕からブラックバーンを欠いた春先は、そうでなくとも歴史的ペースで負けていました。ただ、その歴史的なペースで負けた昨年の春先、そして今年の5月の不振も、原因は先発投手がいなくなったことにあります。

集計してみると、ブラックバーン不在時のローテ防御率は6.46に対し、健在時は5.01まで落ち着きます。

あくまでジンクスという側面が強い「ブラックバーンがいないと勝てない」というこの泣き言。しかし、アスレチックスのローテでは一際パフォーマンスが安定しているブラックバーンがいないことによって数字の見栄えが悪くなるのは確実にあります。さらに長いイニングを消化できるブラックバーンがいなくなることによってブルペンの負担がかさみ、それが全体的に悪影響を及ぼしているという仮説は、一概には否定できません。それにもはやチームの精神的支柱となったブラックバーンがもたらす”存在感”というような、数字に現れない貢献もあることでしょう。


勝率5割の歓喜から一転、苦杯をなめることになった5月。やはり先発投手を欠いたことが最大の苦境でした。その他にもそれまでメジャートップクラスだった本塁打生産のペースが落ちたこと、ミラーの神通力が落ち着いたことを始めブルペンが比較的息切れしたこと、原因は複数あります。

しかし!!!!!

なんだ結局、今年もドアマットかい…と落胆するのはまだ速いと信じています。

これは私の印象論に過ぎませんが、アストロズとロイヤルズらに喫した泥沼の8連敗以外では、健闘の多かったのが5月中旬~下旬でした。そして、チームは負け続けながらも、素早くリカバリーの体制を整えられたと評価できます。


今後のポジアスポイント:若手スターターたち

何を見てポジっているかといえば、もうこれです。これに尽きる。先発ローテーションを埋める若手投手が出てきました。

特にその筆頭格と言えるのがジョーイ・エステスです。

ブラックバーンがIL入りした5/11に入れ替わりでローテーションに入ったエステスは、5先発で防御率4.67というパフォーマンス。ただ、3.2回8失点と炎上した5/16のアストロズ戦を除けば、防御率2.31にまで見栄えが良くなります。特に直近6月6日のマリナーズ戦では6回パーフェクトの投球を見せました。

そしてxERAも3.09となかなかの数値。四球率とボール球スイング率の優秀さが示されているように、コマンド良くゾーンにボールを集め、ボール球を追いかけさせるのも上手いのが特徴です。

元来評価が高かった変化量豊富な4シームが被打率146とハマっており、さらに模索を続けてきたブレーキングボールもクオリティが上がっています。弱冠22歳でこの完成度か!と思うと、キーボードをポジり叩く手が止まりません。


そして、ミッチ・スペンスも徐々にパフォーマンスが仕上がってきました。

ルール5ドラフトでチームに加入し、ロングリリーフとして開幕から活躍してきたスペンス。ローテに怪我人で穴が空いたときは、スペンスをついに先発で見られるとポジティブな心境もあるにはありました。

先発に回ってからは、4先発19イニングで防御率3.32というパフォーマンス。最初の2先発では早めに降板しましたが、徐々に長いイニングを投げられるようになり、直近2先発では5回以上を投げきっています。

スペンスは、速球系をほぼ投げず、グニャグニャと曲がるカッター・スライダー・カーブを主に投げる風変わりなスタイルの持ち主です。先発では変化の大きさ故にボール球が増え、球数が嵩むこともしばしばあります。

個人的にはシンカーの変化量を増やした上で、もっと投球割合を増やせばというところです。ブレーキングボールの質やレパートリーは元所属のヤンキースで活躍するクラーク・シュミットやマーカス・ストローマンに近く、彼らのような横のシンカーがあればもっと面白いかと思います。

ただ、それでもリリーフ時から通用していたブレーキングボールの質は高く、それだけである程度やれているのはポジティブな点です。


さらにスポット先発からローテを掴みかけているホーガン・ハリスも、2先発11.2イニングで自責点わずか1と抜群のパフォーマンスを見せています。

期待値系指標は芳しくないハリスですが、4シームへの自信を身に付けたことで試合を作れるようになっています。

確かに4シームは球速・縦変化量ともに向上しており、被打率は.171をマーク(xStatsは省略…)。スプリングトレーニングでは真っ先にオプションされるなど、序列が低かったハリスですが、ここにきて何かを掴んでいるのは良い兆候です。

