なろうランカーの歴史

11日目@なろうアドベンター
https://adventar.org/calendars/5540

前回予告した通り、今回の記事ではランキングの変遷から「小説家になろう」の歴史を振り返ります。
ランキング情報はアーカイブサイトから拾ってきましたが、時期によって集計方法も異なるため、全体的にふわっとしたデータになっていることをご承知おきください。
また、2004年~2005年については、現在と異なるドメインでサイトが運用されていたようで、情報を見つけることができなかったため除外しています。

2006年ランキングTOP10

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ジャンルはまちまち、ざっと見た感じでは、当時流行していた携帯小説の影響が見てとれます。

2007年ランキングTOP10

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引き続き携帯小説優位のランキングです。
この年、ソフトバンクから初代iPhoneが発売されており、ガラケーからスマホへの急激な転換が始まったタイミングとなります。

2008年ランキングTOP10

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携帯小説がランキングから姿を消し始め、今日の「小説家になろう」につながるファンタジー作品の流行が始まったことが見て取れます。
アーカイブで旧サイトデザインを見ていくと、この年あたりからサイトのUI改修が目立つようになってきており、ジャンルへの導線が変わってきたことも影響しているのかもしれません。

2009年ランキングTOP10

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4位に、のちに「小説家になろう」の顔として商業ベースにのった「魔法科高校の劣等生」が登場しています。
サイトのUI改修が更に進み、特にランキングシステムが整理され、このあたりから現在の「小説家になろう」の形が見えてきています。

2010年ランキングTOP10

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「魔法科高校の劣等生」がランキングトップに躍り出ました。
ちなみに、流行作はすぐに模倣される「小説家になろう」にあって、「魔法科高校の劣等生」の模倣はあまり盛んではありません。
「魔法科高校の劣等生」は、細かい設定の作り込みがひとつの特徴になっており、気軽に模倣しづらい内容だったのが原因ではないかと思われます。
なお、この辺りから"毎日、定時に更新を行うことで日別ランキングへの露出が増える"といった、一種のSEO対策の産物がランキングに混じり始めます。

2011年ランキングTOP10

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トップは依然「魔法科高校の劣等生」がキープ。
10位に「ログ・ホライズン」がランクインしています。
作者の橙乃ままれ氏は、2ちゃんねるで連載した勇者もの(「まおゆう」として知られる)をヒットさせており、本作もゲーム世界への転生という流行ジャンルに乗りながら、転生者達の社会性がテーマとして扱われるなど、独自の視点から物語が綴られています。

2012年ランキングTOP10

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「魔法科高校の劣等生」が商業ベースでの出版に伴ってサイトでの掲載を終了。
替わってランキングトップに躍り出たのが「異世界迷宮で奴隷ハーレムを」という、いかにもなタイトルです。
作者名の"捨恥"という名乗りが、恥を捨てて読者の気持ちよい展開に振り切るという作者の覚悟を感じさせます。
この作品は、その後長くなろうランキングのトップに君臨することになります。
内容はタイトルの通り、ゲーム世界に転生した主人公がパラメータやスキルの優位を活かして金銭を稼ぎ、奴隷を獲得していく話なのですが、時間軸を飛ばさずにその過程を日報の如く細かく描写しており、さながらゲームプレイ日報といった風情になっています。
奴隷を獲得するためのシミュレーションも妙に細かく、ダンジョンの稼ぎでは支払期限に間に合わないと見るや、賞金首をストーキングして殺害し、首を売って短期で収益をあげるといった変な世知辛さが魅力と言えるかもしれません。

2位の「理想のヒモ生活」も異世界転生ものですが、こちらは主人公は戦闘などは行わず、血筋を買われて異世界の王族に婿入りするという内容です。
こちらもディティールに独特の味わいがあり、異世界に個人で購入した発電機を持ち込んだり、石造りの城にエアコン設置を自力で行うなど、DIY的な要素が一つの見どころになっています。
DIY要素を端的に表すポイントとして、主人公が異世界に持ち込んだテレビ番組の録画から、たびたび鉄腕ダッシュを参考にしている様子が描写されており、ダッシュ的楽しみを転生モノに持ち込んだ作品といえるかもしれません。
また、異世界の政治劇についても踏み込んだ描写がされており「ヒモっていう割にこいつ結構外交に駆り出されてるな」という作風になっています。

6位の「Knight's & Magic」は、のちにサンライズからアニメ化された異世界ロボットモノになります。
この作品では、中盤に主人公が自分で開発した専用機「イカルガ」が登場するのですが、その回だけ乗機イラストが添えられており、これが書きたかったんだな、というのがよくわかります。
主人公まわりの描写については、なろう作品の例にもれずご都合主義に流されがちなのですが、かませ犬として登場するモブがメインの戦闘描写などはなかなか見ごたえのあるシーンもあり、アニメ化でその辺りがカットされていたのは残念です。

7位の「この世界がゲームだと俺だけが知っている」は、個人的におすすめの作品です。
ゲーム世界に取り込まれた主人公の活躍を描くという、なろうでは定番ジャンルの作品ではあるのですが、取り込まれたゲームがバグだらけのクソゲーで、主人公がバグを利用したハックで活躍するという点が見どころになっています。
バグ自体もいかにもありそうな内容が多く、コンピュータ技術に多少なりとも関わっている人は楽しく読めるかもしれません。

2013年ランキングTOP10

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2位に、のちにランキングトップに君臨する「無職転生」がランクインしています。
「無職転生」は2021年1月クールからアニメ化が予定されており、予習もかねて2014年の項で解説したいと思います。

