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【OAK】アスレチックスがラスベガス移転に大きく近づく
アスレチックスは先日、ラスベガスに球場建設用の土地を購入する契約に合意したと発表しました。
新球場計画を主導してきたデーブ・カバル球団社長は「私たちはラスベガスに全ての力を注いでいく。」とし、これまでラスベガス移転案と並行して進めていたオークランドにおけるハワードターミナル案を諦める姿勢を明らかにしました。
これを受けてオークランド市長のタオ氏は、ジョン・フィッシャーオーナーサイドとの交渉を打ち切ることを発表。
これでオークランド・アスレチックスがオークランドに留まり続ける可能性は、本当に低くなってしまいました。
ハワードターミナル案は時間切れ。より早く球場を欲したA'sとMLB
2018年に発表されたロマンあふれるハワードターミナル案は、もともと2023年に開場を予定していました。
しかし、開場予定だったはずの2023年現在、ハワードターミナルには一本のシャベルも入ることはありませんでした。
ハワードターミナル案を諦めざるを得なかったのは、あまりに時間がかかりすぎたため、とカバル社長は語ります。
確かにハワードターミナル案は数多くの障害に晒されてきました。
環境問題への対策が遡上に上がった際にはEIR(Environmental Inpact Report)の承認にとてつもない時間がかかりました。
地元の権利保有者との間で抱えた訴訟も数知れません。
しかし、ハワードターミナル案は数多の障害に晒されながらも、今のところその全てをクリアしてきました。
ただ、そのハードルを超えるにはあまりにも時間がかかりすぎたのです。
「(オークランドに)私たちは6年と1億ドルを費やした。ここから開場までまた7,8年かかるかもしれない」とカバル社長は声明の中で述べています。
アスレチックスを焦らせていたのは、MLBと設定した2024年1月15日の”デッドライン”です。
ベイエリアというビッグマーケットに属しているから、と一旦は収益分配の対象から外れていたアスレチックス。
しかし、2022年の新CBAの下、条件付きで収益分配の対象に加わることが決まりました。
その条件が2024年1月までに、新球場についての合意に達するということでした。
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コミッショナーであるロブ・マンフレッドは、かねてから32球団へのエクスパンションを目指しています。
しかし、エクスパンションの前にアスレチックスとレイズの新球場問題を解決しなければならないとしていました。
エクスパンションという野望を抱えるマンフレッドにとっての焦点は、オークランドに球団を残すこと以上に、早急にアスレチックスの新球場問題を解決するということであったはずです。
”デッドライン”までに合意に達しなければ、アスレチックスは再び収益分配から外れることとなります。
カバル-フィッシャー体制は当初、”Rooted In Oakland"(オークランドに根差す)というスローガンを打ち出し、オークランドに新球場を建てることに拘っていました。
しかし、2021年にはそのスローガンを撤回。オークランド残留よりもオークランドとラスベガスのどちらでもいいからより早い合意を目指す姿勢に完全にシフトしたのは、このデッドラインの影響が大きいでしょう。
ラスベガス移転計画への疑問
驚くべきことは、ハワードターミナル案は時間をかけながらも数々のハードルをクリアして前に進んでおり、それにもかかわらず移転が決定されたことです。
ゆっくりではあったものの着実に前進していたハワードターミナル案を投げ売ってまでもラスベガス移転を採るほど、ラスベガスでは早期解決が望めるということなのでしょうか?