さらに膝の故障で出遅れていたルイス・メディーナも、復帰戦でブレーブス打線相手に好投。剛腕がついに今年開花するかもしれません。

そして、忘れてはいけないのが、JP シアーズです。シアーズは5,6月は防御率3.35と、チームの危機を救うべく調子を上げてきました。先ほど「ブラックバーンがいないと勝てない」と言いましたが、ブラックバーンがいない間も一人でローテを支えてきたのがこのシアーズ。シアーズがいなければ、どうなっていたかと思うと、寒気がします。

6月9日までの12試合で、アスレチックスの先発ローテは防御率2.66をマーク。12試合中6試合で1失点以下の投球を披露しています。


今後のポジアスポイント:コア、固まる

5月の月間成績

これは各打者の5月の月間成績(規定以上)です。

規定に到達した打者は全員がwRC+120を超えています。さらに5月にfWAR1.1以上を記録した選手はそもそも21人しかいません。fWAR1.1超えの選手を3人も輩出しているのは、アスレチックスの他にヤンキース(ジャッジ/ソト/ボルピー)しかいません。これはすごいことです、本当に。

この中でも特にサプライズなのが、マックス・シューマンだと思います。

シューマンはダレル・ハーネイズとニック・アレンの故障によって、正遊撃手に繰り上がり。慣れない遊撃守備で苦戦するシーンも多々ありながら、打席では立派に結果を残し続けました。

上位2%に入る優秀な選球眼をベースとした打撃貢献はもちろん、マイナーでは52盗塁を記録した走塁力でも存在感。さらにOAAはプラスに好転するなど、遊撃守備もみるみる間に良くなっています。


中でもJJ ブレデイの進歩は、今後のチーム編成を考える上では大きいです。

ブレデイはシーズン通してもwRC+130を記録。完全に一皮むけた成績を残しています。

さらにセンター守備でもOAA・DRSは共にプラスマイナスゼロ。身体能力はずば抜けていないものの、正確な強肩と、今年は打球への反応やルート取りが向上。見るからに堅実な守備ができるセンターへと成長しました。

”中距離打者で堅実な守備力も誇る左利きのセンター”というとある人物にそっくりだなと思います。まさしく、我らが”コツ浪”ことマーク・コッツェイ監督の現役時代です!

Minor League Ballより

マーリンズから全体1桁で指名を受けてプロ入りした点も同じというブレデイに、コッツェイ監督は自分を見ているとは言わないまでも、同系統のプレイヤーとしてブレデイのことをよく理解しているように感じます。

コッツェイ監督は、スプリングトレーニングからブレデイを最優先でセンター起用していました(昨年膝の故障があったにも関わらず)。コツ浪いわく「このオフシーズンはこれまで以上に頑張れ」とオフシーズンに入る前にブレデイには相当言いくるめていた様子

今のところその成果は存分に発揮されています。

エステウリー・ルイーズのためにショーン・マーフィーを放出し、マット・オルソンで獲得したクリスチャン・パチェを見限った伝説のムーブを筆頭に、アスレチックスの次代のセンター育成戦略は完全に失敗に終わっていました。

両翼へのコンバートの可能性もあったブレデイが、不動のセンターとして台頭したのはチーム編成上大きいどころの話ではありません。


ニュース①:不死鳥ブルックス、再びオークランドへ舞い戻る

5月のローテ崩壊とチーム転落は誰しもが望まなかった結果でした。しかし、その一連のドタバタは心温まるカムバックを結果的にもたらしました。

33歳のアーロン・ブルックスが自身三度目となるアスレチックスへの復帰を果たしたのです。

ブルックスが最初にアスレチックスに加入したのは、実に10年近く前のこと。2015年のトレードデッドラインで、ベン・ゾブリストの対価としてショーン・マナエアと共にロイヤルズから加入しました。

2015年、ブルックスはキャリアで初めてメジャーリーグのローテーションを回すことになります。しかし、その直後、2016年の開幕前にブルックスはカブスにトレード(クリス・コグランの対価)されてしまいました。

その後、ブリュワーズを経て、2018年にブルックスはアスレチックスに復帰。そして、2019年のスプリングトレーニングでは怪我人続出と好投のおかげで、開幕ローテーションの椅子をゲットします。

