ロシアには経済制裁は奏功していないのか?

ロシアに対する経済制裁の有効性が判然としないと言われて久しい。多岐にわたる品目の輸出入停止やSWIFT排除など、通常の資本主義国家では到底耐え難いほどの経済制裁を受けているが、失業率などが上昇しない。このため経済制裁の効果が認められないと懸念する人が少なからず存在する。
しかし、ニュースで報じられている通り、各国の経済制裁の結果、ロシアでは自動車や半導体の生産がほぼ完全に停止しており、これらの産業の末端にある企業は、我々の常識から考えれば、大規模な雇用調整を余儀なくされるか、倒産するはずである。しかし、ロシアではそうならない。これはロシア企業における独特な雇用調整が影響していると思われる。
給与の支払いが困難になったら従業員を解雇する。貸付金の支払いが困難なら倒産する。このような資本主義国家では当たり前に行われる手続きがロシア企業では行われない。
ロシアでは給与の支払いが困難になると、従業員を解雇するのではなく、無給の強制休暇と時短勤務を課す。つまり無給で雇い続けるのである。従業員は余った時間で郊外のダーチャと呼ばれる私有農園で野菜を育て、自給自足を始める。さらに副業として白タク行為を始める者もいる。表向きの給与所得に依存せず、物々交換やヤミ収入に移行することで対応する。
この背景にはロシアにおける失業保険が極めて貧弱であること、失業者登録窓口の態度が悪く、失業者の尊厳に配慮しないなど、国家のセーフティーネットの機能不全が関与している。つまり、不況になるとロシアの労働者には自立自存が求められるのである。
ロシアでは、失業者が失業者登録を行った件数から集計した登録失業率が雇用統計の根幹をなす。しかし、企業は解雇しないし、労働者も窓口で助けを求めないため、登録失業率がいつまで経っても上昇しない。失業率を経済制裁の効果を測る尺度とすると、まったく制裁の効果が上がっていないように見える。このような現象は、ソビエト崩壊直後の経済危機でも、リーマンブラザース破綻直後の経済危機でも認められた。
また、ロシア企業は巨大なオーナー企業であり、企業に出資しているのは、その企業と強い結びつきがあるオルガリヒである。彼らは企業が倒産するくらいなら、自分の財産が若干目減りするのを選択する。よって、ロシア企業は倒産しない。
では、解雇も倒産もなく、ロシアには経済制裁は奏功していないのか?とんでもない。水面下ではロシアの産業構造は着々と破壊されている。制裁の効果は遅効性の毒として作用し、ロシア国内市場は破滅的なインフレとモノ不足に苦しむことになるだろう。

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