『花男(はなおとこ)』と『パパ・ユーアクレイジー』 または松本大洋とサローヤン
好きな漫画を紹介したいと思う。
松本大洋の『花男』という漫画だ。花より男子のハナダンではない。ハナオトコである。
松本大洋といえばペコとスマイルのスポ根卓球漫画『ピンポン』や、シロとクロが栄町で自由に暴れまくる『鉄コン筋クリート』が有名だが、『花男』はそれよりも古い今から約30年前の作品になる。
『ピンポン』のペコとスマイル、『鉄コン筋クリート』のシロとクロと同じように、『花男』では小学3年生の花田茂雄(しげお)とその父である花田花男(はなお)の2人の物語だ。
勉強ができて几帳面、大人びてひねくれていて人に厳しい茂雄は小学3年生の夏休み、母親から父親と暮らすように告げられる。父である花男は30歳になってもプロ野球選手になるという夢を追い、離れたところで暮らしている。
子供のように自由奔放で、働きもせず草野球ばかりしている花男の言動に苛立ち反発する茂雄だったが、やがてバカで奔放だが町のみんなから愛されている花男を受け入れ次第に自分自身の価値観や固い頭も解きほぐされていく。
そんな幸せな2人の生活も束の間。ある日、黒ずくめのスキンヘッドの男が花男を迎えに来て…
松本大洋さんの初期の作品となる本作は、癖のある登場人物、どこかメルヘンチックな世界観、独特な絵柄もあって、もしかしたら馴染めなくて拒絶反応を起こす人もいるかもしれない。しかしそんな独特な世界で描かれる親子の絆は、ほのぼのしていてジワジワと暖かく、最後ゾワゾワと感動までさせてくれる。私は読む返すたび、フツフツブクブクと血液が沸き立つのを感じる。
ぜひ子供をお持ちの方に、親をお持ちの方に(だいたいがそうだろ)、老若男女みなさんに、そして全ての野球ファン(特にジャイアンツファンな)に読んでいただきたい作品です!
(ちなみに私はタイガースファン)
さて、この花男を読むといつも思い出す小説がある。
ウィリアム・サローヤンの『パパ・ユーアクレイジー』という小説。
日本語訳は「マルサの女」とか「タンポポ」を監督した映画監督の伊丹十三。あえてなのかはわからないが、全編において直訳風に訳されてる本作は、その訳し方こそが正解だと思えるくらいに見事にハマっている。
この話も『花男』と同じように2人で暮らすことになった父と息子の話だ。
10歳になる息子は海辺の町に住む父親と暮らすことになる。(海辺の町っていうのも『花男』と一緒)
父は小説家だが、そんなに仕事はなく質素に暮らしている。息子に小説を書くように勧め、浜辺でのムール貝の捕り方、料理の仕方、人との付き合い方を教える。それはつまり、小説の書き方であったり、大きく言えば人としての生き方、生きる意味そのものだ。
そんな何気ない日常(実際ドラマチックな出来事はほとんどおこらない)の何気ない父と子の会話、子供目線での父親像を淡々と直訳風の語り口で綴られている。ほのぼのしながらも哲学的でもある。理想の親子にも感じられる。
題名は『パパ・ユーアクレイジー』だが、花男ほどはクレイジーではない。確かに一風変わっていて、近所にいたら変人に見えなくもないが…
花男はほんとにクレイジーで、茂雄も何度となく「クレイジーだ」とつぶやく。
どちらも非常に面白く、おすすめの作品である。
『花男』は全3巻と読みやすいボリューム。『パパ・ユーアクレイジー』も直訳風の語り口に慣れれば、すらすらと読める。
クレイジーなパパを題材にした作品といえば、『パパと踊ろう』って漫画も大好きなのだが、どうやら私はちょっと変わった父親と子供のお話が好きなようだ。そんなに父親の愛に飢えていたわけではないと思うのだが…
『パパと踊ろう』についてはまた改めて書こうと思う。
長くなったが、これを書いていて改めて思う。
私は自分の子供たちに、どれだけ愛情を持って接することが出来ているか、どれだけの愛とユーモアと生きるということを教えられているのか、と。
今日からなります。
子供から「クレイジーだぜ・・・」って言われるような父親に。
パパの方、なんでこんなに高くなってんだろ・・・・