少なくとも、私にはそうは思えません。
ラスベガス案は「建設予定地の土地買収契約が決まりかけている」ということ以外は何も決まっていないも同然です。
6月上旬に終わるにラスベガスの議会に新球場計画はかかるそうですが、まだ計画の詳細は発表されていません。
ただ、報道によって明らかになっている部分が、アスレチックスは5億ドルの公的資金をラスベガス側に求めているということです。
ハワードターミナルでもそうだったように、公的資金が新球場を巡る自治体側との論点であることには変わりがないようです。
そして、その公的資金の拠出こそが、ラスベガス移転の可否における最大の疑問になります。
ラスベガスは2020年からNFLレイダースの本拠になっています。レイダースは移転に際して、アスレチックスの新球場計画予定地にもほど近い土地にアレジアント・スタジアムという新しいスタジアムを建設しました。
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このガラス張りの豪華絢爛なスタジアムには、記録的な7億5000万ドルもの公的資金が投入されました。
このレイダースの新球場への公的資金の拠出があまりにも大きかったために、自治体にはアスレチックスのために再び公的資金を捻出することに対して否定的な見方もあるようです。
レイダースの新球場建設に尽力したスティーブ・シソラク元ネバダ州知事は「これ以上スタジアムを建設することはできない」とコメントしていました。
そして、レイダースの時のように公的資金を当てにしているのだとしても、状況が違います。
レイダースの新球場が開場したのは2020年。自治体と球団は2020年のパンデミック以前に合意に達していました。
しかし、パンデミックを経て、観光産業がメインのラスベガスは大きなダメージを受けました。
観光客を当てにし、ホテルの宿泊税から資金を回収しているレイダースの新球場計画も、宿泊税の増税を余儀なくされています。
果たして自治体がパンデミック前と同じような羽振りでいられるかは、大きな疑問です。
*余談
カバル社長が引用しているレポートでは、アスレチックスの新球場は年間40万人の新たな観光客を見込んでいるとのこと。
ホーム開催81試合たり約5000人が外部からラスベガスに訪れるとの試算で、そもそも5000人も客が入っていない現状のコロシアムからすれば、楽観的に思えます。
そして移転には30球団のオーナーの内、75%の承認が必要となります。
オーナーからの承認もハードルのひとつになるでしょう。
というのも、アスレチックスがオークランドを去れば、北カリフォルニアの市場はジャイアンツが独占することになります。
南カリフォルニアを分け合うドジャース・エンゼルス・パドレスの3球団にとっては、ジャイアンツがさらに巨大な市場を手にすることも、南カリフォルニアにほど近いラスベガスにアスレチックスが移転するということも、どちらも面白いことではありません。
実際、1990年代に似たような状況で、ジャイアンツのフロリダ移転が阻止された事案がありました。
当時のジャイアンツはベイエリアでの新球場計画に4回失敗し、ついにチームをフロリダに移転させる新しいオーナーへの売却を試みました。
対する当時のアスレチックスは超強豪・超人気球団であり、市場の独占を危惧した当時のナショナルリーグ会長とドジャースのオーナーであるピーター・オマリーの呼びかけによって、ジャイアンツの売却&移転は未然に防がれました。
31年前に起こったことと、今回で比べると、南カリフォルニアの3球団が反対票を投じる妥当性はより高いのではないでしょうか。
*余談
結局ジャイアンツは地元の富豪に売却されることになります。その際新しいオーナーグループが要求したのが南ベイエリアに位置するサンノゼの領有権。当時は移転など考えもしないほど順風満帆だったアスレチックスは、サンノゼを快くジャイアンツに譲りますが、これが後々尾を引くことになります。2000年代に入って当時のジャイアンツとちょうど立場が入れ替わったように転落したアスレチックスは、サンノゼへの移転を試みます。しかし、ジャイアンツはアスレチックスに譲られたサンノゼを固く譲らず、コミッショナーのバド・シーリグもジャイアンツの肩を持ち、サンノゼ移転案は頓挫してしまいました。シーリグ元コミッショナーはこれ以外にも、2004年にアスレチックスが売却された際も、レジ―・ジャクソン率いる投資家グループとジョー・ラコブを差し置いて、提示額では劣っていたルー・ウルフにアスレチックスを渡しました。ウルフとシーリグが大学時代の学友だったためです。これが後にアスレチックスがジョン・フィッシャーの手に渡る原因でもあり、アスレチックス買収に失敗したラコブはNBAウォリアーズを買収。惜しみない投資で強豪球団を支えています。シーリグはアスレチックスファンにとっては天敵ですね。
ジョン・フィッシャーの冒涜
"戦犯"を挙げるとすれば、やはりオーナーであるジョン・フィッシャーになります。
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球団社長のデーブ・カバルを糾弾する声もありますが、個人的にはそこまで責める気にはなれません。