しかし、そのときも目立った結果を残すことなくDFA。その後はオリオールズ、韓国球界、カージナルスを転々とし、昨年はパドレスのAAAでシーズンを送りました。

昨年は一度もメジャーで投げることなくFAとなったブルックスは、オフの間、自身の進退について悩みました。

だいたい契約が決まる時期である12月になってもオファーはなく、3人の子供を抱えるブルックスは引退を覚悟しました。

2月になってもオファーがなかったブルックスは、2度の在籍で旧知の間柄にあるデビッド・フォーストGMにテキストメッセージを送ったそうです。そのGMへの直接の売り込みが功を奏し、ブルックスはアスレチックスとマイナー契約を締結。

ブルックスは打者天国のAAAで、43.1イニング投げて被本塁打0と健闘。怪我人続出のメジャーからお声がかかり、5年ぶりのアスレチックス復帰を果たしました。

ルイス・メディーナの復帰に際してDFAとなり、再びAAAラスベガスに戻ったブルックスですが、見事に穴埋めの役目を果たしたと言えます。

アストロズに対するHQSを含む、4先発で2度のQSは立派です。過去2度の在籍時から全く変わらないストライク先行のゲームマネージメントも見事でした。

時間を経っても変わらないブルックスの投球と、3度の在籍がそれぞれ全く違うチーム状況だったことを思うと、ふとブルックスがフリーレンのようにも見えてきました。ノスタルジックな気分に浸ったブルックスの4回の先発登板でしたね。

ニュース②:激震!マイケル・ケリーが野球賭博で1年間出場停止

トゥクピタ・マルカーノ(元パドレス/パイレーツ)の永久追放が衝撃をもたらした、最近の野球賭博スキャンダル。永久追放となったマルカーノ以外にも、複数の選手が1年間の出場停止処分を受けました。

出場停止処分を受けた選手の中で、今年最も活躍していたのがアスレチックスのマイケル・ケリーでした。

ケリーは今年、28登板で防御率2.59を記録。ビハインド時に複数イニングを消化することもあれば、勝ち試合でもきっちりと仕事ができる、数字以上の使い勝手の良さで存在感を示す投手でした。ハードヒット率20.4%はメジャー1位(50BBE以上)と、実力もピカイチだったと思います。

しかし、そのブレイクイヤーの最中、無情にも出場停止処分は下りました。

ケリーが罰せられた発端は、まだアストロズ傘下のマイナーリーガーだった2021年10月に行った10回の賭博。

ケリーは総額99.22ドルを賭け、賭けには勝って28.3ドルを得ました。

そしてその結果、74万ドルの今季年俸と、彼のキャリアにとって待望のブレイクイヤーを失うことになりました。

もちろん規則は規則ですし、野球賭博まわりのルールは特にMLBが潔癖である部分です。わずかな額のために多くを失ったことは、愚かとしか言いようがありません。

ただ、同情を禁じ得ないのもまた事実です。

ケリーはもともと、2011年ドラフト全体48位でパドレスに入団した有望株。しかし、先発投手としては芽が出ず、2017年オフにマイナーFAとなります。2018年はオリオールズ傘下でプレーしますが、防御率は8.42と壊滅的な結果に終わります。

2019年は独立のアトランティックリーグに活路を求めました。しかし、独立リーグでも20登板(17先発)で3勝8敗、防御率5.34という成績に終わります。

そして、2020年はコロナ禍がやってきます。2021年はアストロズのAA/AAAで投げて好成績を残しますが、メジャーへの昇格は叶いませんでした。

ケリーが賭博に手を染めた2021年10月というのは、そういうタイミングだったわけです。

マイナーリーガーはシーズンが終われば、アルバイトを掛け持ちして生計を立てる場合も多いものです。AAAでもそこそこの結果を残したとはいえ、もう既に29歳。独立リーグで奮わなかった2019年、コロナ禍で何もできなかった2020年を経て、良いシーズンを送ったものの再びFAとなり、来年も野球を続けられるかはわからない状況。

きっとメジャーリーグなど、想像もつかないほど遠い位置にあったのではないでしょうか。

野球賭博が許されないというのは重々理解した上で、40人枠外のマイナーリーガーを恐ろしいほど冷遇し、彼らを守るルールや仕組みは全く作らな一方で、彼らに対しては重い罰則でルールの遵守を強要するというMLB機構のスタンスは、なんだかなという感じです。

ケリーがアスレチックスのブルペンに戻ってくれば良いなと心から思います。





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