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2020/06/09

ある日、学校で泣いている少女を見掛けた僕は、どうしても彼女を放っておけなかった。放課後の教室で、俯いて涙を溢していた彼女に、僕は声を掛けた。夕暮れが彼女の涙を光らせて眩しい。

僕は彼女の名前すら知らなかった。訊き出すのはなんというか気まずいから、まずは自分から然り気無く名乗る事にした。そうしたら彼女は小さく「──宇賀、瞳」と呟いた。

そこから僕たちがどんな話をしたかは覚えていないが、しばらく話して仲良くなって、そのままカラオケに行った。お互いに、歌える歌がもう無いと言わんばかりに歌った。全てが吹っ切れたような感覚だった。

そして何故か次に服屋に向かった。確か瞳が、気持ちを入れ換える時はまず外から──と言っていたからではなかったか。僕たちはお互いにやいのかいの言いながら、ショッピングを楽しんだ。

だがそこに、真鈴と颯馬が居た。真鈴は瞳を泣かせた犯人と言っても良い女で、颯馬はそれとは別に僕と因縁があった。彼らは交際しているようだった。僕と瞳は、なんとしても彼らには見つかりたくなかったから、こそこそと身をかがめて店の外へと出た。

駅前で瞳と別れた。逃げるようにして走ってきたままの流れで、別れの挨拶もろくにせず。僕は瞳と別の方向へ走り出してから、初めて瞳の連絡先を知らない事に気付いた。振り返っても瞳はもう見えない。

次の日の朝、その駅前で真鈴に会った。真鈴は執拗に僕と瞳の関係について訊いてきて、本当にうんざりした。だが真鈴は何故か僕の連絡先を持っていて、それをどこかに売るつもりらしい。連絡先を人質のようにされた僕は、真鈴にここまでの事を全て話さざるを得なかった。敗北だ。

話を聴いている間もずっと真鈴が茶々を入れてはニヤニヤしていた。心底この女が嫌いだと思った。だから真鈴との会話を適当に終わらせてからも、僕は愚痴の独り言を呟きながら歩いた。そしてそれを学校の1学年上の面倒な教師に見られ、こっぴどく叱られた。理不尽極まりないなと思った。僕は悪いのか?

叱られている間、僕はずっと瞳の事を考えていた。彼女は今、笑っているだろうか。昨日あんなに涙を流して思い詰めていた瞳を見てしまったら、もうあんな顔は二度とさせるまいと思った。今すぐにでも会って抱き締めたかった。僕は瞳に、恋をしていた。

そこで僕は目覚め、そして気付いた。

これが夢だったのだと。


夢日記-200609「瞳の夢」

以上。2020年6月9日、25時1分。

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