カバルが来たおかけで新球場問題は大きく進展しました。
これまではビリー・ビーンなどが新球場問題の交渉にも当たっていたことを考えれば、カバルというスペシャリストの存在感は大きかったです。
もし、カバルに課せられたタスクが「是が非でもオークランドに留まり、球場を建てる」ことであれば彼がそれを完遂した可能性は高いと思います。
ただ、実際に課せられたタスクは「より早く新球場を手に入れる」ことであり、自治体に多くの金銭負担を求める方針も、事態を複雑にしました。
当然、カバル以上に責めを負うべきはフィッシャーでしょう。
フィッシャーがMLBのオーナーの中でも屈指の資産を誇りながらも、アスレチックスが最底辺のペイロールに喘いでいたのは有名な話です。
ただ、ここまでの非情なペイロールの切り詰めも、新球場計画のためと思って大目に見ていた部分はありました。
コロシアムの土地買収などの100Mにのぼるハワードターミナル案への投資、コロナ禍による経営不振などを考えれば、収入に見合わない巨大ペイロールを展開することは確かに難しかったかもしれません。
しかし、2018年からプレーオフに続けて進出した当時のチームは、もっとマシなペイロールが与えられて然るべきで、一斉に解体されてほしくなかった、との思いは今でもファンの中にあります。
そして移転がほとんど決定的なものになった今、ついぞフィッシャーが自分の懐以外を顧みることはありませんでした。
オークランドを去るというファンにとっては致命的な決断の裏にあるのも、デッドラインまでに合意を取り付けられなければ収益分配を失うという、ごく矮小な事情でした。
デッドライン超過のペナルティが収益分配以外(ドラフトのCBP没収のみ等)のことであれば、フィッシャーは気にも留めなかったことでしょう。
フィッシャーが愚弄したのはチームやファンに留まらず、市政に対してもそうでした。
恐らく新球場計画に前向きだったリビー・シャーフ前市長が退任したタイミングでオークランドを見切ったのでしょう。タオ新市長に切り替わった市政側には冷淡でした。
直接タオ市長がコミッショナーと交渉しないように申し出、ハワードターミナル案のインフラ問題が一部解決した直後に交渉途中だったにも関わらず、フィッシャーからの電話で一方的に今回のニュースを伝えるなど、ハワードターミナル案を終わらせるために周到に動いていました。
もっともフィッシャー自身が直接電話したのも、交渉の調停人から流石に失礼だと諌められたからだったと言います。
John Fisher called Mayor Thao only after mediator Steve Kawa told Fisher it was disrespectful to not reach out to her directly, according to Hanson. Fisher told Thao he wanted to keep a line of communication open; Thao declined, saying she had gotten the clarity she needed https://t.co/ZesJ8IdHRW
— Alex Shultz (@AlexShultz) April 20, 2023
タオ市長の怒りも当然で、アスレチックスがこのニュースを公表してまもなく、タオ市長はフィッシャーオーナーサイドとの交渉打ち切りを発表。
あくまでアスレチックスとの交渉打ち切りではなく、新しいオーナー体制とは喜んで交渉に臨むと言っていることからも、フィッシャーへの不信感が伺えます。
驚くべきは、GAP創業者であるフィッシャー家は、典型的なベイエリアに根差した一族であることです。
そのフィッシャーがここまで本拠ベイエリアのコミュニティに喧嘩を売った挙げ句、出ていくということには驚きが隠せません。
自分の懐を潤すためならば、恥も外聞も一切を恐れないというストロングスタイルには、呆れや怒りを通り越して感心すらしてしまいます。
移転しても貧乏球団のまま?
日本在住のファンとしては、たとえオークランドのチームでなくなったとしても、ラスベガスに移転してペイロールが増えれば良いじゃないかという見方もあると思います。
ただ、私はそこまで楽観的ではありません。
ハワードターミナル案への期待感の源にあったのは、そのスケール感やロマンのみならず、収入改善の兆しでした。
カバル球団社長は「ハワードターミナルの新球場から期待できる収入によって、球界Top10レベルのペイロールを展開することは間違いなく可能」と語っていました。
球場の建設のみならず、周辺の不動産や小売事業の開発も担うはずだったハワードターミナル案では、見込まれる収入は大きなものでした。
全米6位のビッグマーケットであるベイエリアに本拠を置く恩恵を受けることができたはずで、メジャー1位だったこともある全盛期ほどとは言わずとも、観客動員の回復も期待できたでしょう。
しかし、ほとんどが白紙のラスベガス計画には、その保証はありません。