9位には昨年アニメ化され好評を博した「盾の勇者の成り上がり」がランクインしています。
このあたりで、それまでメインストリームにあったご都合主義作品に対するカウンターカルチャーとしての逆境モノが流行り始めており、「盾の勇者の成り上がり」はそのはしりといえるでしょう。
同ジャンルでは後年アニメ化して人気を博す「Re:ゼロから始める異世界生活」なども連載されていますが、人を選ぶ内容だったからかランキングには長く登場しません。

2014年ランキングTOP10

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ついに「異世界迷宮で奴隷ハーレムを」がトップから陥落します。
奴隷がある程度増えた後は、ひたすら「ダンジョンで日銭を稼ぐ」「奴隷と戯れる」というルーチンを繰り返しており、その過程を特に時系列を飛ばすでもなく日記のように淡々と描写し続けており、相当深刻なマンネリに陥っていました。
感想掲示板でもマンネリのひどさは度々指摘されていたのですが、作者としては恥を捨ててコンセプトを振り切るという自己判断で我が世の春をつかんだ成功体験が忘れられなかったのか、批判の声には耳を貸さず、この後はランキングを再浮上することはありませんでした。

替わってトップに躍り出たのが「無職転生」です。
この作品は、実質的に最後のなろうトップランカーとなった作品で、なろうの最終兵器とも言える作品です。
無職の青年が死後異世界に転生し、過去の生きざまを反省して人生をやり直すという内容なのですが、幼児期から青年期を経て、成人して結婚し、家庭を築くといった人生のステージをかなり濃密に描写した大作になっています。
また、この作品には全編を通して綴られる、大規模なバックストーリーが存在するのですが、バックストーリーが転換点を迎える章立てには必ず"ターニングポイント"というタイトルが振られるという特徴があるので、冬クールのアニメを視聴する際は"ターニングポイント"というタイトルの話数に注目してみてください。
しかし、アニメ化に関する不安点として、ボリュームの問題があります。
ネット連載では尺の問題がないため、描写したいだけ描写をすることができますが、アニメや小説といったメディアでは、1話に1回、1冊に1回といった盛り上がりのペースを考慮する必要があります。
「無職転生」は原作そのままに描写すると、最初のターニングポイントまでにかなりの話数を費やすことになるため、その辺りをどうまとめるのかが制作側の課題になるのではないかと思われます。
ちなみに「奴隷ハーレム」から「無職転生」にトップが交代する間に、年間かなにかのランキングで「理想のヒモ生活」がトップに入った期間があり、「ヒモ」が商業ベースで出版される際に、ランキング1位作品と名乗っていたと記憶しています。

2位にランクインしている「謙虚、堅実をモットーに生きております!」も私の好きな作品です。
この作品は、いわゆる悪役令嬢モノと呼ばれるジャンルの代表的な作品で、最近アニメ化されて人気を博した「乙女ゲームの破滅フラグ(以下略」といった作品もこのジャンルのフォロワーとなります。
なろうでは、取材をしなくても妄想で書けるという理由でファンタジー中世を舞台にした作品が多いのですが、この作品は現代日本の上流階級を舞台にしており、ファッションや生活様式など、一定の取材をして書かれたことが見て取れます。
内容も面白く、読者の支持が厚いこともランキングから見て取れるのですが、作者は作品を発表する以外の情報発信を一切しておらず、おそらく書籍化やアニメ化のオファーなども相当あったはずなのですが、コンタクトのチャネルが存在しないことから、女性向け作品としてはなろうナンバーワンのビッグタイトルであるにも関わらず、手つかずの状態となっています。
連載自体、2017年10月から長らく停止状態にあり、ファンは再開を待ち望んでいるのですが、情報発信のチャネルがないことから作者側の事情は一切不明な状態となっています。
アマチュア作家の作品である以上、執筆を強制する権利は誰にも存在しませんが、この作者とコンタクトを成功させ、商業ベースに作品を載せることができる編集者がいれば、私はその人を英雄と認定します。

2015年ランキングTOP10

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ランキング対策のノウハウが一般化し始め、ハイペースな掲載と、読者を自作の前に縛り続けるだけの分量をこなせる、といった特徴の作品がランキングで目立ち始めます。

2016年ランキングTOP10

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9位に「Re:ゼロから始める異世界生活」がランクインしています。
この辺りからアニメ業界でのなろうバブルが始まっており、アニメ化作品が票を集める形でランキングに影響が発生し始めています。
これ以降ランキングに入ってくる作品の多くは、メディア展開の副次的な効果としてのランクインが目立つようになるため、そういう意味で「無職転生」が最後のなろうトップランカーと表現しました。

以降は個別のコメントはせず、データのみ引用します。

2017年ランキングTOP10

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2018年ランキングTOP10

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2019年ランキングTOP10

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2020年ランキングTOP10

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今回、ざっくりとした累計ランキングを年別でみただけでも、いろいろと見えてくることがありましたが、四半期等のより短いスパンでのランキングを分析すれば、より明確に流行ジャンルの移り変わりなどが見て取れるかもしれません。

最近は、底辺労働者復讐モノ(自分が退職した後、内製システムの運用ができなくなってパワハラ部長が土下座してくる的展開をファンタジーに仮託したジャンル)が流行っているとも聞きますが、累計ランキングの推移だけではそのあたりの傾向は分析できませんでした。

マンガ、アニメ等のメディア展開の様子を見ると、なろうバブルはいまや絶頂を極めている感もあるのですが、サイト側ではここ数年目新しい作品が出てこず、停滞がかなり深刻な状態であるようにも見えます。
ここから閉塞をぶち破るような新しい作品が出てくるのか、カクヨムのようなフォロワーサイトにその座を取って代わられるのか、今後もひっそりと見守ってゆきたいと思います。

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