むしろ全米6番目のビッグマーケットだったベイエリアを去り、全米40番目のミドルマーケットであるラスベガスに移転するというリスクがあります。
そして、現在でも53Mと同地区ライバルに比べたら少ない地元放送局からの放映権料は、ラスベガスではさらに少なくなることが予測されています。
バリースポーツの破産申請に代表されるように、ケーブルテレビの収益は大きな打撃を受けており、放映権料バブルが弾けてしまったためです。
収入面が未知数となると、貧乏球団からの脱却というかねてからの念願の実現には黄信号が灯ります。
ジョン・フィッシャーが収入の増加なしに、まともなプロチームのようなペイロールを与えることはありえないでしょう。
その裏付けとなる実例は彼自身が作っています。
ベイエリアに本拠地を置くMLSサンノゼ・アースクウェイクスは2015年に新球場の開場に成功しました。
しかし、期待されていた金回りの改善は新球場開場後もなく、未だにリーグ最低クラスのペイロールで戦っています。
このアースクウェイクスのオーナーがジョン・フィッシャーであり、そして新球場の建設に関わったのがデーブ・カバルだったのです。(カバルはこの実績を買われてA'sに来ています)
もし、ラスベガスに新球場が建つならば、フィッシャーとアスレチックスはかつてジェフリー・ローリアとマーリンズが辿った結末をなぞる可能性が高いと思っています。
公的資金に大きく依存したマーリンズ・パーク(現ローンデポ)建設を成功させ、ローリアは形ばかりの大型補強を敢行。わずか1年でペイロール縮小に転じ、ファイヤーセールを行いました。そして数年後には球団ごと売り払っています。
*余談
NFLレイダースはラスベガス移転後に大きく収入を伸ばしました。スタジアムの収容人数自体は多くないものの、単価がその分高いという図式はアスレチックスもレイダースの先例を踏襲することになりそうです。収入増も同じであれば良いですが、レイダースのファンベースの強固さは全米でも屈指のもの。ここ26年で二度の移転を経験しているにも関わらず、”ブラックホール”と呼ばれるファンの忠誠心は変わりません。これにはアメフトは週1開催のため、ファンからしても”遠征”のハードルが低いことが関係していると思います。アスレチックスが収入を増やすためには、ラスベガス市民のハートを掴むことが肝要になってくるでしょう。
私の思うところ
私は日本在住のファンで、まだオークランドで試合を見たこともないぺーぺーですが、想像以上に失望感は募りました。
「テセウスの船」という有名な逸話があります。
選手の入れ替わりが激しいMLB、こと3年周期で選手が総入れ替えになるといっていいアスレチックスは、まさしく全てのパーツが違うけれど名前だけは同じ船です。
だとしたら、アスレチックスがアスレチックスたるアイデンティティは何かと言うと、オークランドというフランチャイズとオークランドでチームにかかわる人々こそが、その大きな部分を占めると思います。
オークランドのファンはもちろん、地元メディアや地元放送局の馴染み深い面々も、ラスベガス・アスレチックスに同じ熱量で関わることはないでしょう。
単に地理的な問題にとどまらず、彼らこそがジョン・フィッシャーの一番の被害者であり、もうほとほと愛想が尽きたと言っても過言ではないからです。
そして、アスレチックスのひとつ大きな特徴である「マネーボール」時代から続くフロントもその限りではありません。
人気球団からのオファーをベイエリアにいる家族を理由に突っぱねてきたビリー・ビーンも今年初めに第一線から退いています。
つまり、今のアスレチックスから色々な構成要素が抜け落ち、ついに同じ構成要素がジョン・フィッシャーぐらいになってしまった時、すごい陳腐だなと思うわけです。
アスレチックスを”ジョン・フィッシャーがオーナーのチーム”として識別するのって、なんだか違和感があります。
まあ、応援はし続けると思います。自分が応援しているチームが移転を経験するのはかなりレアなことですし、ラスベガス・アスレチックスがどのようなチームになっていくのかを目撃できるのはすごい価値のあることだと思いますしね。
ひとつ”オークランド”・アスレチックスに希望があるとすれば、ラスベガス案が頓挫することです。
前述の通り、ラスベガス案には懸念点が少なくありません。
そもそもアスレチックスが20年間で何回も移転案・新球場案を打ち出し、それが漏れなくおじゃんになっていることを考えると、今回がスムーズに成功するとは思えないのです。
2024年1月のデッドラインに間に合わなければ、フィッシャーは収益分配を失うことになります。
そのときフィッシャーが売却を検討するかもしれません。
そもそもフィッシャーの狙いは新球場によってチームの価値を高め、できるだけ高くチームを売ることにあると囁かれています。
これ以上、新球場計画に無駄金を費やし、赤字を出すくらいならば、既に購入時の1億8000万ドルから12億ドルまで市場価値の上がったチームを手放しても不思議はありません。
参考文献
ヘッダーはYahoo! Sportsより
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